第十五話 アサギリ
ガランガランと、鈴の音が鳴る。
黒風と八無は賽銭箱の前にいた。
「そうそう、で、手を合わせて」
「こ、こうかの?」
「そう、それで会釈をして、願い事を頭の中で言う」
「……主様よ、何を願えば良いのかの?」
「ねぇのかよ……ま、ねぇならしなくても……」
黒風がそこまで言った時、ザザザァッ!と、音がして。
「はぁ……はぁ……閃、あの人?」
神社の裏から少女があらわれた。
長い黒髪に翡翠色の瞳、そして
その手には袋に入った長い棒のようなものをもっている。
そして、その後ろには。
「そうだ、我が見たのはあの男だ」
先程見たフクロウがいた。
しかも喋っている。
「……え?フクロウが……喋っている!?」
驚きを隠せず、思わず黒風は叫んでしまった、しかし、少女は何も答えず。
「貴方が最近ここらへんを荒らし回ってる神喰いね……」
怒りに満ちた声でそう言った。
「……はい?」
少女の言っている事の意味がわからず、黒風は思わず間の抜けた声でそう言った。
しかし、それが少女の怒りにさらに火をつけたようで。
「とぼけないで……取り敢えず、貴方は私がここで倒す、いくよ、閃!」
イラついた声でそう言った、すると、後ろのフクロウが。
「ああ」
と、答え、その姿がまるで霧のように消え、少女の手にまとわりつく。
霧が再び姿を固めたとき。
少女の手には大きな盾が握られていた。
木の葉のような形、そしてその大きさは少女の身長を軽く超えていた。
そして、少女は持っていた棒の袋を外した。
袋に入っていたのは、少女の身よりも巨大な薙刀だった。
藍色の持ち手、金色の鍔、刀身は薄っすらと蒼い銀色だった、そして。
「はぁぁぁあ!」
という気合と共に、少女は黒風に切りかかってきた。
「はぁぁぁあ!?」
黒風は焦り、急いでその場から飛び退いた、すると。
ザガン!と、音がして、黒風のいた場所に大きな跡がついた。
「主様!儂らもいくぞ!」
「くっそ……しょうがねぇな……話聞いてくれそうにねぇし……いくぞ!八無」
「おう!了解じゃ主様よ!」
そう言うと、八無は、黒のコートと刃に姿を変えた。
「それが貴方の力ね……」
「……あのよぉ、俺はお前の敵じゃ……」
無い、そう言う前に。
「問答無用!」
と言って、少女は再び切りかかってきた。
「……はぁ、しょうがねぇか」
そう言って黒風は少女の刃を受け止める。
ガアン!と音がして、二人の刃が交差する、少女はそのまま。
「倒された相手の名前も知らないのは嫌よね」
と言い。
「私の名前は朝霧 翠香、神喰いよ」
と、少女は名乗り、その勢いのまま。
「はぁぁぁっ!!」
という気合と共に薙刀を振り抜いた
交差した刃の間から、ガァン!と鋭い音が響く。
「ぐ……話を聞け!」
「貴方の話なんか聞く必要ないっ!」
怒りに満ちた表情で少女、翠香は薙刀を振るう。
ブオン!と言う音と共に、上からも下からも刃が迫る。
薙刀は周りの草木どころか石までも両断する。
しかし、黒風はそれを手に持つ日本刀で受け止める。
その度にガアン!と言う音が辺りに響く。
(くっそ!こいつ全然話し聞いてくれねぇし!マズイ、見慣れない武器で、眼が追いつかない……確実に追い詰められてる!)
黒風が少し焦りを感じていると。
「らぁぁぁぁあっ!」
黒風の焦りにより出来た隙を見逃さず、今までよりも一際強く薙刀が振り下ろされた。
「やべっ!?」
慌てて刃を交差させ、ギリギリで止める。
ガアン!と、大きな音がしたとき、黒風のポケットから、ジャラッ、と音がして、一本のチェーンネックレスが滑り落ちた、そして。
「ん?……それ!!!八咫烏の!?」
それを見た翠香は顔色を変え、薙刀を振るっていた手を止めた。
「さっきは悪かったわ」
お茶を出しながら翠香はそう言った。
黒風と翠香はあの後、お互いに刃を引いた。
そして、黒風は今、翠香に連れられ神社の裏の縁側に座っていた。
「いや……ビックリしたけどよ、まあ、怪我は無かったし……つか、何でいきなり攻撃をやめてくれたんだ?」
怪訝な顔をしながら黒風は翠香にそう言った、すると。
「え?……貴方、そのネックレスを持ってるって事は八咫烏のメンバーなんでしょ?だったら攻撃する理由は無いわ」
キョトンとした顔で翠香はそう答えた。
「このネックレス?なんか意味あんのか?」
黒風はそう言うと、ポケットから先程落としたネックレスを取り出した。
そのネックレスは、銀のチェーンを基本としたシンプルな物だった、胸元にくるであろう飾りには、三本の足を持つ烏が、銀で作られていた。
「……貴方、ほんとに何も知らないの?……それは八咫烏所属の神喰いが持っている証明書よ?簡単に言えば身分証明書、それを最初に見せていれば私も貴方を襲うような事はし無かったわ」
このネックレス、それは晴明が黒風の家から出るときに黒風に渡したものである。
「マジか……そんな意味があったのかよ」
(あいつ……『取り敢えずこれ、やるわ、肌身離さず持っとけ』としか言わないから……ちゃんと説明しろよ!)
黒風がそんな事を考えていると。
「それで、貴方たちは何でここにいたの?」
翠香が黒風に質問してきた。
「え?あー、俺等は散歩っつーか……遊んでたんだよ」
「憑き神と?……変な趣味ね」
「いや、変か?てか、お前こそ何でいきなり攻撃してきたんだよ、そっちの方が気になる」
黒風がそう言うと、翠香は心底嫌そうな顔をして、言った。
「……最近、ここらで妙な人がいるのよ」
「妙な人?」
「ええ、それが、その人は人を攫ってるらしいの」
「人を!?何で?」
「わからない、ただ……どうもその人間は神喰いらしいの」
「何でそんな事わかるんだ?」
「目撃情報によると、2mくらい飛んだらしいわ」
「なるほど……そりゃ確かにただの人間じゃねぇな」
「それで、さっき閃が境内に妙な男がいるって教えてくれて……あ、閃って言うのはこのフクロウのことね、私の憑き神よ」
そう言って翠香は閃の頭を軽く撫でた。
「……閃だ、男、我はまだ貴様を信用したわけでは無いからな、妙な真似はするなよ」
フクロウ、閃はそう言うと、鋭い目つきでこちらを睨んできた。
「お、おう?」
黒風は思わず間の抜けた声で返事をしてしまう、と、そこで。
「話しを元に戻していいかしら?」
と言う若干苛立っている様子の翠香がそう言った。
「あ、あぁ、わりぃ、それで俺等をその妙な人と間違ったってわけか?」
「そう言うことね」
そう言って、翠香はお茶を飲もうとした。
しかしその時、ヒュオン!と言う風を切るような音がして、翠香の湯呑がバリン!という音をたて、割れた。
「なっ!?」
「おいっ!伏せろ!」
そう叫び、黒風は翠香を縁側に押し倒した。
そして、二度目の音が響き、丁度翠香の頭があった場所を何かが通り過ぎた。
「くそっ!誰だ!?」
「と、とにかく逃げましょう!」
「わかった!走るぞ!」
そのまま立ち上がり、黒風と翠香はその場を走り去った。
しかし、風を切るような音は、二人の背中を追っていた。




