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堕天使の君と、恋に堕ちるまで  作者: ラストジェネレーション


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第十話 四大天使と元天使

 ここは、世界で最も栄えている都市だ。街の四方を囲む城壁と、中心に聳え立つ巨大な城。その内部にある特別な小部屋から数年振りに外に出た美しい女性は、遙か下方の街並みを見てつぶやいた。


「ふふ..。私を殺しにきたようね。堕天使..、いや、"元"四大天使。ミカエル..」


 第一章 =ラファエル=


「うわぁ! すごい大きな街だなぁ」


「ふふ..。この城塞都市、”ミラニア”を中心に、世界は南北に分断されているの。中継点であるこの街は、各国から珍しい品々が集まるのよ」


「あ、あの..。ミカエル..」


「どうしたの? エリナ」


「周りの人達の視線が、その..。すごく気になるんだけど」


「当たり前でしょ。美人なんだから」


「じ、冗談ですよね。私、誰かからそう言われた事、ないですよ..」


「それは今まで貴方と関わってきた男の見る目がなかっただけ」


「..。そんなものですかね..。嬉しいです..」


 顔の赤いエリナと歩くと、可笑しな建物が目に映った。看板には『休憩所』と書いてあるのに、中を覗くとそれはほとんど大衆浴場に近いものだった。


「何だろう..?」


「ミラニアは活火山が近くにあるから、湧水を利用した温泉が有名なのよ。その効能も確かで、湯水には天使の加護が含まれているという言い伝えもあるわ」


「へぇ..。まさかだけど、その話って..」


「本当よ。この城塞都市内部の閉領域は全て、四大天使”ラファエル”の力が及んでいる」


「四大天使..」


 ミカエルが言っていた。天使の中でも最上位に位置する存在だ。まさかこんな序盤で出てくるとは想像しておらず、動揺を隠せない。


「大丈夫」


 震える僕の肩を、エリナは背後から優しく触れた。


「三人で力を合わせれば勝てるよ。ミカエルも、勝算があって来たんでしょ?」


「勿論よ。今からその計画を説明するから、心して聞きなさい..」


「......」


「ラファエルの能力と、その殺し方について....」


 ミカエルが詳細を伝授しようとした次の瞬間、大きな砲声とともに大通りを練り歩く一行が、こちらに向かって近づいてきた。


「パレード..。お祭りでもやるの?」


「....」


 そう尋ねても、彼女の表情は険しいままだった。群衆を分けて通るだけあって、こんな真昼間から迷惑なのに変わり無いが、どうもそれだけでは無いようだった。


「ミカエル..」


「今は私に話しかけてこないで。向こうに気付かれる」


 この対応には、エリナも疑問視した。いつもの柔らかい態度を崩さず、彼女に語りかけた。


「どういう事か説明してください。”向こう”に、誰かいるんですか?」


「....。バレたわ。彼女、私たちを見てる」


「え?」


 ミカエルの言う”彼女”が誰なのか、おおよその察しがついた時だった。


『久しぶり。ミカエル..』


 その動作はあまりにも一瞬で、目で追う事も困難だった。堕天使の背後に周り、彼女の顎をクイッと上げる。身長は多分だけど2mを超えている。見上げ続けていると首が痛くなった。


「....。君は相変わらず、スキンシップがお好きなようね。ラファエル」


『ふふ..。そっちこそ、誰にでも軽口を叩くのは相変わらずね。ミカエル』


「....」


「今、ラファエルって聞こえた..」


 エリナと僕は臨戦体制に入った。天使と接敵した場合の定石通りだ。


『....へぇ。君が噂の少年か。触れただけで、天使をこの世界から消滅させられる』


 反撃も覚悟して特攻したが、拍子抜けだった。僕の掌はいとも容易くラファエルの膝に触れていた。これで勝ちは確定したはずなのに、自然とその気にならない。


「ど、どうして..」


 最悪の予感に限って当たる。ラファエルは、触れても消滅しなかった。


「ならミカエル! 私の身体に乗り移ーー」


『そうはさせないよ』


 鳴り響く凄まじい轟音と共に、エリナの肉体は遥か遠方へ吹き飛んだ。


 ガシャン


 道の端に並ぶ屋台と衝突し、鉄板が彼女の背中と後ろ髪を焼く。エリナは既に気を失っているのか、その場から動かない。人の肉が焼ける不快な音を聞きながら、僕は彼女のいる方に走って行った。


「起きて! エリナ!!」


 彼女に物理的干渉は出来ない以上、大声を出す他はない。しかし、エリナは気絶したまま目覚めない。それにミカエルはラファエルの元から離れようとしない。


「クソ..」


 堕天使は何をやっているのか? もう一度、彼女のいる方を向いた。


「........」


『最後に残ったのは貴方ね。天使を殺し、神を冒涜した少年よ』


「............おい」


『何よ?』


「ミカエルの顔を踏みつける、その薄汚い足をどけろって言ってるんだよ!!」


『あら。汚い言葉遣い。私、野蛮な男性は嫌いよ!』


 ラファエルは天を仰いだ後、指で十字の形を作った。何かの能力を発動させるつもりなのだろうか? 一心不乱でそれを止めようと走る僕を嘲笑うかのように、彼女は宙に浮かんだ。


『そこで気絶してる堕天使に、私の能力の事は聞いたかしら?』


「....。いいや、まだ何も知らない」


『そう。なら教えてあげる。私は、指定した閉領域内であれば、どこにでも瞬間移動出来る』


「......」


『そう。戦闘には不向き。そんな私が何故、四大天使に選ばれたと思う?』


「さぁ....?」


『えぇ。分からないが正解よ。けれど神は言っていた。この世界はまだ、一つの次元に達していない』


「一つの次元....」


『話は終わり。今から貴方を殺す』


 途端に、ラファエルの身体中からドス黒いオーラが立ち上った。天使のものとは思えないそれに対抗すべく身構えると、彼女はさっきまでの笑みを戻した。


『と言いたいところだけど、猶予を与えるわ。一週間以内に、この街から出て行きなさい』


「は..?」


『これは命令よ。私は、二人を殺したくない』


「二人..。まさか、エリナとミカエルの事を......」


『......。なるほどね。あの堕天使も用意周到だわ』


 いまいち会話が噛み合わない。もどかしさを覚える僕を気にするそぶりも見せず、ラファエルは飄々とした態度を崩さずに言った。


『ミカエルは、しばらくすれば勝手に立ち上がるだろうけど、問題はあそこで倒れている人間の女性ね。火傷は痕に残るから、今日中に温泉に入れなさい』


「な、なんだよお前..? 自分でやった癖に..」


『ふふ..。私は慈悲深いのよ。旧友を前にして、到底殺す気にはなれない』


「旧友..。お前、ミカエルと昔どんな関係だった?」


『あら..? それもまだ聞いていなかったの。ミカエルは堕天使になる前..』


「おしゃべりはそこまでにして。ラファエル!」


 ふと、背後からその声は響いた。気絶していたはずのミカエルが、意識を取り戻していたのだ。さっき頬を踏みつけられた所が青痣になっている以外には、目立つ外傷はない。


「ごめん。私はエリナの様子を見てくるけど、ラファエルの動向にも常に気を配っておくから」


『はぁ..。久しぶりの再会というのに、随分と嫌われたものだ』


「そりゃそうだろ。あんな事したら..。それより、君に一つ言いたい事があるんだ」


『え..?』


「ありがとう..。僕は君の事を殺そうとしてこの街に入ってきたのに..、見逃してくれて」


『........』


「初めて、天使とまともに交流できた気がするよ..」


『....。私も、久しぶりに....ミカエルと再開して、君にも出会えて嬉しかったと思うよ。最初のは軽い戯れだったつもりが、やり過ぎてしまったね..』


「....。そういえばエリナは?」


 堕天使の腕に抱えられた彼女が、今なお目覚めぬ状態でやって来た。


「屋台の提灯とか、屋根の布が衝撃を吸収してくれたおかげで、思ったよりも軽傷だった。とはいえ火傷と打撲があるから、数日は安静にさせておかないと..」


『....。お金は持ってる?』


「大丈夫よ。私にその手の心配をする必要はない..」


『ふふっ。それもそうか..。じゃあ一週間は、この街を好きに堪能して行きなよ。またね、ミカエル』


「ちっ..。何がまたねよ。調子のいい奴ね」


 しかし、悪態をつくミカエルの目の前に、既にラファエルの姿はなかった。


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