01-06 勝利と喪失
前回、なんか急に読んでくれる人が増えてました。
嬉しい限りです!
契約した瞬間から、俺は自分の変化に気付いていた。
さっきはあれほど痛く、動かなかった身体が、今ではその痛みなく動かせる。
なんとなくだが、打撃の類いは俺にさほど効果がないだろう。
だって――
身体が"やわらかい"から。
『こいつ……【岩砲】! 【岩砲】!』
岩トカゲは次々と岩を吐き出す。
ドワーフはまだ、頭を抱えて悶絶している。
アイムは飛んでくる岩を、腕で叩き落としていた。
「アイム、あの飛んでくる岩、どれくらい受け止められる?」
「いくら来ても平気~♪」
「よし、じゃあ作戦を立てるから、しばらく盾役を頑張ってくれ」
アイムに盾になってもらっている間に、俺は【鑑定】を行う。
まずは、再度敵の戦力から。
[種族]
ドワーフ
[称号]
神の杖を持つ者
岩トカゲの契約者
[種族スキル]
鍛冶 Lv.2
腕力強化 Lv.2
[個別スキル]
斧術 Lv.2
[能力]
筋力 C
体力 C
魔力 D
知力 D
敏捷 E
冷静にもう一度見てみる。
はじめは筋力や体力の高さばかりが目についたが、よくみると敏捷がEだ。
思えば俺の溶解液も、アイムの投げた岩も避けられていなかった。
次は奴の斧。
[名前]
斧の杖
[杖スキル]
斧化 Lv.1
[説明]
100本に分かれた神の杖の1本。
斧の能力を宿す。
「起動」と唱えると杖の形になる。
……杖である必要性を感じないな、うん。
ただの斧と考えていいだろう。
ドワーフが【斧術】を持ってるから、気を付けなきゃいけないのは間違いないがな。
あとは岩トカゲ。
[種族]
岩トカゲ
[称号]
ドワーフの契約者
[種族スキル]
硬化 Lv.2
岩砲 Lv.1
[個別スキル]
人化
[能力]
腕力 C
体力 D
魔力 D
知力 D
敏捷 D
あまり隙がない上、腕力が高い。
ただ、硬化も岩砲も、俺達との相性を考えるとそこまで脅威ではないだろう。
よし、敵の戦力が分かったあとは、こちらの戦力の確認だな。
こうしている間にも、敵は【岩砲】を連射してくる。
が、アイムは難なく対応している。
アイムの変化は……
[種族]
スライム
[称号]
人間の契約者
[種族スキル]
分裂 Lv.MAX
同化 Lv.MAX
溶解 Lv.2
吸収 Lv.2
変形 Lv.1
[個別スキル]
人化
[能力]
筋力 D
体力 D
魔力 D
知力 D
敏捷 D
……強くなったなぁ、うん。
スライムの能力はもともとオールEだったからね。
今はオールD、全部一段階強くなってる。
スキルのレベルも上がってるな。
「クソ最弱ども! 楽に死ねると思うなよ」
あ、ドワーフが復活した。
まだ俺のステータスを確認出来てないのに……。
奴の武器は斧。スライムでは分が悪いな。
「アイム、奴を近付けるな。 【溶解】だ!」
「うん! 【溶解】!」
アイムが【溶解】を唱えると、アイムの両手の先から大量の溶解液が出てきた。
人一人くらいの量の溶解液がドワーフを襲う。
――そうか、レベルだ。
溶解Lv.2。
レベルがひとつ上がるだけで、威力が段違いだ。
ドワーフは全身に溶解液を浴び、再び苦しんでいる。
ドワーフの服も溶けかけてる。
溶解液の量のだけじゃなく、質も上がっているらしい。
「畳み掛けろ、アイム!」
「うん! 【溶解】! 【溶解】!」
『【硬化】!』
岩トカゲがドワーフの前に立ち、【硬化】を発動。
岩トカゲの体表面は本物の岩のように硬くなる。
【溶解】にも耐えているようだ。
『ぼくたちも戦うよ~!』
ふと、そんな声が聞こえてくる。
声の元は……スライム達だ。
「君達も人語を……? まぁいいや、ありがとう! みんなで【溶解】だ!」
『うん! 【溶解】!』
『【溶解】~♪』
『【溶解】っ!!!』
どんなに弱くても、数は力だ。
残っていた10匹ほどのスライムから、雨のように溶解液が降る。
岩トカゲの体もジワジワと溶け始める。
しかし、岩トカゲは自分の表面が溶けるのに構わず、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「接近戦は厄介だ、近付かれる前に溶かし尽くすぞ」
『ぐっ……【硬化】っ!』
再度【硬化】をかけるが、岩トカゲは苦しそうだ。
よし、俺も参戦するか。
「いくぞ、【溶解】!」
俺の杖から出た溶解は、アイムの【溶解】と同じサイズ。
つまり、やわらかい杖の溶解もLv.2になっているということだ。
岩トカゲはついにその足を止めた。
ずいぶん余裕がなさそうに見える。
――勝てるっ!
そう思ったときだった。
岩トカゲの後ろから、"奴"が飛び出してきた。
「てめぇら……ぶっ殺す」
ドワーフは、瀕死の岩トカゲを一瞥した後、スライム達に突っ込み斧を降り下ろす。
2匹のスライムが犠牲になった。
こちらも溶解で応戦すると、奴は岩トカゲの陰に隠れてしまう。
そうして、隙を見てまた1匹と、別のスライムが犠牲になる。
ゆっくりとではあるが、近付いてきていた岩トカゲ。
岩トカゲが守り、ドワーフが攻める。
これがこいつらの戦略か。
「アイム、俺がドワーフを止める。 お前は岩トカゲを――」
「わかった!」
「出来そうか?」
「たぶん平気~!」
俺は岩トカゲの陰に隠れるドワーフの元へ急いだ。
「【変形】!」
俺は杖を"鞭"の形に変形させた。
これならやわらかくても問題ないだろう。
「おいクソ人間、なんだその触手は」
「鞭だよ、失礼な」
接近戦は、どうあがいてもドワーフが有利だ。
向こうもそれが分かっているのだろう。
斧を構えてこちらに近付いてくる。
俺は鞭を振り上げ、ドワーフに打ち付ける。
が、その鞭はドワーフに届かない。
鞭の先端を、ドワーフが掴んだからだ。
――それが罠とも気付かずに。
「こんな弱っちい攻撃が――」
「【溶解】!」
鞭の先端から放たれた溶解液。
ドワーフはそれを頭からかぶり、思わず鞭から手を離す。
「ぐっ、卑怯な――」
「足っ!」
俺はドワーフの足に鞭を絡み付かせると、一気に引き上げた。
地面にたまった溶解液が潤滑油となり、ドワーフは後頭部を激しく地面に打ち付ける。
同時に、持っていた斧を地面に落とす。
「がはっ……ってめぇ!」
「【溶解】!」
俺は畳み掛けるように溶解液を浴びせる。
しかし、怒り狂ったドワーフはそれを無視し、斧も拾わず、真っ直ぐ俺に向かってきた。
「いい加減、うぜぇぇんだよぉぉぉぉ!!!」
ドワーフの拳が俺の体をとらえる。
筋力Cの攻撃と、筋力Dの防御。
一撃ぐらいは耐えられるんじゃないかという俺の見通しは、甘かった。
「ぐはっ――」
足の踏ん張りも全くきかず、吹っ飛ばされる。
スライムと契約し、身体がやわらかくなっていなかったら、骨まで粉々になっているような攻撃だった。
「これでも死なねぇか……」
ドワーフは、少し離れたところに落ちている斧を拾い上げ、岩トカゲの方を振り返りながら……
「こいつを片付ける。 加勢しろ、ラグ――」
岩トカゲに話しかけようとして、目の前の光景に唖然とした。
『ぐぁ……ぁ……』
"岩トカゲを包むゼリー状の何か"が薄く光る。
そしてそれは、やわらかく形を変え――
「ソータ、【吸収】終わったよ♪」
無邪気な笑みを浮かべる少女の姿になった。
時間稼ぎ、うまくいったな。
「アイム、お疲れ」
「えへへ♪」
アイムが俺の方に駆け寄る。
俺は立ち上がると、アイムの頭を撫でた。
気持ち良さそうにニコニコしている。
可愛いなぁもう!!!
「……て、てめぇら……」
声に振り返ると、青い顔をして半分正気を失ったドワーフが、斧を引きずってこちらに来る。
「アイム、逃げるぞ」
「大丈夫だよソータ、任せて」
そういうと、アイムは俺の前に立ちはだかった。
「なんで……スライムごときに……人間ごときに俺が負けるっ!?」
ドワーフはアイムに向かって斧を降り下ろす。
「【硬化】」
アイムは新しいスキルを唱えると、斧を受け止めた。
「ねぇドワーフのおじさん……わたしね、おじさんに感謝してるの」
ドワーフはかつての相棒のスキルを見て、半狂乱になりながら斧を振り回す。
しかし、アイムには意味がない。
「おじさんの食料で、ソータを救えた。 おじさんが殺しに来てくれたから、ソータと契約できた。 おじさんの岩トカゲがいたから、今こうしてソータを守れてる」
ドワーフは泣いていた。
俺からすれば、人を蔑み、スライム達を殺しまくった嫌な奴。
でも、あの岩トカゲのことは、こんなに泣くほど大事にしていたのか……。
俺が同情するのは筋違いだけど。
「だからおじさん、逃げていいよ。 わたしもおじさんを、食べたくないの」
ドワーフはガタガタ震えだした。
先程の相棒のように、吸収される自分の姿を想像したのだろう。
こちらを向いたまま、ゆっくり後ずさる。
こいつはこのまま、この場を去るだろう。
……終わったな。
俺は手を伸ばし、アイムの頭をなでた。
こちらを振り向き、ニコニコしている。
でもさっきの脅しは、ちょっと怖かったぞ♪
「主、ここには杖持ちが二人いるようだ」
「あらそう、じゃ、どちらも潰しましょう」
物騒な声が聞こえてきた。
部屋の入り口を見ると、耳の長い人間……エルフが二人、現れた。
女の方は、杖をドワーフに向けている。
「【風刃】」
彼女がそう呟くと、ドワーフの持っていた斧が一瞬でズタズタになる。
ひっ……と、気を失ったドワーフは、その場に倒れ込んだ。
エルフの彼女は、そのまま杖をこちらに向ける。
俺の前に、アイムが立ちはだかった。
「ソータを……させない」
エルフは冷たい表情でアイムを見つめる。
そしてそのまま、抑揚のない声で呟く。
「【風刃】」
鋭い風がこちらを襲ってきた。
俺は、考える間もなく動いていた。
「アイム!!!」
アイムの体をつかみ、地に伏せる。
それを見たエルフの表情が、怪訝そうに曇った。
――バシュッ
背後から聞こえた小さい音に振り返ると、そこには。
ズタズタに引き裂かれた、俺の「やわらかい杖」が落ちていた。
余談ですけど、アイムの名前は「あかいスライム」の最初と最後を取った感じです。
まったく草太は安直ですね。
……え?作者が安直なわけじゃないですよ、えぇ。