第十話 ナマエ
更新が遅れました、申し訳ありません。
それではどうぞ。
「……燃えろ」
空に舞う紙に指をあて、晴明は静かに命じた、すると。
指をあてた紙が燃え、小さな火球に変わった。
そして、そのまま勢いよく光栄へと飛んで行く、しかし。
パァン!
と、破裂音がして、当たる前に火球が弾け飛ぶ
(チッ……またかいな……)
先程から、これの繰り返しだった。
晴明の攻撃は全て弾かれ、消し飛ぶ。
「……なめてるんですか?晴明さん、この程度の陰陽術で僕に傷を付けられると思ってるんですか?」
「光栄くんこそ本気だしとらんように見えるで?」
「この程度の陰陽術に本気を出す必要なんてありませんよ」
嘲笑うかのように光栄は呟く、すると。
「……この程度?どこまでが、この程度なんや?」
晴明の声の質が変わった。
これまでのふざけた様子は一切ない。
そして、晴明はまた紙に指をあてた、しかし、今度はその後が違う。
「……燃えよ、紅の炎よ、その赤き光は賢者を癒す知恵の炎、その赤き光は愚者を焼き払う神の怒り、赤く紅く朱い炎よ、我が前に立つ壁を焼き払え!」
と、詠唱したのである。
「五行術式炎式18番紅焔!」
指に触れた紙がまた火球に変わる。
しかし、今度のはその規模が桁違いに大きい。
ソフトボール大だった火球から、直径2mはあろうかと言うほどに巨大な火球に変化した。
そして、そのまま光栄に向かい飛んでゆく。
しかし、晴明は攻撃の手を緩めない、そのまま新しい紙に指をあて。
「貫け!金剛の刃よ!それは人が生み出した偉大な英知、それは邪を引き裂く強き英知、刃よ!我が前の邪を貫き穿て!」
と、詠唱した。
「五行術式、金式12番螺旋槍!」
すると、今度は指に触れた紙が大きな槍に変わり光栄に向かい凄まじいスピードで飛んでゆく。
そして、先程出した炎にぶつかり、そのまま炎を纏う。
炎の槍、炎槍である。
そのまま光栄に向かい、当たる。
炎が燃え広がる、完璧な直撃、避けようが無い。
しかし。
パァン!
と、破裂音がして、光栄は何も無かったかの様に姿を現した。
「……今のは……少し焦りましたよ、流石晴明さんだ、そこらの神喰いとは桁が違う」
「いやぁ、そんなに褒められると照れてまうなぁ、光栄くんこそそれ、どないなっとんの?」
「自分で考えて下さいよ」
「あはは、やっぱりー?」
表面上だけの和やかさ、しかし、その内ではいかにして倒すか、それのみである。
(衝撃波か?……もう少し、攻撃の強さを上げてみよか……)
晴明が考えていると。
「……さてと、そろそろ私も攻撃させてもらいますよ」
と、言い、光栄は両手を前に出した。
「せやなぁ……ここからが本番や」
晴明の指が、また紙に触れた。
ガァン!
日本刀が床に叩きつけられる。
「そらそら!まだまだ行くぞ!主様よ!」
「くそっ!」
少年、黒風と少女は今、己の血と肉を奪い合う喰い合いを始めていた。
(こいつ……!全力で走ってんのに余裕で追いついて来やがる!パワーもスピードも……確実に俺より上だッ!!)
「ほらほら主様よ!考えてる暇などあるのかの!?」
日本刀が乱舞の様に黒風を襲う。
「くそっ!調子に乗ってんじゃ……ねぇっ!」
気合とともに拳を撃ち出す。
クリーンヒット、しかし。
「……この程度か?主様よ」
少女の顔は少しも変わらない、余裕の笑みである。
「なっ!?」
そして、少女は黒風の驚きにより出来た一瞬の隙を見逃さなかった。
少女の握る刃は真っ直ぐに振り下ろされ。
ザンッ!と鋭い音がして。
黒風の足を切り裂いた。
「がっ!?あぁぁぁあ!?」
赤い鮮血が飛ぶ。
黒風はバランスを失い倒れる。
傷は深く、立てるレベルでは無いようだ。
「くくくっ!無様じゃのう、主様よ」
嘲笑うように少女は言う。
「結局、これが現実じゃよ、人は神には勝てん」
「……ざけんな……まだ……勝負は付いてねぇだろ……」
おそらく激痛のせいだろう、黒風の声から力が失われている。
「終わりじゃよ、儂がもう一度刃を振り下ろせば決まる、もはや主様は逃げられん、その傷ではな、ほとんど両断に近いからのう」
少女は余裕を見せ付け残酷に現実を叩きつけた。
しかし。
「……逃げらんなくてもいんだよ……」
「……何?」
「どんな傷受けてもよ……どんな無茶な条件でもよ……勝たなきゃいけねぇんだよ……」
黒風はまだ、諦めていない。
「……ふん、戯言を」
少し苛立ち、少女は言う。
「よかろう!ならばその息の根、今すぐ止めてやろう、まだ負けてないなどと二度とぬかせぬようにな!」
しかし、黒風は答えない。
ただ不敵に笑うのみ。
それを見た少女は。
「その薄ら笑いを……やめんかぁぁぁぁあッ!」
怒気を込めて刃を振り下ろした。
しかし。
刃は黒風に届かない。
黒風が刃を掴み、握ったからである。
「なっ!?」
「……ほらな?まだ負けてねぇ」
刃を素手で掴んでいるのである、当然無傷な訳が無い。
黒風の手は真っ赤に染まり、鮮血が滴り落ちている。
「ぬ、主様よ!な、何を考えておるのじゃ!?」
その問いに黒風は静かに答える。
「……てめーを倒す方法」
「だからそんな事は無理じゃと……」
少女は言う、しかし。
「だからなんだよ」
黒風はそんな事はどうでもいいとでも言う様に吐き捨てる。
「……勝てるとか、勝てないとかじゃねんだよ……勝つんだよ……」
「や、やめよ!主様では儂には勝てん!」
「知るか……ここで引いたら……ここで引いたらダメなんだよ……」
声は弱々しく、力も弱々しい、少女が少し力を込めれば切り裂ける程に。
ただ、その目だけは違った。
「……あっちでよぉ……待ってる物が、待ってる人がいるんだよ……俺を助けてくれた人が……いるんだよ」
黒風の手に力がこもる。
同時にブシュッと嫌な音がして、流れる血も増える。
「や、やめよ!これ以上力を込めれば主様の手が千切れてしまうぞ!?」
少女の叫び、しかし、黒風は聞いてない。
「あいつを助けたいって一番思ってる俺が……あいつに助けられた俺が……こんなところで……」
さらに強く、強く刃を握る。
「もうやめよ!勝負はついておる!」
しかし、黒風はやめない。
何故なら、彼の思いは、彼の願いは、まだ叶っていない。
さらに強く力を込め、彼は叫んだ。
「こんなところで……負けて寝るわけにはいかねぇんだよ!!!!」
その瞬間。
黒風の握っていた刃が。
ガシャァンッ!!
と、音がして。
黒風の手によって砕けた。
「な!?や、刃が……!?」
その時。
「……らぁぁっ!」
「なっ!?」
黒風の拳が少女に当たる、しかし。
「……くそが」
もはや、そこに力は無かった。
少女を倒すだけの、力は無かった。
「…………主様よ、名は?」
少女が黒風に問いかける。
「……黒風、黒風 春」
「そうか……」
静かに呟き、少女は顔を伏せた。
「……ならば儂も名乗ろう、主様という一人の人間に、儂が見た中で最も強き人間に敬意を現してな」
そう言って少女は静かに息を吸い、言った。
「儂の名は…………」




