第八話 インネン
突然ですが、過去編です。
それでは、どうぞ。
ある男達の話をしよう。
はじまりとなったその男は天才と呼ばれていた。
なんの天才か、それは【陰陽】である。
その男の生きた世、それは平安の世である。
闇が闇として残り、人ならざるものが多くいた世である。
その男、名を賀茂忠行という。
その男には二人の弟子がいた。
一人目、名を安倍晴明という。
類稀なる陰陽の才能を持っていた。
二人目、名を賀茂光栄という。
忠行の子、故に由緒正き血筋を持っていた。
この二人、共に陰陽の術を学んだ兄弟弟子である。
その力は凄まじく、晴明が手を降れば嵐を作り、光栄が歩けば地を割るとまで言われていた。
しかし、光栄はそれだけでは満足できなかった。
人の評価など所詮人が決めたもの。
彼は、神に認められたかったのである。
その想いは収まらず、ますます大きく、強くなっていった。
そして、ある闇夜のこと。
その夜は月さえも見えないほどに暗く、賀茂家のものは皆寝ていた。
ただ一人、光栄だけを除いて。
彼はその日家を出ようとしていた。
だが。
その時に止めたのが晴明だったのである。
何故なら彼が求めた力、それは賀茂家にとって禁忌の力だったのである。
地を司る神を喰らい、力を得る。
本来陰陽師や神喰いは己の中の神を使う。
何故ならそれが自然の力だからだ。
自然の力、個に与えられた力。
それを越える力を求めるという事は、世界に、摂理に逆らうということ。
故に、それを破る事を賀茂家は禁じた。
しかし彼の考えは違った。
彼の考えは、他者の神を喰らい奪うことだったのである。
だからこそ、晴明は止めた。
分かり合うため、己の全てを使い止めようとした。
二人は戦い、争い、その戦いは都の空を焦がし地を砕き、丸一日争い続けたという。
しかし、勝ったのは光栄だった。
彼は既に禁忌の力を身につけていたのである。
そして、晴明は止められなかったことを悔い、自らに呪いをかけた。
すなわち、延命の呪い。
己の他の全てが消えても己だけは生き残る。
ただ、光栄を止める為に、彼は今生きている。
それが約千年前。
そして今、あれ程止めたいと願った、あれ程連れ戻したいと願った弟弟子が目の前にいる。
彼は、この瞬間を、千年待ったのである。




