01-02 草太と洞窟
二話目です。
のんびりいきます♪
「知らない天井、もとい洞窟だ……」
目が覚めると、そこは洞窟の中だった。
体の下には藁のような乾いた草が敷かれている。
「体には、異常はないみたいだな」
上半身を起こし、体を確認してみる。
うーん、異常がないどころか、やたらお肌がスベスベしてる気がするぞ?
てか、服がなんか知らない服になってる。
ま、いっか。
軽く背筋を伸ばして、あたりを見渡してみた。
「洞窟……だな」
ひとまずは現状確認。
俺の名前は真島草太。
高校1年生の16歳。
家族構成は父、母、妹。
付き合ってる彼女は今はいない。
……ごめん、ずっといない。
今は7月末で、高校生になって初めての夏休みが始まったばかりだ。
夏満喫するぞ!
うん、ここまではいいな。
で、あーそうだ、妹にじゃんけんで負けて、アイスを買いにコンビニに向かってたんだ。
コンビニは、うちから見ると裏手の神社を挟んで反対側にある。
だからいつものように、神社の中をショートカット。
これがいけなかったのか……
神社の鳥居をくぐると、急に体のまわりが白く光り始めて――
――あれ?
その後の事が思い出せない。
頭の中に霞がかかったのような、そんな感覚。
その後のことで思い出せるのは、美女とスライムの夢だけだ。
……まったく、変な夢を見たもんだ。
ところで今何時だろう?
左腕にはめた時計を見ると、
08/29 08:33:57
ふん、朝の8時半くらいか。
……ん?
08/29 08:34:06
見間違いだろうか。
8月……?
なに、え?
俺の覚えてる日付から1ヶ月くらい経ってるんだけど。
え?
あ、宿題やってない。
てか、夏満喫してない。
……いや、そんなことより、ここ1ヶ月の記憶がない。
胸に込み上げる焦燥感を、無理やり飲み込む。
焦っても仕方ない。
身の回りの範囲で、わかることから考えてみよう。
まず服装。
柔道着を薄くしたような、というか。
甚平の裾が伸びて生地が厚くなったような。
そんな感じの服。
色はクリーム色がくすんだ感じ。
俺はこんな服持ってなかったけど、この1ヶ月のうちにファッションセンスが大幅に変わったんだろうか。
うーん。
右手の中指には指輪がはまっている。
男がアクセサリーを着けるなんて軟弱な!
……というか、センスに自信がないからそーゆーのを着けたことがなかったんだけど。
身に覚えのあるのは、腕時計とスニーカーくらいか。
腕時計は4月に親からもらった誕生日プレゼントで、ソーラー充電式で耐水性・耐衝撃性を兼ね備えた結構な値段するやつ。
ま、無事志望校に受かったご褒美もかねてってところだな。
スニーカーはお年玉で買ったお気に入りのやつ……だったんだけど、どうやらこの1ヶ月でちょっとボロくなったらしい。
泣きそう。
さて、この洞窟、どうしようか。
なんかの人さらいにでもあってるなら、この隙に逃げた方がいいだろう。
でも、洞窟の広さも出口もわからない状態で出歩くのは危険すぎる。
仮に迷って穴に落ち、身動きが取れないまま餓死……うへぇ、嫌な想像しちまった。
ここまで運んでれた人がイイ人って可能性も考えられる。
状況も分からない今、下手に動かない方が得策だろう。
この時、俺は想像していなかった。
ここに俺を運んだのが、「良い人間」か「悪い人間」かのどちらかだろうという想像しかしていなかった。
だから――
『あ、お兄ちゃん起きたんだね♪』
背中から聞こえる声に振り返ると、そこには、血のような真っ赤な色をした「スライム」がいて――
「うぁぁだでだぁぁへはぁぁ!!!」
俺はとんでもなく情けない声を上げ、腰を抜かしてへたりこんだ。
やっと草太以外の人が登場です。
人じゃないけどね。