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神喰い  作者: saku
22/22

第二拾一話 シンユウ

「らぁっ!!」

「ギュァッ!!?」

気合いと共に振り下ろされた刃が、巨大な蟻の頭部を切り飛ばし、ゴトンという音をたて蟻の頭部が地面に落ちた。


残された体はシュワァァァアと音をたて、煙になり、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。


「ふぅ……今ので5匹目か、先生、雲井の場所はまだわかんねぇのかよ?」

額の汗を拭い、黒風は伊森に問いかける。


「あー、さっぱりだわ、神力たどっても雲井は神力下げてるみたいだし喰いかすは多いし……どうしたもんかね」

雲井が理科準備室から姿を消し、黒風と伊森は雲井の捜索を続けていた。

しかし、雲井はどうやら神力を極限まで低下させ、さらに大量の喰いかすを放ち、黒風と伊森を撹乱。


結果、黒風と伊森は、いまだに雲井を見つけられていなかった。

(くそっ!探しても探しても喰いかすばっかり……このままじゃ他の先生や生徒にまで被害が出るぞ……!)

黒風は焦りながら必死に頭を働かせる。

すると、その様子を見た伊森が。


「おい」

と、声をかけてきた。

「なんだよ、早く雲井を探さないと……」

明らかにイラついた様子で黒風は伊森に返答を返す。

「少し落ち着け、焦り過ぎだ、そんなんじゃ見つけられる物も見つけられないぞ」

焦る黒風をなだめるように、伊森はそう言った。


「……そう、だな、わかった、落ち着いて……」

黒風が落ち着きを取り戻し、そう呟いた瞬間である。

学校のスピーカーからブツッという音、続いてザザーっというノイズが混じる、ノイズが消え、スピーカーから。

『あ、あー、うん、成功ですね』

という声が聞こえた。


「「!?」」


その声は、雲井のものだった。


『えー、黒風君に伊森先生、この放送はあなた達のみにむけて放送しています、連絡します、神喰い状態を解き、直ぐに屋上に向かうように』

「神喰い状態を解いて屋上にこいだと?そんな見え透いた罠、誰が……」

苛立った声で黒風が呟くと。


『ちなみに』

と、うむを言わせない口調でそう言った。

『拒否権は無いですよ?何故なら、人質を取らせてもらったのでね』

「人質……?」

黒風の額に嫌な汗が浮かぶ。

『鳴道 雷牙、伊森先生、あなたの教え子であり黒風君の親友、でしょう?』

「「!?」」

『これから5分以内に神喰い状態を解いて屋上に来なければ、喰いかす達に鳴道君を襲わせます』

「……なるほど、喰いかすはただの囮じゃなかったって訳か」

苛立つ黒風の隣で、静かに冷静に伊森は呟いた。


『それでは、残念な結果にならない事を期待してますよぉ?』

そう言うと、ブツッと言う耳触りな音を残し、雲井はスピーカーを切った。

「くっ!?先生!早く屋上に……!」

「……ちっ、明らかに罠だが、行かないわけにもいかないしな……仕方ない、急ぐぞ!」

「ああっ!」

返事を聞いた瞬間、黒風は全力で走り出した。


もう、失うわけにはいかない。


大切な世界も、大切な人々も。







覚えているのは、ひしゃげた身体と赤黒い血液だ。


【あいつ】は俺の目の前で別れを告げた。


『この世界から、逃げたいんだ』


震える身体を押さえつけて。


『君がいるこの世界から消えるのは、少し怖いけど』


俺の目の前で落ちていった。



『今までありがと……ごめんね雷牙、バイバイ』



【あいつ】は最後にそう言って、この世界から飛び降りた。


















ガァァン!と音がして、ドアが荒々しく開かれた。


「雲井ぃ!どこだ!」

「うるさいなぁ……黒風くん、叫ばなくてもここにいますよ」

黒風の怒りに満ちた叫びを聞き、雲井は余裕の笑みを浮かべ答えた。


「雲井先生、鳴道は無事なんでしょうね」

黒風の後ろから、静かに、しかし怒りの混ざった声で雲井に問いかけながら、伊森も姿を表す。

「えぇ、もちろん無事ですよ、 ただし、そちらの態度によっては無事では無くなるかもしれませんよぉ?」

ニヤニヤと笑いながら雲井は黒風達に返答した。


「クソ野郎が……!」

「おっと黒風くん?そういう態度はいただけないなぁ」

屋上のフェンスに寄りかかり、余裕の笑みを浮かべて雲井は黒風に話しかける。

「雷牙はどこだよ!さっさとだせ!」

「無視ですか……まあいいでしょう、雷牙くんはここにはいませんよ、校内を走り回っていますからねぇ、携帯電話に電話をかけてみてくださいよ」


雲井の言うとおりにするのは腹立たしいが、ここは言うとおりにするしか無い、黒風はポケットから携帯を取り出し、雷牙に電話をかけた。


『♪~♪♪~♪♪~♪~♪♪♪……もしもしっ!春か!?』

雷牙の好きな曲の着メロが流れ、切羽詰まった声で雷牙が電話にでる。

「雷牙!お前今どこにいるんだ!?」

『校舎の中だよ!ただ、今は変な化け物に追われてる、でけぇ蟻みたいなやつだ』

「よし……雷牙、そこから動くなよ!化け物にもなにもするな、そいつらはこっちがなにもしなければなにもしてこない」

『わ、わかった……てか、お前はどこにいるんだ?』

と、雷牙が黒風に問いかけた時である、雲井が黒風の携帯電話を奪い取り。


「お電話変わりましたぁ、雲井です」


ニヤニヤとしながら、雷牙にそういった。

黒風は携帯を奪い返そうと考えたが、人質が取られている今はなにもできない。


『く、雲井先生!?春と一緒にいるんすか?』

「あー、そういう質問は後にして欲しいなぁ、とりあえず、君はなにもするな、無力な君にはなにもする資格はない」

『……?な、なにを言って……』

「実はねぇ、君の前にいる化け物、僕のペットなんだよねぇ」

『え……!?どういう、ことっすか』

「ま、簡単に言えばね、君を餌に黒風くんを呼んだってわけ」

『は、春になにをするつもりなんすか!?』

「黒風くんは僕たちにとってとても邪魔なんだよねぇ、だから、殺す」

『な、なんで!?春が邪魔って、俺たちはただの中学生っすよ!?』

「あれ?……もしかして黒風くんからなにも聞いてないのかな?」

『聞いてないって……なにをすか?』

「そりゃ、彼が」

雲井がそこまで言った時である。


「おい!やめろ!雲……」

流石にこれ以上は耐えられなくなり、黒風が声を荒らげた、しかし。


「人じゃ無いってことをだよ」


雲井は黒風の顔を見ながら、黒風の表情が悲痛な表情に変わるのを楽しむ様に、そう言った。

「く、雲井ぃ!!」

我を忘れ、黒風は雲井に殴りかかろうとした。

「あれ?いいのかな?君が僕に手を出せば、雷牙くんは死ぬよ?」

「ぐっぅ……!」

雲井の一言で、黒風はかろうじて拳を振り抜くのを止めた、すると。

『雲井先生……いや、雲井』

黒風の怒りと、雲井の言葉を聞いた雷牙が、雲井に話しかけてきた。

「はい?なんだい雷牙くん?」

『一つだけ言っておく』

「なんだい?命乞いかな?」

『春が人じゃ無いとか、そんなことはどうだっていい、俺は今決めた』

そこまで言って、雷牙は一息吸い。



『あんたは俺がぶっ潰す!!』



「雷牙……」


今まですべてが怖かった。


雷牙との関係も、穏やかな学校生活も、この力が暴露たら、すべて崩れ去ってしまうと。

だが、そんなことは、雷牙にとっては、親友にとっては、ほんの些細なことらしい。


『春!』

「お、おう、なんだ雷牙!」

『俺にかまうな!ぶっとばせ!』

「なっ!?んなことできるわけねぇだろ!」

『大丈夫、俺は死なない、だって俺だぜ?』

「そういう問題じゃ……」

『信じろ!』

「……わかった、死ぬなよ」

『おう!』

そう言うと、雷牙は通話を終わらせた。

「美しいですねぇ、友情、信頼、自己犠牲、とても美しい、しかし」

通話を終わらせた黒風に雲井はそう言うと突然顔を歪ませた。

「同時に僕が一番嫌いなものですよ」

吐き捨てる様に雲井はそう言った。

「雲井……」

顔を俯かせ、黒風はボソッと呟く。「なんだい黒風くん?」

雲井が黒風に答えると。


「らぁぁぁぁぁぁあ!!!」

黒風は答えを拳で返した。

「がっあっっ!!?」

振り抜かれた拳は、雲井の顔面にクリーンヒット、ゴガン!という音を立て、雲井が屋上の床に倒れる。

「黒風!?お前なにを!?」

慌てた伊森が黒風に叫ぶ。

「伊森先生、一旦雷牙のことは忘れてくれ」

「なにを言ってんだ!雷牙は神喰いでもなんでも無いんだぞ!?」

「雷牙が俺に信じろって言った、それだけで十分だ」

「なにを……あぁっ!」

伊森はさらに黒風を説得しようとしたが、折れる気配の無い黒風に呆れ、大きく空を仰いだ。

そもそも一発入れてしまったのだ、もうどうしょうもない。


「たく……仕方ない、こうなったらさっさと雲井を倒すぞ!」

伊森はそう言うと、再び神喰いの力を出した。

両手に液体がまとわりつき、その姿を手袋に変えた。

「言われなくてもっ!いくぞ!八無!」

「やれやれ、やっと出番かの」

黒風が呼びかけると、八無は仕方ないといった様子で、少し微笑み、神喰いとしての姿に変わった。

黒風はそのまま両足に力を入れると、雲井に向かって走って行った。


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