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術比べ

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 術比べの日は晴天に恵まれた。

 おかげでエラ火口周辺はさながらお祭りである。屋台さえ出ている。

 アグニ一族以外の魔術師の姿もちらほら見え、さらに王族っぽい相手も見えた。輿の中にいるので誰なのかは分からないが、おそらく王家と関わりがあるアキッレーオの関係者ーーつまり現国王の祖母、フリヴィア皇太后であろう。フリヴィア皇太后の姪がアキッレーオの母親だったはずである。

 俺は芋を揚げた軽食を買ってそれを食べながら、エラルド教授が用意してくれた特等席といってもいい最前列で術比べの瞬間を待っていた。

 術比べが行われるのはエラ火口に土魔法で作られた長径50メートル程度の円形の広場だ。中央に燃料が集められ火が炊かれている。魔力の供給源としてあるのだが、実際は火山の魔力が周囲に痛いほど満ちているので飾り程度の意味しか無い。ただ、炎で何かの形象を作るきっかけとしては炎は重要で、この炎を種火に竜術や巨人術など派手な術が炸裂するはずだ。

 すでにアキッレーオは魔術師の正装に身を包んで広場にいた。黒いフード付きのマントであるが、その黒さを隠そうとするように至る所に宝石で飾り付けている。首飾りは三重。指など全部に二つ以上指輪を付けているのではないか。大阪のおばちゃんよりひどい。確かに宝石は若干ながら魔力を秘めている場合があり、いざというときに魔力源となるから魔術師は宝石を珍重する。だが、魔力で満ちているこの場ではまったく必要が無い。単に財力自慢でしかない。

 アキッレーオは笑顔で付き人と何か話をしていた。

 余裕ありげに見えるが、実際はそんなことはないだろう。エラルド教授が言うとおり、実力差がはっきりとあり、それをアキッレーオが自覚しているのであれば。

 突然、周囲から歓声が沸き起こった。

 皆の視線を追った俺も、アキッレーオの逆側からフードをかぶったままのアニェーゼが姿を現したのを発見した。

 皆にあわせて俺も精一杯拍手をアニェーゼに送る。

 アニェーゼもまた魔術師の正装である黒いフード付きのマントに身を包んでいた。もっとも宝石は首飾り程度で、アキッレーオのようなおばさん臭さはない。

 だが、アニェーゼがフードを外すと、宝石以上にきらびやかな金髪が現れ、折しも吹いた風でなびいて広がった。風の精霊の金の息吹のようにも見え、息を呑むほど美しい光景だった。

 歓声がいっそう高まる。立ち上がってスタンディングオベーションを始める輩までいる始末だ。

 アニェーゼはそのことに動揺したようにアニェーゼはおろおろと周囲を見回した。

 もともとアニェーゼは人に好かれにくい人間である。

 才能もあり血筋も良く、見た目もいいとなれば人気者になりそうなものだが、苛烈すぎる性格が災いして、好かれると言うよりは恐れられてきた。

 だが、今回は、エートルリア王国の件があるので、一族の英雄的に扱われているのだろう。オリンピックで優勝した人間を褒め称える感じである。

 アニェーゼはそのことが理解できないのか、「え? え? なに??」という感じで視線を泳がせ、その視線が俺を発見して、嬉しそうな表情になった。

 俺を見つけたことでようやく落ち着いたのか、アニェーゼは一度咳払いをすると、アキッレーオの方を向いて、


「じゃあ、とっとと始めましょうか!」


 アキッレーオは付き人を下がらせると、余裕を感じさせる仕草で訊ねた。


「いいのかい、準備もなしで」

「ま、あんた相手ならいいんじゃないの?」


 ぎりっと歯ぎしりしたアキッレーオはすごい目でアニェーゼを睨んだ。


「……私を馬鹿にしたことを後悔するがいい」


 アキッレーオが杖を構え呪文を唱え始める。

 遠目で見ている俺の目にも、アキッレーオの魂魄がそれなりに規則正しい文様を描くのがよく見える。複雑でいながら、リズミカルな文様だ。もっともアニェーゼのように美しくはない。

 中央に置かれた炎が揺らいだ。

 爆発的に炎が膨らむ。一気に十倍ほどの太さになった炎は垂直に立ち上る。

 城壁上でアニェーゼが作り上げた炎竜の二倍ほどの大きさだ。もちろんここは圧倒的な魔力に満ちた火山地帯だから、風に含まれた若干の魔力と火種だけであの竜を作り上げたアニェーゼとは比べるべくも無いが、巨大な炎竜であることは間違いない。おそらく火種の炎に仕掛けがしてあったのだろう。ある種の香を混ぜて魔力を自分になじみやすいようにしてあったのだ。

 見た目はとにかく派手なわけで観衆たちの間にどよめきが走る。

 極太の炎の柱が空に立ち上り、そして突如三つに分かれた。

 別れたそれぞれの柱がうねりながら炎竜の頭部を形成する。

 三首竜のアキッレーオ。

 まさにその二つ名の通りの炎の竜ができあがった。

 俺は驚きながらその姿を見ていた。

 三首竜の方ではない。アキッレーオの方だ。アキッレーオの魂魄に特徴的な三つの文様が発生していたのだ。

 アニェーゼが三首竜について語っていたことを思い出す。


「竜術って、竜で生命を作るのよ」


 もちろん、竜術などと言う高等魔術は使えない俺はリアルに感心しながら「へぇ」とつぶやいた。


「形だけではないんですね?」

「そうよ。といってももちろん偽物の生命だけどね。知性を与えるって方がいいかな。知性を与えて自分を生命だと誤解させるの」

「なるほどなるほど」

「三首竜はその知性を三種類与えているってだけの技」

「……?」

「……あんた魔術はホントにエラルド以下ね。エラルドはそれくらい知ってるわよ」


 当たり前だ。エラルド教授は教授で俺はただの講師だ。竜術なんて理論さえ知らない。


「まぁ、あんたは頭はいいんだから理屈さえ覚えりゃすぐにできるようになる…………わよ、うん、たぶん……大丈夫……じゃないかな?」


 アニェーゼの言葉がなんだか尻すぼみになって、目の前で言われた俺としては非常につらい。

 とにかく、そんなことがあったわけで、つまりあの特徴的な三つの文様こそ知性を構成する魔術なのだろうと推測できた。

 俺は文様を覚えておこうと必死に目をこらす。

 あの文様を魂魄表層に描くことができたら竜術ができるようになるかも知れないのだ。

 そうすればアニェーゼに褒められるかも知れない。

 一方、目の前で巨大な三首竜を作り上げられたアニェーゼは、平然としていた。むしろつまらなそうにさえ見える。

 術比べは交互に魔術を使い、それで勝負を決める。どちらかが負けを認めればそこで終了だし、最悪見学者たちによって勝敗は決せられる。

 アニェーゼはため息を一つつくと、杖を掲げて呪文を唱え始めた。


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