鬨の声
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俺は魔法によって姿を消した状態で、アニェーゼを必死に支えながら飛んでいた。
アニェーゼの身体の折れそうな細さと柔らかさにもやもやした気分になりながらも、とにかく飛翔を安定させることに必死である。
アニェーゼは俺が支えていることにすっかり安心しているのか、「さあ、どうするの?」と問いかけながら杖を再度振るった。
アニェーゼの作り出した炎竜はホスロー皇子の頭上でまさに頭をひとのみにしようと巨大な口を開いた。
震え上がったホスロー皇子の部下たちがまず降服し、最後にホスロー皇子が苦い顔で武器を投げ出した。
ホスロー皇子を直ちに城壁のあちこちで待機していたアグニ一族の魔術師が拘束する。
ようやくホッとした俺は、その瞬間も魔法で姿を消したままアニェーゼを支えながら飛んでいた。その俺の手から、アニェーゼはするりと抜けだし、まるで羽根が舞い落ちるようにスカートをはためかせながら軽やかに城壁の上に降りる。
アニェーゼは城壁にとんと足を付けると、そのまま端に駆け寄り、決めていた合図通りに、手にした杖を高く高く突き上げた。
それを確認した戦闘中のエートルリア王国軍の兵士たちの顔に喜色が登り、戦闘中であるにもかかわらず、いっせいに歓声を上げた。
鬨の声にも似た大歓声だった。
その歓声は悦びを爆発させたそれで、熱気のように俺たちの顔を叩いた。
俺が城壁に降り立つと、アニェーゼは高揚した顔を俺の方に向けて、
「やったわね!」
「やりましたね……!」
俺も城壁の端から落ちないように下を見る。
状況を理解したアヴァール帝国軍が武器を放棄し始めていた。
やった。
俺たちは勝ったのだ。
胸の奥に勝利の実感が立ち上ってくる。なんというか優越感というか、ざまぁみろと中指立てて挑発したいようなそんな感覚だ。
アニェーゼはまだ下を見ていた。
そしてぽつりとつぶやいた。
「エートルリアの人たちを助けられて本当に良かった……」
俺は思わずアニェーゼの方を見た。
その視線に気づいたのか、
「な、何よ……?」
「いや、その」
「はっきり言いなさい!」
「ちょっと自分が恥ずかしくなりました」
「……どうして?」
「いや、下の光景を見ていて、僕は勝ったことが嬉しかっただけなんですが、アニェーゼ様はエートルリアの国民を助けられたことを喜んでいた。なんか自分が情けなくて、それに比べてアニェーゼ様ってほんとうに優しいんだなぁ、と思って……」
アニェーゼの顔がみるみる真っ赤になっていく。
それを俺はなんだかニヤニヤしながら眺めている。




