第十九話 キョウシ
少し時間が空き過ぎました、すいません……
バイトって、大変ですね……
「ら……が……」
声が、聞こえる。
「ら……い……」
懐かしいのに、思い出せない、思い出したいのに、思い出せない。
「らいが……!」
「あああっ!!?」
じっとりとした汗を感じながら、少年は飛び起きた。
「また……あの夢かよ……」
髪をくしゃくしゃと掻き、少年は天井を見つめた。
「ごめんな……また思い出せなかった」
悲しそうな声で、ひっそりと呟いた。
誰もいない筈なのに。
誰にも聞かれないように。
早朝、黒風は目を覚まし、自宅のベットから身を起こした。
少年、椎葉との戦闘、そしてイデアとの対峙から一日たち、今日は月曜日である。
あの後、晴明が駆けつけ、椎葉は八咫烏の人達によって連れていかれた。
翠香は晴明が八咫烏に誘ったのだが。
『私はここで巫女として生きるわ、貴方達みたいに生きたいわけじゃ無いし、何よりさっきのバケモノと戦える気がしないわ、あ、わかってると思うけど私が神喰いってことは秘密よ』
と、言って、神社の奥に帰ってしまった。
しかし、何よりも深く黒風の心に残ったのは、あの女、イデア・マールート、である。
長い金髪、妖艶な瞳、抜群のスタイル、そして、圧倒的なその力。
「……本当に……勝てんのか?」
日曜日、黒風はそれのみを考えていた。
天照、それもおそらく幹部クラスと見て間違いない敵、そして、自分もいずれ戦う事になるかもしれない。
その時、自分はあれと対等に渡り合えるのか。
「どうすりゃ……いいんだよ」
いっそ逃げてしまおうか、黒風がそう思った時である。
「……強くなればよい」
黒風のベットの下から声が聞こえた。
「……聞いてたのかよ、八無」
声の主は黒風の神、八無である。
「ふん、あんなヘタレた声を出されれば嫌でも聞いてしまうわ」
ぶすっとした顔で、八無は黒風を睨みつけた。
「よいか、主様よ、主様は儂を倒して神喰いになったのじゃ、この儂をじゃぞ?ならば儂は半端は許さぬ、護りたくば、勝ちたくば、強くなるしか無いのじゃ、わかったらさっさと学校とやらに行って来い」
八無はそれだけ言うと、顔を逸らした。
「……だよな……悪い、心配かけて」
そう言って黒風が八無の頭を撫でると。
「し、心配などしておらぬわ!寝言を抜かしておる暇があるならさっさと起きて学校とやらに行って来い!」
顔を真っ赤にして、八無は影に戻ってしまった。
「なんだよ……?」
黒風はいきなり機嫌を壊した八無に、少し面食らったが。
(……まあいっか)
八無の事がよくわからないのは何時もの事だと思い出して、黒風は顔と歯を磨いて。
「いってくる」
家をでた。
「うぃ~っす!春ー!」
黒風が登校していると、後ろから、騒がしい声が聞こえた。
「……鳴道かよ」
「え!?何その『はぁ、めんどくせぇ』みたいな声!?」
「みたいな、じゃなくてめんどくせぇんだよ」
「ひどっ!?」
そんないつも通りの会話をしていると。
「あ、黒風くんだ」
後ろから、少女の声が聞こえた。
「ん?」
黒風が振り向くと、そこには少女、赤井の姿があった。
「おはよ、黒風くん」
「あっ!?赤井!?なんでここに……?」
「いつもはスクールバスなんだけどね、今日は近くで事件があったみたいで、そのせいでスクールバスが休みなの、だから今日は歩きなの」
「なっ!事件って何があったんだ?」
(赤井に迷惑かけたのは誰だちくしょうが!ぶっ潰す!)
そんな事を思いながら、黒風は赤井に聞く。
「えーと、朝霧神社で凄い音がしてね、近くにいたおばさんが様子を見に行ったら、神社の境内が荒らされてたんだって」
「へぇー……ん?」
(それって……あれじゃねぇか?)
皆様はもうお気づきだろう。
そう、神社の境内が荒らされていた、そしてその原因は土曜日の椎葉と翠香と黒風の戦い。
つまり、事件の犯人は黒風達なのである。
「どうした春?顔真っ青だぞ?」
「うん、大丈夫?黒風くん」
事実に気づき、文字どうり血の気の引いた黒風に、鳴道と赤井が問いかける。
「いいいいい、いや大丈夫だ!問題ない!」
どうみても大丈夫には見えないが、黒風は慌ててそう答えた。
「うーん?……まあ、いっか、あ!そういえばよ!最近変な夢見るんだよなー」
「へ、へー!どんな夢だ?」
正直黒風はあまり興味はなかったが、話題をそらすため、話の先を聞く事にした。
「なんかさー、あんまり覚えて無いんだけどよ、なんか……誰かが話しかけてくる夢」
鳴道がそう言うと。
「え?鳴道くんもその夢見たことあるの?」
と、赤井が驚いてそう聞いてきた。
「え?あぁ、てか俺“も”って事は……赤井も見たことあんの?」
「うん……私もあんまり覚えて無いんだけどね」
「鳴道と赤井が同じ夢ねぇ……」
「な、なんだよ春!その『馬鹿の癖に』みたいな感じの声は!?」
「感じじゃなくて馬鹿の癖にって思ってんだよ」
「なっ!?ひどっ!?」
「いや……でも確かに鳴道くんはもうちょっと勉強した方がいいと思うよ?」
「あ、赤井まで!?う、うわぁぁぁぁあん!」
鳴道はそう言って走り出した。
(あいつは本当に朝からうるせぇな……にしても、赤井と鳴道が同じ夢ねぇ……珍しい事もあるもんだな)
「おーい!急がないとホームルーム始まるぞー!?」
遠くで鳴道が黒風達を呼ぶ。
「えっ?あ、本当だ、急ごう!黒風くん」
「え?……うおっ!?マジだ!」
腕時計を見て、黒風と赤井も走り出した。
こうして、黒風達の朝は、騒がしく始まった。
「で、あるからして、生徒の諸君にはー……」
体育館に校長の声が響く。
(あー、めんどくせぇー……)
眠そうな顔で黒風はそんな事を考えていた。
あの後、黒風、鳴道、赤井の三人は遅刻する事無く無事に教室につき、今は全校集会の真っ最中である。
「校長先生、ありがとうございました、続きまして、先日事故により入院しておられる大常先生の代理としてきてくださった先生のご紹介です」
司会の先生がそう言うと、ステージに一人の男が登った。
男の年齢は三十代といったところだろうか、薄い茶色の髪で、瞳も茶色、銀縁の眼鏡をかけ、腰にはウエストポーチ、そして、白衣を着ていた。
「皆さんこんにちは、雲井 拓海と言います、専門は科学なので気軽に質問してください」
和やかな笑顔で男、雲井はそう言うと、ステージから降りた。
「続きまして……」
(あーだりぃ……寝るか)
まだまだ長く続きそうな話に眠気を誘われ、黒風はそのまままぶたを閉じた。
全校集会が終わり、黒風は教室に戻ってきていた。
教室は生徒達の喋る声でガヤガヤとしていた。
すると、教室のドアがガラガラと音を立てて開き、一人の教師が入ってきた。
入ってきたのは煙草臭い黒いジャケットにシャツ、そして黒いズボン、怠そうな顔にはやる気というものが欠片も見当たらないという最も教師らしく無い教師にして黒風達のクラスの担任、伊森 童である。
「あー、皆いるかー?いるなー、よし、出欠しゅーりょー」
相変わらず教師らしく無い態度で、伊森はホームルームを気だるそうにはじめた。
有意義に過ごそうが無意味に過ごそうが時間は変わらず進んで行く。
「……寝すぎた」
そして、少年、黒風 春は大爆睡の結果、なんと昼休みまでずっと眠ってしまったようだ。
そんなわけで今は昼休み。
お昼を食べる生徒達で教室は溢れかえっていた、すると。
「お~っす春!弁当ーくおーぜ!」
後ろからやけにハイテンションに声をかけられた。
「あー?あー……断る!」
「ええっ!?まさかの!?くおーぜ春ー」
「やかましい、何でてめーと食わなきゃいけねーんだよ」
「今まで一緒に食ってたじゃん!」
「えー?……じゃあジュース買って」
「しゃあ!わかった買ってくる!」
そう言うと鳴道は廊下が焦げそうなスピードで走って行った、丁度その時である。
ピーンポーンパーンポーン、という音がして。
『あ、あー、えーと、一年五組の黒風ー、飯食ってねーで職員室にこいやー』
スピーカーから放送が流れ、呼び出されてしまった。
「……マジかよ」
心底嫌そうな顔をする、しかし逆らうわけにもいかず、黒風は渋々教室を離れ、職員室へと向かって行った。




