町は近いのに、俺だけがそこへ入る資格を持っていない
通りすがりの人です。
第3話では、町に「入らない」話を書いています。
入れない、のではなく、
入る前に立ち止まる話です。
第3話 選択肢が表示されない世界で、俺は一歩を踏み出す
町は、思っていたよりも近かった。
石の壁。
見張り台。
出入りする人々。
だが、門の手前で巡回兵は立ち止まった。
「ここまでだ」
「……入らないんですか」
「入れない」
即答だった。
男は門のほうを見ながら言う。
「町に入るには、
名前か、番号か、
最低でも仮登録がいる」
俺を見る。
「お前には、それがない」
門を通る人々の頭上に、
一瞬だけ淡い表示が浮かぶ。
肩書き。
役割。
所属。
俺には、何もない。
「……俺は」
「例外だ」
男は淡々と言った。
「この世界は、例外を想定していない」
遠くで鐘が鳴る。
町の中では、今日も普通の生活が続いている。
「ここで別れる」
巡回兵は、そう言って背を向けた。
「一つだけ忠告だ」
「表示が見えないなら、
それを当たり前だと思うな」
「……どういう意味ですか」
男は振り返らなかった。
「世界が親切なのは、
管理できる相手だけだ」
それだけ言って、門の中へ消えた。
俺は、町の外に残された。
名前も。
番号も。
行き先もないまま。
だが――
門の外の空気は、妙に自由だった。
「……なるほど」
誰にも管理されていない。
だから、指示もない。
それは不安で、
危険で、
でも。
「選ばされてない、ってことか」
俺は、町とは逆の方向へ歩き出した。
読んでいただき、ありがとうございました。
第3話で、
主人公は「世界の内側」に入らない選択をします。
ここから先、
彼は町の外側から、
この世界の歪みを知っていくことになります。
次回から、
世界は彼を無視できなくなります。




