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堕天使の君と、恋に堕ちるまで  作者: ラストジェネレーション


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第九話 神殺しの策

 早朝、僕はベッドの上に横になっていた。戦闘の最中に堕天使に助けてもらった事は覚えている。気絶してしまったというのだろうか?


「情けないな..」


「何が?」


「う、うわあ!」


 同じ布団を被るエリナの存在に気づく。ずっと真横で寝ていた彼女を、僕は一切認識出来ていなかった。


「おはよう。昨晩、ミカエルから伝言をもらった。貴方が意識を取り戻し次第、この家から立ち去るようにって」


「わ、分かった..」


 部屋の中から、鏡台の横にある窓が目に映る。


「あのさ..。僕たちって昨日、天使の襲撃を受けたはずだよね」


「えぇそうよ」


「じ、じゃあ..。何で壊れたはずの窓や壁の亀裂が元通りになってるの..?」


「さぁ? 私は戦いの一部始終を見たわけじゃないから分からないけど、ミカエルが治してくれたんでしょ」


「なるほどね。どうやったのか、後で聞こう..」



 ミカエルは街の中心にある、廃墟同然の教会の前で佇んでいた。その姿があまりにも似合いすぎていて、深い吐息を漏らすと、その情景を見ていたエリナも同意した。


「堕天使なのに、あれだけ美しいのって、やっぱり不思議だね..」


 彼女は天使から堕ちた存在。本来であれば醜さの象徴とも言えるべきだから、エリナが疑問に思うのも無理はない。


「....。うん。ミカエルは逆に、あの黒い翼じゃないとしっくりこないというか..」


 これは僕が初めて彼女と出会った時から抱いている感情だ。僕は、あいつの漆黒の翼を見て、とても綺麗だと思ってしまった。


「君さ、やっぱりミカエルの翼好きだよね。視線がいきすぎてるから分かりやすいよ」


「そんなにかな..?」


「うん。男が女の乳とかケツをジロジロ見てくるのと同じ。そういう視線て向こうは無意識で追うものだから自覚しにくいのよね」


「....?」


「おっとごめん口が滑った。今の例えは君にはまだ早かった。もっと幼い子向けにいうなら、『気になる人を自然と目で追ってしまうようなもの』とでも言い換えるべきかな」


「俺、別に幼い子供じゃないんだけど..」


「そういうのでいちいち反応するからガキなのよ。大人はもっと余裕があって落ち着いてるものよ」


「......」


「寡黙になれと言ったわけじゃないわ。挑発してごめんね。年相応の振る舞いで良いのよ。無理に大人になろうとしたって、良いことなんてないから....」


「そうなの?」


「私を見てれば分かるでしょ。はぁ、戻れるなら何も知らなかった無垢な少女の頃に戻りたいわ..」


「エリナにそんな時あったの?」


「あ、あるに決まってるでしょ! 今の貴方だってそうじゃない!」


「ぼ、僕が無知だからってバカにすんなよ!」


 二人で言い争っていると、それを見かねたミカエルが穏やかな足取りで近づいてきた。


「こらこら..、喧嘩しないの」


「でも、エリナが僕のことバカだっていうから..」


「だってそうじゃない。11歳にもなって掛け算も割り算も出来ないのはバカよ。バーカ!」


「ば、バカと言う奴がバカなんだぞ!」


「わ、私は掛け算くらい出来るし....!」


「....。はぁ、何? 要するに二人とも、勉強したいってわけ?」


 堕天使の問いかけに、僕とエリナはダンマリを決め込んだ。


「全く。勉強嫌いなんだから..」


「だって意味ないじゃん。数字を掛けたり、割ったり..」


「..。意味はあるわよ。この世界の大体の物理現象は微分方程式で説明がつく..。でも、その概念を理解するにはある程度の数学に関する教養が必要なわけ」


「ほ、本当かよ..?」


「私の発言が嘘か真か。それも、勉強して自分なりの知識を得ていないと分からないよね」


「くっ....」


「でも、私は貴方たちよりほんの少し知識の量が多いだけで、分からない事だって沢山あるの..」


「ミカエルにも..?」


「うん。そうね..。例えば時間。今この地球に降り注ぐ太陽の光は、正確には数十分前の光なんだけど、それには光の伝わる速度が関係している。夜に見える星だって同じ。これを一般化すると宇宙全体に無数に散らばる恒星との間には、三次元空間の他に時間軸が存在している。なのに、どうして私たちは過去や未来には行けないのか..」


「そんなの、当たり前だろ..」


「ミカエル..。貴方の疑問は、今の私の能力だと処理しきれないですよ..」


「....。難しかったかな..。でも、考えてみてよ! 今じゃなくて良いから」


「は、はい..。あ、話変わるんですけど、この街を出てから何をするんですか?」


 と、慇懃に尋ねるエリナに堕天使は答えた。


「ひとまずは襲ってくる天使を倒しながら、周辺の街を転々としていきましょう」


「ど、どうしてそんな事を続けるのですか?」


「天界に私たちの存在を認知させるためだよ。”かつての力を取り戻した堕天使”と”天使を消滅させる能力を持つ少年”が、自分たちに牙を剥き始めたとね..。神殺しという最終目的は、相手に悟られても問題ない」


「はぁ..」


「現時点で私達が対処する必要があるのは天使だけ。でも問題は二つある。一つ目は、投入される天使が徐々に強くなっていく事。特に”四大天使”と名乗る奴らには気をつけて。二つ目は、神の言葉を人間に伝える預言者の存在。私と彼は大丈夫だけど、エリナは要注意して頂戴..。街を歩く時は特に..」


「分かったわ。けれど疑問も出てきた。そんなリスクがあるのに、神は天界から私たちに裁きを下すのでしょう?こちら側からは干渉出来ない。貴方の方法には何の”狙い”があるの?」


「ふふっ..。当然、神にとってみれば自身の配下である天使を殺す輩は目障りよ。けれど、天界にいる限り、裁きは下せない。故に、誰か目ぼしい生娘を受胎させ、神の子として地上に降り立つ必要がある」


「あっ..」


「そう。向こうも私達を殺すには、人間にならなくてはいけない。この上ない現実的なプランでしょ?」





 


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