肩書き
エートルリア王国救済義勇軍特別魔術参謀。
たいそうな肩書きであるが、恐ろしいことになんとこれは俺の肩書きである。
エートルリア王国救済義勇軍特別魔術将軍。
というのがアニェーゼの肩書きで、「ったく馬鹿馬鹿しい」と言いながらもまんざらでもない様子で、そもそもその肩書きはアニェーゼ自身が要求したようでどうやら彼女は中二病を煩っているようだ。試しに邪眼の話を「こういう伝説があるのですが」と振ってみたら、実に目をキラキラさせながら聞いて、最終的に「ああ……私の目になんの能力もないのが恨めしい……」とか悔しげに言っていた。
ただの中二病ではない。真性の中二病である。14歳であるから仕方が無いのかも知れない。
そんな中二病患者から恩着せがましく
「あんたにもせっかく肩書きを付けてあげたんだから死ぬ気で働きなさい」
と言われたわけだが、もちろん超下っ端の俺では拒否しようもなく
「は、はい」と頷いた。アニェーゼも満足そうに頷いた。
と言うわけで、それ以来、連れ回されている。すっかりアニェーゼのお気に入りと言った風情だが、まったくうらやましがられていないところにアニェーゼの仁徳がある。むしろ哀れな犠牲者と見なされている。
だが身近に接してみればアニェーゼは決してイヤな人間なわけではなかった。いいところのお嬢様らしく人をやっかむという気持ちがないし、根本のところでは素直な女の子だし、何より頑張り屋さんだ。今回も純粋にエートルリア王国を救いたいという理由で行動しているし、実際のところアニェーゼ一行が現れなければエートルリア王国は最悪崩壊、うまくいっても人的物的両面で大いに被害を受けていただろう。
なので俺もそれなりにその気になってアニェーゼと色々話し合った。
「……つまり竜術は意味が無いって言うのね?」
「意味が無いわけではありません。たとえば千人の魔術師がいっせいに竜術を放てば何人たりとも戦線を維持できないでしょう。ひとたび戦線が崩壊した軍ほど弱い物はありません。側面からの横撃でたやすく勝利を収められるでしょう」
「竜術は超難関呪文なのよ! それを唱えられる魔術師が千人もいるわけ無いでしょ!」
「そうなのです。だから現状ではほぼ意味が無い、と考えるのが正しいと思われます。状況が変われば劇的な価値が生まれてくるとは思いますが」
「じゃあどうすればいいのよ!?」
「まずはまっとうな作戦を考え、それを魔法で代用できないか考えましょう」
「まっとうな作戦、ね……」
アニェーゼは俺の言葉にうーんと悩みはじめる。
実は一つ、考えていることがあるのだが、それはまだ言わない。出し惜しみをしているわけではない。まずこの世界の戦いの常識を知りたかっただけだ。俺が知っているのはこの世界ではなく魔法のない地球で、しかも戦国時代の戦いばかりである。リキニウスも普通の知識はあるが、たとえばこの世界の軍事戦闘糧食がどういった物なのかは興味も無いからまったく知らないし、そもそも知っていると思っている知識だって根本的に間違っている可能性は大いにある。
だからアニェーゼの考える“まっとうな作戦”に大いに興味があったのだが、いろいろ聞いて分かったのは、アニェーゼもまた正義の心の赴くままにここに来ただけで、決して軍事知識に優れているわけではないという事実だけだった。考えてみれば、水竜であわよくばアヴァール帝国軍を滅ぼしてやろうと考えていたくらいだから当然なのかも知れない。
なので俺はあきらめて、俺の考える答えを告げた。
「アヴァール帝国軍の強みは、騎兵中心なればこその機動力と、騎射という特殊技能、そして今回の場合は数、です。そのすべてを失わせればいいのです。そしてそれが可能な作戦があります」
アニェーゼは驚いた顔をした。




