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堕天使の君と、恋に堕ちるまで  作者: ラストジェネレーション


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第十三話 奴隷の少女

 ミカエルと共に、武具屋を探し回って小2時間。各地から珍しい特産品が集結するこの町であっても、それに該当するものは不自然なほどに見当たらない。


「可笑しい..。どの街にだって、商店街を少し歩けば見つかるのに..」


「えぇ、だから推測だけど、ミラニアは武器の販売を取り締まっている可能性が高いわ」


「どうして? 治安を維持するため、とか?」


「それもあるけど..。この街、武器を所有する必要ないじゃない。四大天使が治めているのよ」


「なるほどね。外敵が襲ってきても、ラファエルが対処するから問題ないんだ..」


「そういう事。天使が支配する町で武装している所なんて..」


「....??」


「ううん、何でもない。それより、随分と薄暗い裏路地に来てしまったようね..」


 堕天使は自身に対する不審な目線を気取ったようだ。緊張感の漂う面持ち、張り詰めた空気の中で、ジワリと迫り来る足音に耳を立てていた。


「....。もしかして?」


「預言者で間違いないわね。隠れていないで出てきなさい」


 ミカエルの威圧に怯んだのか、相手は逃げる事なく、堂々と真正面から現れた。


「チッ..。バレたか」


「..。昨日、私の事を一晩中見張っていたのは貴方?」


「さぁ..? 俺に女の寝床を覗く趣味はない..。泣きヅラの女は、特にな」


「なるほど。それは自白と受け止めて構わないかしら? その上で聞きたい。貴方は誰の命令を受けたのか」


「うーん..。その前提は間違えてるぜお嬢さん。俺は指示なんか受けちゃいねぇ。自発的に動いたのさ」


「何故?」


「そりゃあ。昨日あれだけの騒動があったんだ。閑散としてはいたが、嫌でも目についちまう。いや、耳に入ってきちまうって方が正しいか....」


「....」


 ミカエルは何かを悟ったのかもしれない。眼前の男だけでなく、周囲への警戒も強めた。


「俺からも質問だ。お前、何を企んでいる?」


「....」


「確かに答える義理はねぇよな。俺はお前に何も施しちゃいない。だから一つ教えてやるよ..。ラファエルは、お前みたいな堕天使が敵う相手じゃねぇ」


「....。それで、言いたい事は、以上かしら?」


 堕天使は前方に向かって手を伸ばした。次の瞬間、男の右肩から先は消滅し、空中に血飛沫が舞った。


「ぐ、ぐわあああああああ!!」


 路上に伝う血溜まりの上を闊歩し、氷のように冷たい表情を浮かべ、ミカエルは男の目の前で座った。


「貴方みたいな小物に用はない。あまり調子に乗らないで。殺すよ」


「ふぅ..、ふぅ......」


「周りにいる奴らも、こそこそしてないで出てきたらどう?」


「お、おい!! 誰か俺を助けーー」


「無駄よ」


 ボンッという、鈍い球が弾ける音と共に男の頭蓋は炸裂した。


「私、嫌いなのよ。口だけ達者で、狡賢く生きる人間は..」


 その直後、堕天使は両手を広げ、自身の半径30m以内に超音波を発生させた。人間では聞き取れないが、長時間晒される事で鼓膜は損傷し三半規管に影響を及ぼす。


「......」


「大丈夫だった? ミカエル」


「えぇ..。預言者を殺すのはあまり気分良くないけど、君こそ、随分と死体に慣れてない?」


「そりゃ..。僕のいた教会の近く、ペストって病が流行ってたから。街を歩けばそこら中にいたよ」


「......」


「遺体の処理とかもさせられてたっけ..。僕、どれだけ罹患者と接しても感染しなかったから」


「そう....。変なこと聞いちゃって、ごめんね」


「別に構わないよ。早く遺体が見つからないように後始末しよう」


「その必要はないわ。預言者はいわば、天使の成り損ない。定義上は人間だけど、肉体の構成成分は天使と同質だから、血は出るけど死んだら完全に消滅するの」


「え、そうなの?」


「さっきの超音波だって、人体には害のない周波数にわざわざ調節したのよ。この近くで聞き耳立ててた奴らはみんな、苦しんでいるだろうけどね....」


「....」


 エリナもこれで、街に怯える必要は無くなった。二人で安堵していると、預言者の遺体の近くから明確な意思を持って僕らを呼びかける声があった。


「あ、あのう..」


 しかし先程とは異なり、悪意や殺意は感じ取れない。純朴そうな少女が、背中と両腕に何やら大きな荷物を抱えてやって来るのだった。


「貴方、何しに来たの?」


「あ、え、えっと..。お礼を言いに来たんです。悪いお兄さんをやっつけてくれたから」


「..。悪いお兄さんて、もしかしてこんな服着てた奴?」


 ミカエルは路上に残る預言者の服を拾い上げ、少女に見せた。


「はい。その人と、後、他にも沢山。私を、ずっと狭い部屋に閉じ込めてた」


「どうして?」


「奴隷の私を、買ったから」


「なるほどね。でもその割には賢いし、善悪の区別もついている。勉強は誰に教わったの?」


「自分で勉強した。狭い部屋の中に、彼らが飽きて放置したままの聖書と哲学、心理学の本。色々読んだから、読み書きは人並みに出来るよ」


「ふふ..。努力家だね。この年まで一人でよく頑張ったよ」


 そう言って、ミカエルは少女の頭を撫でる。


「もうあの場所には戻らないで良いから、街の中心にある大きなお城を目指しなさい。そこにいる人達はきっと、あなたの事を歓迎してくれるから」


「あ、ありがとう..。でも、私からも貴方達に渡したいものが一つあるんだ。ここに来た時、武器が欲しいって話してたよね。だからこれ..、預言者が持ってた弓矢を盗んで来たからあげるね」


「....」


 棚からぼたもち。ミカエルは目を丸くしながらも、すぐに平静を取り繕う。少女の手から立派な弓と矢筒を受け取った時は、興奮からか鼻息が荒かった。


「こちらこそ..。欲しかった武器そのものよ。なんとお礼を言ったら良いか..」


「その必要には及びませんよ。ただ、それを使って、私みたいな境遇の子を一人でも多く助けてくれれば幸いです」


「....。あぁ、約束しよう。絶対にーー」


 何故かここに来て、ミカエルは言葉を詰まらせた。


「ううん。”絶対に”なんて言えないけど、救ってみせるよ」


「....。はい..。ここで拾って頂いた命。私も頑張ります」


 幼さを微塵も感じさせない、覇気のある声音だった。


 生まれた環境など関係ない。少女はこれから大成する、その片鱗はあった。


「ともあれ、一件落着ですね」


 困難に思えた武器の収集は、思いもよらぬ展開により成功した。









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