第十三話 アマテラス
黒風が目を覚ました時、はじめに見たのは。
「あっ!黒風くん!やっと目を覚ました!」
黒風が恋心を抱く少女、赤井 柚奈の顔だった。
それも至近距離で。
具体的には膝枕で。
「んにゃぁぁあっ!?」
驚きの余り、黒風は妙な声を出しながら叫んだ。
「に、にゃ?だ、大丈夫黒風くん?」
「いいいいや!だ、大丈夫だ問題ない!ただ少し顔を離してくれると助かる!」
「ふぇ?あ、そ、そっか///う、うんごめんね!離す離す」
「い、いや……えと……な、何故ここに?」
少し名残惜しく感じながらも、体を起こし、黒風は赤井に問う。
ここと言うのは先程黒風と光栄が戦った体育館裏である。
「あ、うん、その……さっき大きな騒ぎがあったの知ってる?」
騒ぎ、と言うのは先程の光栄が破壊した校舎や光栄と黒風の戦いの事だろう、と解釈し黒風が答える。
「お、おう知ってる」
動揺しつつ、なるべく自然に黒風は答えた。
「それでね、さっき変な人達が来たの」
「おう、それで?」
「それで、その人達が来たら、私、よくわからないけど寝ちゃって……」
「寝た?」
「うん、で、気づいたら此処にいて、黒風くんが倒れてたから起こそうと思って揺さぶってたの」
赤井が状況を説明すると、黒風は真剣な顔で赤井に聞いた。
「……その変な人達……どんな人達だった?」
「えっ?うーん……前にいた人は銀髪でー……私と同じくらいの身長かな、奥にいた人は大きくて……黒かったかな、ごめんあんまりよく覚えて無いや……」
「いや、それだけ分かれば大丈夫」
黒風が考え込む。
彼らがなぜ人を襲い、攫ったのかという疑問は尽きないが、黒風はそれ以上に疑問を感じていた。
すなわち、なぜ赤井が狙われたのか?という疑問である。
たまたま倒れていた赤井を攫ったのならまだわかる、しかし、赤井の話によると、どうやら彼らは赤井を狙い眠らせるという手間をかけている。
黒風はそこに大きな疑問を抱えていた。
しばらく考え込んでいると。
「……黒風くん?大丈夫?」
心配した赤井が声をかけてきた。
「……あ?……あ、ごめん、大丈夫」
まぁ、あとで晴明にでも聞いてみるかと、黒風が考えたところで、黒風がある事に気付いた。
肝心の晴明がいないのである。
晴明に問い詰めようと黒風は辺りを見渡すが。
晴明どころか、人の気配すらない。
「あ、あのさ赤井」
「ん?何?」
「晴明……知らないか?」
黒風は赤井に晴明の事を聞いてみるが。
「晴明?……ああ!転校生の!知らないよ?」
返って来たのはそんな返事だった。
「そうか……」
「それより……本当に大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫、取り敢えず……家に帰るよ、赤井こそ大丈夫か?」
「私は大丈夫、さっきお母さんに連絡したから、直ぐに迎えに来てくれると思う」
「そうか、わかった、じゃな」
「うん、またね」
そう言って黒風は手を降りながら微笑む赤井を背に、自宅へと帰って行った。
「おにーちゃん!お帰りー!」
帰宅した黒風を出迎えたのは可愛らしい少女の声だった。
「ん?ああ、ただいま、わりーな遅くなって」
「んーん、大丈夫」
少女の名は黒風 雪
黒風の一つ下の妹である。
黒風の家族はもう一人、母親がいるのだか、母親は世界に名高い音楽家で、家に帰って来るのは一年に一度あるか無いかといった程度である。
つまり、基本的に黒風家は兄の春と妹の雪の二人暮らしなのである。
「おにーちゃん、お客さん来てるよ?」
兄、春が玄関で靴を脱いでいると雪が報告してきた。
「客?どんな奴?」
「んーと……顔は結構イケメンで、関西弁の人、学生証見たらおにーちゃんと同じ学校のだったからおにーちゃんの部屋に上がって待って貰ったの、おにーちゃんの友達でしょ?」
そこで春の行動がピタリと止まる。
「イケメンの……関西弁?……」
静かに呟き、次の瞬間春は脱ぎかけの靴を脱ぎ捨てそのまま二階の自分の部屋に駆け上がった。
「あ!おにーちゃん!靴は揃えて脱いで!」
下から妹の怒った声が聞こえるが気にしてなどいられない。
バンッ!と勢いよくドアを開けると。
「お、お帰りー、上がらせて貰っとるでー」
そこには黒風を巻き込んだ張本人、関西弁男、安倍晴明がいた。
「てめぇ……何でお前がここにいるんだよ!」
勝手に家に上がり込んでいた晴明に黒風は問い詰める。
「お、落ち着けや……いろいろ話す事があってな」
「……チッ」
勝手に家に上がり込んでいた事には苛つくが、黒風もいろいろ聞きたい事があるため、取り敢えず話を聞くためその場に腰を下ろした。
「……だいたい何でお前が俺の家を知ってんだよ」
「フッ……僕にかかればこんなとこすぐ見つかるで!」
「威張ってんじゃねぇっ!」
怒りと共にそばにあった辞書を投げつける。
「ごふぁっ!?」
辞書はゴガン!という少し危ない音を鳴らし額にクリーンヒットした。
「チッ!……で?話したい事って何だ、つか、俺の質問にも答えろ」
「つつつ……痛いやんかー……心配せんでも答えたるわ、アンタには貸しもあるしなぁ」
「まぁ、ならいいけどよ、で?何を話す気だ?」
黒風が晴明に問いかける、すると、今までのふざけた雰囲気は消え、晴明の顔は真剣な物に変わった。
「……今日話したい事はな……三つあるんや、まず一つ目、今日来た連中の事や」
「あ!それは俺も聞こうと思ってた、何なんだあいつらは?」
「……あいつらはな、神喰いの能力を悪用しとる組織の奴らや」
「神喰いの能力を……悪用?」
「せや、組織名は【天照】天を照らすと書いて天照や」
晴明が言った天照、黒風はその単語に聞き覚えがあった。
「天照……何なんだそいつら」
「神喰いの集団や、リーダーの名前は不明、そんで目的も不明や」
「……要するに何もわかってねぇって事かよ、てか、神喰いってのはそうゆう集団があるのか?」
「あるで、僕もそうやしな」
「ふーん……で?二つ目は?」
「二つ目は、何で赤井 柚奈が攫われたのか、その理由や」
晴明が言った瞬間。
黒風は晴明の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ……!やっぱりわかってたんだな!赤井が攫われる事を!何で攫われる前に助けなかった!半端な答えじゃゆるさねぇぞ!答えろ晴明!」
クラスメイト、それも己が恋心を抱く少女を危険な目に合わせた事に対する怒りを露わに、黒風は晴明に詰め寄る。
晴明は怒る黒風に対し、申し訳なさそうに目を向け、言った。
「……今日の事は……悪かったと思うとる……せやけど僕もわからへんかったんや、攫われるのはわかっとった、せやけど……誰が攫われるかはわからへんかったんや」
晴明の言葉は、素直な後悔と謝罪の気持ちがこもっていた。
黒風はゆっくりと手を離し。
「……そうゆう事なら……早く言えよ……たく」
少しばつが悪そうに、そう呟いた。
「……赤井が攫われたのはな、多分、神力が強かったからや」
「しんりょく?」
「せや、神の力、神喰いの力の元になるもんや、神が持ち、神喰いが使う、ま、簡単に言えばこれがあればあるほど強い神喰いっちゅー事や」
「なるほど……赤井はたまたまそれがでかかったってわけか」
「せやな、多分君も狙っとったんやろうけど、勝てへんかったから退散したって事やろな」
確かに、神力の多さなら確実に黒風が一番多いはずである。
赤井はついでといった所だろう。
じゃあ赤井は俺のせいで……と、黒風が己を責めていると。
「せやけど、別に君のせいやあらへんで?」
晴明は黒風の考える事を感じとったのか、笑いながらそう言って来た。
「……るせーよ、タコ」
黒風は少しホッとした様にそう呟いた。
「あぁ、で、三つ目やけどな」
「おう、何だ?」
黒風は晴明の方を向き、問う、すると、晴明は。
「アンタ、これからうちのチームに入りや」
と、言って来た。
「……断る!」
「なっ!?何でや!?」
「ふざけんな、俺は平凡に生きたいんだよ、神喰いのチーム何かやってられっか」
そう言って黒風は晴明を部屋から追い出そうとしたのだが……
「……赤井のためやって言ってもか?」
ボソッと晴明が言うと。
「……何?」
ピタッと足を止めた。
「多分な……これからも天照は来るで?天照は人の神を喰らって力を奪う、天照と対抗できんのは神喰いだけや、んで、おそらく神力の強い赤井は天照に狙われやすいやろなぁ……」
「ぐっ……!」
痛い所を付かれ、黒風は唸る。
「そんな時助ける事が一番出来るのはアンタやと思うんやけどなぁ……そんでもって、僕らならそのサポートも出来るんやけどなぁ……」
ニヤニヤとにやけながら晴明がチクチクと弱いところをつついていく。
「くっ……そ…………わかったよ!やりゃいんだろやりゃあ!」
黒風のその言葉を聞いた晴明はニヤリと笑い。
「よっしゃ!決定やな!ようこそ!僕らのチーム、【八咫烏】へ!」
と、言った。
こうして、半分自暴自棄になりつつも、黒風は神喰いとしての道を歩みはじめた。
人ならざるもの達の、争いの道を。




