城塞
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「だからヤヴァイって言ったじゃないですか……!」
「ヤヴァイのはわかるけどさ、悔しいじゃない。何もせずに要塞を差し出すのって。せっかくここまで来たんだし、私は魔法の天才だし、だからうまくいったら皇子をぶっ飛ばして……」
アニェーゼと俺は、ホスロー皇子に対するテロに失敗した後、風の魔術の一つ、透明化で姿を隠しながらこそこそと逃走中である。透明化の魔術は風の魔力が強い場所でしかできないが、一度発動すれば二時間ほど効果が保つのが便利だ。
失敗してもなお、アニェーゼの夢見がちなセリフに俺はため息をつき、
「そう簡単にはいきません。何度も言いますが魔術の力は限定的なのです」
アニェーゼは口をとがらせた。
「でも風竜がばしっとあの皇子って奴に当たればさぁ……」
「ってか実際やってうまくいかなかったじゃないですか」
ぎくっとしたアニェーゼは、渋々頷いた。
「それは……そうだけど……」
「とにかく、計画は順調です。エートルリア王国軍がこの計画に乗ってくれたのもアニェーゼ様のお名前があればこそですし、それにこの後こそ魔術の出番ですよ。アニェーゼ様の強大な魔術が勝利をもたらすのです」
「ふ、ふふん! 分かっていればいいのよ」
実際は俺が闇魔法を使って要塞の将軍の魂を制御し、「アニェーゼの提案に乗る」よう縛ったのだが……。
だがまぁそんな“真実”を伝えてもさして意味は無い。
とにかくここからが正念場だ。
俺たちは姿を消したままカンザ要塞に向かった。
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後で聞いた話である。
ホスロー皇子はカンザ要塞の目の前で軍を止め、再度要塞内を調査させた。
危険らしい危険は発見できなかったものの、いくつか奇妙な事象は発見された。
まず、城門の吊り橋等いくつかの機構が、破壊されることなく残っていたこと。防御の要と言ってもいい機構なので、奪われるのであれば破壊した方がいい。
こちらは、要塞を取り戻した後のことを考えて残したのだ、と判断された。
そして、要塞のあちこちに燃料を積み上げたものがあること。
こちらは要塞を焼いてから撤退しようとして断念したのだと推測された。やはりエートルリア王国軍は要塞を取り戻すつもりなのだろう。
もしかするとカンザ要塞にはアヴァール帝国は知らない致命的な弱点があり、実は簡単に攻略可能なのかも知れない。
つまりアヴァール帝国軍を引き入れてから、改めて要塞攻略軍を集め、打撃を与えようとしている、というわけだ。
それでも、自分がカンザ要塞をあきらめる理由にはならない、とホスロー皇子は考えた。そもそもが動員可能な軍量としてはアヴァール帝国がエートルリア王国を大きく上回っており、律儀に要塞の攻略戦を待つ必要は無いのだ。攻略用の軍がやってきたら、こちらも要塞を出て迎撃してしまえばいい。アヴァール帝国軍としてはむしろ得意な野戦は望むところだ。つまりカンザ要塞は、拠点としての機能さえあればいいわけで、防御の要としての機能は軍で勝っているアヴァール帝国軍には必要ない。カンザ要塞の防御力を必要としていたのはエートルリア王国の側だ。
そこまで考え、ホスロー皇子は入城を決めた。
決めたとなれば、エートルリア王国軍が気が変わって取り戻しに来る前に完全に確保しておきたい。
急ぎ、全軍の入城を進めた。
そして、4分の3ほど入城した段階でそれが起こった。
「吊り橋が上がっていきます!」
背後で起こった騒ぎに、何事か確認したところ戻ってきた返答がそれだった。
「城門の開閉機構を確認しろ!」
部隊を派遣したところ、開いていたはずの城門の開閉機構を司る部屋には分厚い扉でふさがれており、侵入不能になっているとのことだった。
舌打ちしたホスローは、扉の破壊を命じた。いくら分厚くても扉は有限で、そして開閉機構の部屋は行き止まりで逃げ道はない。つまり時間を掛ければ確実に城門の開閉機構はアヴァール帝国軍の手に落ちる。
現在城内にいる軍は4分の1、つまり7500ほどであるが、開閉機構の部屋にそれ以上の兵士が隠れているとは思えず、つまり勝利はこちらの手の内にある。そして、開閉機構の部屋さえ取り戻せば、再度入城は可能になる。
なんの問題も無い。
そう思った瞬間、遠くから鬨の声が聞こえてきた。
ホスロー皇子は慌てて、
「今度はなんだ!?」
と周囲のものに聞いた。もちろん、周囲のものも状況は理解できず、情報を確認したところ、
「城壁の外に、敵軍が出現! 要塞の外に取り残された我が軍が襲われています!!」




