01-03 スキルと武器
つぎ行ってみよーう!
やばい。
腰が抜けた。
『あのー、お兄ちゃん? 大丈夫?』
目の前にいるのは……スライム。
それも、真っ赤な血のような色をしている。
うーん、そんなに危険な感じはしないけど。
とはいえ油断はできない。
『えっと……』
これはテレパシーみたいなもんか?
まあいい、会話をしてみよう。
それで、こいつが危険かどうか判断するのだ。
「ごめんごめん、突然話しかけられたからびっくりしたんだ」
『そっかー、よかったー♪』
「君が俺を助けてくれたのかい?」
『うん、みんなで沼からひきずりだしたのー♪』
なるほど、どうやらアレは夢じゃなかったらしい。
話の内容からしても、このスライムはおそらくセーフだろう。
「みんなって、他のスライム?」
『うん! あ、みんな呼んでくるね~!』
『みゅ~ みゅ~』
赤スライムちゃん(仮)が、鳴き声のようなテレパシーを出す。
すると、どこに隠れていたんだろう、岩の割れ目や壁の隙間から、出るわ出るわスライムの山。
でもまぁ、危険じゃない事が分かると、なんかちょっと可愛いかもしれない。
スライム達が集まる間に、俺も腰抜け状態から脱却。
やっぱり大事なのは、平常心と心の余裕だよね!
「あれ、そういえば、赤いスライムは君だけなのかい?」
『うん、そーだよー!』
「なんで?」
『わたしがお兄ちゃんの血を吸ったからだよ~♪』
「うぇぇい?」
敵襲ー!
敵襲ー!!!
こいつらみんな俺の血をあばばばば……
……俺がようやく落ち着いたのは、それから30分ほどした後だった。
『お兄ちゃん、大丈夫?』
「あ、あぁごめんな……」
ヘタレでごめんな、赤いスライムちゃん。
どうやら俺の血を吸ったのは、怪我を治すときだったらしい。
沼で俺を見つけたとき、右腕を中心にひどい怪我をしていて、治療のできるスライムは総出で治してくれていたそうな。
さっきはホントごめんなさい。
『だから、お兄ちゃんとお話できるのは、わたしだけだよー』
「ん? どーゆーこと?」
『きゅーしゅーとぶんれつなの~♪』
……わからん。
何を言ってるのか全然分からないが、どうやら他のスライムは俺と会話出来ないようだ。
とにかく、今のうちに聞けることはいろいろと聞いておこう。
「ところで、ここはどこなんだい?」
『洞窟だよ!』
「うん、えーっと……どこの国にある洞窟だい?」
『国?』
「そう、国」
『それなーに? おいしいの?』
くっ……その返しを素でしてくるとは。
スライム、侮りがたし。
ま、そりゃスライムに国は関係ないもんな。
あとは……
「月っていくつあるんだい?」
『月? 2つだよ?』
ふむ。
まースライムがいる時点でわかってはいたが、ここは少なくとも、地球じゃない。
非科学的なことこの上ないけど、これは異世界ってやつだろう。
『ねーねー』
「なんだい?」
『お兄ちゃんって何スライムなの?』
「へっ?」
何をおっしゃるお嬢さん。
どっからどう見ても……
「俺は人間だぞ?」
『えー』
「どうやったらスライムに見えるんだ?」
『だってスライムの匂いするの』
衝撃の事実。
俺の体臭はスライムの香り。
そんなことを考えていると、一匹のスライムがこちらに擦り寄ってきた。
「どうしたんだい? ――っと」
両手で抱え上げたのは、ちょっと白っぽいスライム。
俺の手の上でプルプルしながら、『みゅ~』って鳴いている。
なんか可愛い。
『お兄ちゃん、この子が、【同化】してもいい? って言ってるよ』
「同化? なにそれ?」
俺が返事をするより先に、その白いスライムはドロっと溶けて形を失った。
両手で上で起きた突然の事に、言葉が出ない。
――ポン
スキル【鑑定】を獲得しました。
頭の中に流れる声。
なんだこれ……
スキルっていうと、ゲームみたいなやつか?
うーん、【鑑定】って名前からして危険はなさそうだから、ちょっと試してみるか。
「【鑑定】っと」
赤いスライムちゃんを見ながら呟くと、目の前にウィンドウのようなものが表示された。
[種族]
スライム
[称号]
人間の血液を吸った者
[種族スキル]
分裂 Lv.MAX
同化 Lv.MAX
溶解 Lv.1
吸収 Lv.1
変形 Lv.1
[個別スキル]
人語理解
[能力]
筋力 E
体力 E
魔力 E
知力 E
敏捷 E
ふーん、なるほどな。
詳しいことは分からんが、なんか赤いスライムちゃんの詳細が出てきた。
スライムがいて、スキルがあって。
まるでゲームのような世界だなここ。
ちなみに俺はどんなステータスなんだろう……
[種族]
人間
[称号]
神の杖の保持者
スライムと同化した者
[個別スキル]
杖術 Lv.1
[同化スキル]
鑑定 Lv.1
[能力]
筋力 D
体力 D
魔力 E
知力 D
敏捷 D
能力、低くない?
スライムよりはさすがにアレだけど、最底辺と比較しても仕方ないし……。
それより、なんかいろいろ書いてあるな。
同化スキルってあれだよな、さっき白いスライムが溶けたやつ。
あれは俺に同化して、たぶんだけど【鑑定】をくれた、ってことなんだよな。
なんとありがたい。
そして、もしかすると、いろんなスキルを持ったスライムと同化すれば……ふふふ。
俺、最強の予感!!!
『楽しそうだね~♪』
「ふふ、まーな。 他にもいろんなスキルを持ったスライムっているのか?」
『あんまりいないよー』
「そ、そうか……」
まーそれは後々考えるとして。
それより気になったもの。
神の杖の保持者!
神の杖って、聞いた感じすごい武器っぽいな!
なんか全魔法使えるとか?無双出来そうな感じ?
ふふふ、強くなって~モテモテになって~ハーレム作って~♪
夢広がるな!!!
ところで、その肝心の神の杖とやらが見当たらない。
「俺が沼で死にかけてた時、何か杖みたいなものは持ってたか?」
『なんにもなかったよー』
「そうか……」
死にかけて記憶も失ってたってことは、誰かに奪われたのか?
でも称号には「保持者」って書いてあるし……
俺が持ってるものなんて、時計と靴と指輪……ん? 指輪?
試しに、【鑑定】っと。
お?
[名前]
やわらかい杖
[杖スキル]
溶解 Lv.1
変形 Lv.1
[説明]
100本に分かれた神の杖の1本。
スライムの能力が宿る。
やわらかい。
「起動」と唱えると杖の形になる。
……。
使えるのか? これ。
でも、神の杖っていうくらいだ。
この【変形】ってのがきっとすごいスキルなんだきっと。
ものは試しだ!
「【起動】【変形】」
起動を唱えると、指輪は杖の形に。
剣をイメージしながら変形を唱えると、さらに杖から剣の形に変形した。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
そのまま出来た剣で壁を切りつける。
いっけぇぇぇぇ!!!
――へにゃ
やわらかい杖が変形した剣は、やわらかい剣だった。
……うん、予想は、してたんだけどね。
膝から崩れ落ち、涙を流す俺を、スライムたちは優しく見守っていた。
みなさんも草太を優しく見守ってあげてください。