《2話》性分
俺の名はフィスト。その名の通り拳が自慢の戦士だ。
人狼の生まれで、耳や尻尾が人間とは違う。
「まぁ、汚い猫だわ」
ひそひそと話す井戸端会議に出くわし、俺は足を止めた。
長く旅をしていると、つい耳にした噂話しに興味を持ってしまう。
騒ぎの先を見ると、猫――それも人型をした、人猫の類だ。
人型の獣は色々種類があって他にも、虎や犬、鳥に蛇もある。有名所では人魚だな。
「何だ、ただの捨て猫か」
興味を失い俺は目を逸らす。浮浪者を相手しては旅など成り立たない。
立ち去ろうとした時、人猫は俺の元に駆け寄ってきた。
「いい匂いがするにゃ」
前にどこかで聞いた事がある、人猫は人間の3倍生きるが見目は13才で成長を止めるらしい。
見分けるポイントは口調で、語尾に《にゃ・うにゃ〜ん》とか付けるのは幼い。
《です・だ》などしっかりした口調だと大人だそうだ。
歳をいくと恥じらいが出てくるらしい。
つまり、この人猫はまだ幼いようだ。
「あっち行け、しっしっ」
手を振って面倒臭そうに追い払った。
ぐーぎゅるるる
まるで獣のうなり声のような音。
人猫の腹から発せられたものらしい。
「ソースの匂いにゃー」
当たりだ。
さっきたこ焼きを買った。
俺は構わず歩き出す。
楽しみなおやつを取られてはかなわない。
「いい匂いだにゃん」
何処までも早足の俺について来て、すぐ脇で、獣のうなり声をならし続けた。
「いい加減にしてくれ!」
うっとおしくなって、ついたこ焼きを空中に放り投げた。
「にゃにゃん!」
見事な跳躍を見せ、人猫はたこ焼きに飛びついた。
「それやるから、付いて来るな!!」
きびすを返して人猫にを向けた。
「うにゃ〜ん。嬉しいにゃ。久々のまともなご飯だにゃ。
ありがとう
ありがとう」
瞳からボロボロ涙をあふれさせて、人猫は泣き続けた。
俺は顔をしかめる。
別に礼を言われるようなことをした覚えはない。
しかし駆け出そうとした足は重く、途中で止まってしまった。
「あぁ、くそ!」
頭を掻きむしると、再びきびすを返して戻ってしまう。
足が勝手に動くのだ。
そうしないと、胃の中がムカムカしてならない。
どっかりと、人猫の隣に腰を下ろした。
「食い終わったら言え」
蓋に付いた鰹節を小さな舌で舐めてた人猫が、にゃ?と首を傾げた。
「もっとマシなモンを食わしてやる。たこ焼きだけで腹が膨れる分けないだろ」
言うと、人猫は瞳を輝かせた。
「いい人だにゃん」
飛びついてきて、ゴロゴロ喉をならした。
まさしく猫だ。
「わ、止めろソースが付く!」
一応言っておく。
人狼は信用した仲間にしか餌を分け与えない。
後先ではあるが、人猫に餌を分けたおかげで、俺の本能はこの人猫を《仲間》と認識してしまったらしい。
普段の俺はこんな事しないんだ。
「よう、お前の名前は何て言うんだ?」
「にゃんには名前ない。呼ぶ人居ないから」
「名無しか。なら俺が付けてやる」
しばし人猫を見つめた。
人猫は俺ら人狼と違い、魔法に詳しく、扱うことのできる種族だ。
「俺の名は拳――フィストだから、お前は杖――ワンドってのはどうだ?」
「にゃんがワンド!わぁい♪すてきな名前だにゃあ」
「そうか、気に入ったか」
まあ、センスの有る無しはともかく、喜んでるなら良しとしよう。
「言っとくが、飯食わすまでの付き合いだからな」
「わぁいっ!」
やれやれ、分かってるのか?
…まぁ、この時分かってなかったのは俺の方で、飯をおごったことにより、より情が移ってしまうのだが。
人狼ってのは、厄介な性分を抱えたものだ。