The Summer Of Wishing
これが私の処女作です(^^)/
夕日が山際に沈み始め、辺りは黄昏色に染まりだした。逢魔が時、というやつだ。一面ひまわり畑に覆われた景色は夕日の橙色に染色され、少々不気味な雰囲気を醸し出していた。
そんな中で僕は自身より背丈が高いひまわりに囲まれ、慄然としていた。
迷った。
僕自身より高いひまわり群は天然の迷宮を作り出していた。どこに行っても続くのは若い茎と太陽みたいな黄色。迷うのも無理はなかったが、この年にもなって迷子は屈辱的だ。僕は学校の仲良し五人組と旅行に来ていた。今日訪れたのは際涯なく広がるひまわり畑。絶景と知られているが知名度は意外と少ない。それはとてつもなく田舎だからだ。周囲には村どころか家一軒ない。僕らは夏休みを利用して、やってきた。周りには宿はないのでキャンプの用意をして、だ。
そしてここのひまわり畑にはある逸話がある。ここのひまわり畑には一本だけ永遠に咲き続ける、特別なひまわりがある、というものだ。
そしてそのひまわりは見つけると願いが叶うと言われている。
僕らはその特別なひまわりを探しにきたのだ。
僕は歩みを止め、上を仰いだ。日は傾き、ちらほらと天空の星々が明滅し始めた。いよいよ帰らないと本格的にマズい。よりにもよって携帯のバッテリーは落ちている。暗闇に包まれれば、完璧に遭難だ。僕は、焦燥感に駆られ、再び歩き出した。
飽きるほどの緑の柱。目的地から遠ざかっている感覚さえする。全く現在地が特定できない。星の位置から方角が特定できると言うが、僕にはそんな知識は持ち得ていない。
どれほど歩いただろうか。何時間も歩いた気がするし、そんなに長くなかった気もする。日の傾き具合から判断してそう何時間も歩いたわけではなさそうだ。やがてちょっとした広間に行き着いた。そこにあったのは先程見ていたひまわりとは少し違ったものだ。みてくれは普通だ。だが、身体に伝わってくる不思議な感覚が僕を惹きつけるのだ。すると、そんなひまわりの中に奇妙なものを見つけた。
人だった。しかも、少女。僕は足を止め、その少女を見やった。逆光で細部は見えないが、10歳くらいのものだろう。
「君、は…?」
「……」
少女は語らない。値踏みするかのようにその深く底知れない瞳を僕に投げかけてくる。
「…そう」
「え?」
「それが、あなたの…」
最後まで聞き取れなかった。周りの数多のひまわりがざわめき始めたからだ。赤い夕陽がひまわりの黄色と混じり、奇妙な橙色を描き出している。
「帰りなさい、あなたが求める場所へ…」
少女の輪郭がぼやける。否、僕の焦点が合わなくなってきているのだ。夕陽の逆光が相乗効果となり、更に感覚が薄らいでくる。揺らぐひまわりたちがまるで魔物のように歪な空間を創り出している。その主は勿論、この少女だ。感覚がかなり鈍ってきた。最早自分が立っているかすらも解らない。それでも最後に垣間見た少女の顔はくっきりと脳裏に焼き付いた。
慈愛を含んだ、優しい笑顔。
全てを包み込む、優しい笑顔。
笑っていたのだ。
そして意識は心の深淵まで沈み、途切れた。
「……ってば、…起き……ってば、……」
誰が語りかける。そして揺れる。
「ねぇってば、起きてってば!!」
怒鳴り声が脳に響く。そこで、意識は覚醒する。
「ん……」
重い瞼を上げ、飛び込んできた景色は困り果てたように僕を揺すってくる友人だ。
「お、目が覚めたか」
隣にはもう一人の友人がこちらは対極に特にどうも思わないと言いたげな表情で僕を見下ろしていた。
僕は、気怠い身体に叱咤し、身体を上げた。
「あれ、僕は…」
どうしてここにいるんだろう?さっきまでひまわり畑の真っ只中にいたはずだが。
「お前どこ行ってたんだよ、ずっと捜してたんだぜ?携帯繋がらないし、姿見えないし。どこまで伝説のひまわりを捜索してたんだ?」
そうだった。僕らは枯れることのない半ば伝説的なひまわりを探しにきたのだった。
「そこで僕が捜索される羽目になったのか…」
なんとも情けない話だ。
「そうよ、私達すっっごく心配したんだから!」
「そうだぜ。コイツなんかもう取り乱してさあ、ああもうどしようまず警察かしらでもここからじゃ遠いしって痛ッ!なにすんだ!」
「そんな取り乱してないわよ!!」
「どうだか?コイツお前倒れてるの見つけたときもすっげえ動揺っぷりだったんだぞ」
ドスッと腹にストレートをくらい、うずくまる。もう片方はふうふう言いながら真っ赤な顔をして睨みつけていた。
「とにかく、そんなんじゃないから!」
もう僕はうんとしか頷けなかった。
「ところで、あと二人は?」
ダメージから回復して(かなり早い。普段から受け続けているからだ)説明する。
「ああ、二人はテントの設営に回ってもらってる。もう暗いしな、少数精鋭ってわけだ」
なるほど、と嘆息し、僕はよいこらしょと起きあがる。
「ちょっと…大丈夫なの?」
「うん、体力的には大丈夫」
既に日は沈み、山岳方面に僅かな赤を残すのみだった。
「それで、だけど…」
「うん?」
「見つかったの?桃源郷…」
桃源郷とは伝説のひまわりが植わっているだろうと考えた場所のことで、僕らが言い回しとして呼び合っているもののことだ。桃源郷とは言い得て妙だった。
僕は、少し考え、こう言った。
「…いや、見つからなかったよ」
あの光景は秘密にしておくべきだろうと思った。幻想的な雰囲気、神々しささえ感じられる少女───まるでこの世界から切り離された空間のように思えた。なら無下に壊す必要もない。しかも彼女には借りがある。
迷ってしまった自分をここに送り遂げたのはだれか。
ひまわり畑には逸話がある。永遠に枯れない一本のひまわりに出会うと一つだけ願いが叶う───
それに僕が望んだものとは───
「…そう」
微妙に残念がる仕草を見せ、肩をすくめた。
「なら、早く帰りましょう。二人が待ってるわ」
「ああ、そうだな」
二人が歩いていく。僕もそれについて行く。数歩歩いたところで、立ち止まり、後ろを振り返った。
あの光景はこの莫大な宇宙の神秘の一端だったのかもしれない。僕らはそんな巨大なシステムのビット程度のデータ量しかないのかもしれない。だが、その程度のものだとしても僕らは確かに生きている。ちっぽけかもしれないけど、無力かもしれないけど。ここに存在しているのには違いない。小さいなら小さいなりのやり方だってあるはずだ。それを模索するのが人生だってものじゃないか?たった十七年生きてきただけで何を知ったように、と僕自身そう思う。
だけどこれだけは言える。
人生は楽しむものだ。快と悦を求め、突っ走れ、と。そういえるはずだ。
なら僕はそうあろう。
短い人生を悔いのないものにするために、今を謳歌しよう。
この夏は、まだまだ終わらない
初めて投稿しました。
拙い小説ですが、短編小説なので簡単に読めると思います。
批評等ありましたら気軽投稿してください。
ある程度の暴言なら耐えます。耐えてみせますとも。