剣を持つ男は、俺を助けなかった。ただ立ち去りもしなかった。
通りすがりの人です。
第2話は、「物語を動かす話」ではありません。
主人公はまだ何も得ていません。
強くもなっていません。
仲間もいません。
ただ、
「この世界がどう人を扱うのか」
その入口に立つだけです。
第1話のラストで一歩踏み出した、その続き。
本当に、そこからです。
第2話 名前を呼ばれないまま、剣を持つ男と向き合った
俺が一歩踏み出すと、剣の男は腰の剣に手をかけた。
抜く気はない。
だが、いつでも動ける位置だった。
「……近づくな」
低い声。
命令というより、警告だった。
俺は立ち止まる。
「敵じゃありません」
「それは分からん」
もっともだと思った。
草原で突然現れた、身元不明の少年。
警戒しないほうがおかしい。
「名前は」
短く、必要最低限の問い。
「……ありません」
男の眉が、わずかに動いた。
「嘘か?」
「思い出せないんです」
沈黙。
男は俺を値踏みするように見たあと、ゆっくりと息を吐いた。
「……厄介だな」
その言葉は、同情でも敵意でもなかった。
ただの事実確認。
「ここは人の通る場所じゃない」
「迷ったなら、来た方向へ戻れ」
「戻る場所が、分からない」
それを聞いて、男は初めて表情を曇らせた。
腰から、小さな金属板を取り出す。
某テレビゲームで見たことのある、簡易的な識別端末に似ている。
俺に向けると、板は一瞬光り――
すぐに沈黙した。
「……反応しない?」
男が小さく舌打ちする。
「登録がない。
いや……最初から、参照できない」
俺を見る目が変わった。
警戒から、困惑へ。
「お前、どこから来た」
「分かりません」
また沈黙。
男はしばらく考え込み、やがて言った。
「俺は巡回兵だ。
本来なら、ここで見逃す」
心臓が、少しだけ跳ねた。
「だが……このまま一人で歩かせると、
どこにも入れずに終わる」
剣の男は、俺に背を向けた。
「町の手前までだ。
それ以上は保証しない」
助ける、とは言わなかった。
守る、とも。
それでも――
草原に一人残されるよりは、ましだった。
「……ありがとうございます」
「礼はいらん。
俺はただ、面倒を避けたいだけだ」
そう言って、男は歩き出した。
俺は少し迷ってから、
その背中についていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第2話では、
「同行が決まるまで」を丁寧に描きました。
信頼はありません。
善意も、ほとんどありません。
ただ、
この世界のルールに当てはめられない存在が、
放置されるとどうなるか。
その片鱗が見えたと思います。




