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序章

 それなりの残酷描写と、それなりのエッチ描写(といいつつそれほどではない気が)があります。気にされる方はご注意ください。

序章


 戦国時代マニアの名前なら甘んじて受ける。

 むしろ誇りを持ってその名前を冠して生きていったと思う。

 だが、残念ながらこの世界では、攻め滅ぼす敵もおらず、守るべき家臣もおらず、戦国時代マニアだと言うだけでは生きていけず、結果俺は忸怩たる思いを抱きながらきわめて平凡なサラリーマンとして生き続けそのまま25歳になって俺は絶望した。

 織田信長は25歳で桶狭間の戦いに勝利し、立花宗茂は25歳で火計と釣り野伏せで朝鮮軍を大いに苦しめたというのに、俺はいまだ城の一つも持っていない。このままだと全国統一はおろか、大名にさえなれないことに気づいてしまったのだ。

 ショックで会社を休んだ俺を、上司はあっさりと、「くび」と首を切り、そして俺は自宅に引きこもった。

 ネットで戦国時代のことを調べながら生きていく人生は、カロリーをまったく消費せず、その結果太った。

 醜く太った自分の醜い姿を見せるのに耐えられずさらに俺は部屋から一歩も出なくなった。

 後詰めのあてのないままの籠城戦だった。

 家から出なくなった俺を、それでも十一歳年下の妹だけは優しく対応してくれた。


「ねぇ、お兄ちゃん。ダイエットすればいいじゃない。簡単だよ、いっしょにやろ?」

「ねぇ、お兄ちゃん。女の子もけっこうぽっちゃりな男の人好きだったりするんだよ? 私もけっこう……その嫌いじゃなかったりするよ?」

「ねぇ、お兄ちゃん。甘い物美味しいよね。駅前に新しいケーキ屋さんができたんだけどいっしょに行こうよ。オシャレして……あれ、これってちょっとデートっぽくない?」


 結局俺は妹のフォローに対応せず、自分の部屋から一歩も出ずに、それでもゆっくりと着実に俺は太り続けた。


 その日、父と母は、法事で田舎に帰っていた。

 妹だけが、


「だって、私も行ったら、お兄ちゃん一人になっちゃうじゃん」


 と残ってくれて、かといって妹はリビングのある一階、俺は二階の自室に籠もったままで、いつも通り顔を見ることもなく一日が終わって翌日になろうとした。

 階下で妹のものらしい声と、それからよく分からない低い男の声、そして叫び声と物が倒れる音が続いた。

 一瞬、親が戻ってきて喧嘩でもしているのかと思ったが、その後一切音がしなくなり、俺は不安に駆られながら耳を澄ませて階下の様子をうかがった。

 気配だけがあった。

 そしてかすかにうめくような声。

 思わず自分で自分の部屋のドアを開けていた。

 そして階下に降りていく。

 玄関に向かう廊下の先で、こっちに向かって顔を上げたのは見知らぬ若い男で、

 なにやら床をいじっていたその男の手には包丁が握られていて、

 その包丁は血で赤く染められていて、

 男の足下には妹が仰向けで転がっていて、

 スカートが半ばまでずり落とされた妹の腹が真っ赤に染まっていて、

 妹が顔をねじ曲げるようにこちらに向けて、つぶやくように言った。


「……お、お兄ちゃん、逃げて……」


 気がつくと俺は男に飛びかかっていた。

 爆発的な何かが俺にわき起こっていた。それが拳にそのまま伝わって、正しく男の顔を粉砕した。

 男は車にはねられたように左側の壁に叩きつけられバウンドして戻ってきた男を今度は左拳が右側の壁に叩きつけた。

 そのまま頽れた男の首はあり得ない角度に曲がっていた。

 俺は息を吐き、それから妹を慌てて抱き起こそうとして下を向いて気づいた。

 俺の胸に木の棒が生えていた。


(……ああ、そうか)


 と思った。

 若い男が突き出した包丁だった。

 それが俺の胸に刺さったままになっているのだ。

 包丁をつかみ、ぐいっと抜いた。

 血がすごい勢いであふれ出し、そのまま俺は力が抜けてへたり込むように床に座った。

 流れ出た血が妹にまで掛かる。すでに妹は反応しなかった。


(40キロくらい血が出れば、前と同じ体重だな……)


 と俺は考え、それから意識が途切れた。


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