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第九十四話 グラーツィアの皇子⑦

 感動的なシーンを終えて、話題は学園での事になっていた。

 主に実技魔法、俺の特別メニューについてだ。


「まぁ! それは本当ですか!?」


「ええ、ですが、教師役と言うより訓練相手と言ったイメージですが」


 俺の教師役という特別メニューを聞いたエルシアさんは興味深々な様子で驚いた。


「さすがはファレスさん! ……ですが、訓練相手となると尚更、皆さんの実力では……」


 エルシアさんは段々と言葉を弱くしていき、最後まで言い切らずに誤魔化した。

 しかし、言いたいことはよくわかった。


「……そうですね。皆さんサポートをするような動きは上手いのですが、個々の戦闘能力と言う面では一年生にも劣る、と言うのが正直な感想です」


「そうですよね……。ですが、少し不思議なんです」


 俺の言葉にまるで自分のことのように肩を落としたエルシアさんがそう続けた。


「不思議?」


「はい、確かに突出した魔法能力を持っている方は少ないのですが、少なくとも皆さんもう少しは戦えていたはずなのです。十二歳時の魔法披露宴では」


 ……なんだと?


「……エルシアさん、それは間違いありませんか?」


 思わず少し身を乗り出して確認してしまう。


「え、ええ。私の時は同じクラスの方は一人だけでしたが、授業で見せるような火力に乏しい魔法では絶対にありませんでした。リカルドさんと同月の方も魔法披露宴時の方が強かったとおっしゃられていました」


 ……一体どういうことだ?

 実力を隠しているメーディアさんに加え、他の貴族も実力を隠している?

 いや、そんなことは考えられない。

 実力を隠していればメーディアさんのように俺が違和感を持つはずだ。


 だが、エルシアさんやリカルド兄上の話が嘘だとも思えない。

 彼女たちには嘘を吐く理由がない。


 ……まさか、クラス単位で何らかの干渉を受けているのか?

 リカルド兄上やエルシアさん、メーディアさんなどある程度実力のある人はその干渉に無意識に抵抗したとか?

 そんなことが出来る魔法があっただろうか?

 ……ダメだ、分からない。


 次の授業で確かめてみるしかないな……。

 くそっ……クゾームの件に続いて、どうしてこう掴みどころの無い厄介な懸念点ばかりが浮かび上がるんだ。


「ファレスさん?」


 俺の手を見つめながら不安そうな顔を覗かせるエルシアさん。

 ……おっと、拳に力が入ってしまっているのを見抜かれてしまったようだ。


「ああ、いえ、何でもありませんよ。……そう言えばリカルド兄上は来週に謹慎があけるそうですが、エルシアさんは復学の日取りなどはもうお考えですか?」


 少し露骨だっただろうか?

 しかしながら、エルシアさんには学園生活に復帰するという重大ミッションが残っている。

 そんな彼女に余計な心配をかけるわけにはいかない。


「ああ、そのことでしたら昨日リカルドさんと相談しまして、リカルドさんと一緒に再来週に復学させてもらうことにしました」


 ん?

 リカルド兄上の謹慎明けは来週じゃなかったか?

 

「そ、その……リカルドさんが一人で戻るより誰かとの方が戻りやすいだろうとおっしゃってくださって……その……甘えさせてもらうことに……」


 ……ああ、なるほどね。

 あの純真堅物な兄上にしてはよくやったではないか。

 だが、それにしても謹慎明けすぐの一週間をさぼるというのは……まあ、彼の選択だ、何も言うまい。


「そうですか。……でもそうすると、すぐに実戦演習と言うことになりますね」


「はい、ですが今回からはリカルドさんと同じ場所に行くことになっていますし、最初は学園での対人戦ですから。この数か月、訓練できていないことは確かに不安ですが、それでもまだリカルドさん以外には負けるつもりはありませんよ」


 ……そうだよな、まあ、事故を起こしてしまった学園としてもこの件については譲歩せざるを得なかっただろう。

 普通ならリカルド兄上とエルシアさんは分けたいだろうが、教師が万全の護衛をしてしまってもそれでは実戦演習にならないし、落としどころとしては理解できる。


 リカルド兄上にとっては嬉しいだろうな。

 おそらくカーヴァリア家からの評価も上がっているだろうし。


「それは良かったです。まあ、本来信頼できる仲間同士で固めるはずだったのですが……その辺りは学園にはちゃんと責任を感じてもらう必要がありますね」


 ……正直、エルシアさんの北部送りもきな臭い。

 どうやったってあんな過酷な環境に即席パーティを送り込んで良いとは思えない。

 ……トールス・グランダルが一枚噛んでいそうだな。


「ふふっ、私のために怒ってくださるなんて、ファレスさんは優しいですね。でも、私は大丈夫ですので、どうか周りを見てあげてください」


 ……エルシアさんのため、と言うより面倒なトールスに苛立ちを感じていただけなのだが、話の流れ的にそう見えてしまっていたらしい。

 そして、それはエルシアさんに限った話ではなく……。


 背後以外のあらゆる方向から強い視線を感じる。


「ふふふっ、賑やかで楽しそうですね」


 エルシアさんは四人に詰め寄られる俺を楽しそうに眺めていた。


 ◇◇◇


 先日の実技魔法授業から再び一週間が過ぎた。

 その間、俺はエバンスとしてのサラの力も借りながら、クゾームの現在について色々なところを調べたが、結局出てくる情報はいつも「皇家によって厳重に監視されている」と言う情報のみだった。


 ……だが、これはいくら何でもおかしい。

 確かにクゾームは実行犯であり、ノウ領の腐敗の原因であるが、それにしたって一族郎党実質四年程度の謹慎と言う名の禁固刑に加えて、爵位の二位降格。

 処罰としては十分すぎるほどだろう。


 もし、より明確な見せしめにするつもりならば爵位をはく奪すればよかったのだ。

 爵位を残していると言うことはつまり、まだ徴用するつもりがあったと言うこと。


 しかし、だとすれば、ノウ家が未だ謹慎中と言うのはおかしい。

 これではただの飼い殺しだ。

 この状況が続けば、見せしめどころか皇帝の懐の狭さを糾弾する声がどこかから上がって来てもおかしくない。


 明らかにどこかで何らかの力が働いていると見て良いだろう。


 俺ははっきりとしないクゾームの件に頭を悩ませながら、特別メニューが行われる三年生たちの教室へ向かった。


「ファレス先生! 今日こそ、僕の本気を見せるよ!」


 訓練室に入るや否や声を掛けて来たのはベリル殿下だった。


「ああ。……決め手については考えて来たか?」


「もちろん! ねっ、メーディア!」


「は、はいっ!」


 そう言うと殿下はすぐそばに立っていたメーディアの手を引く。


「あ、そう言えば殿下、こちらを」


 するとメーディアさんが何かを思い出したかのように殿下に小箱を手渡した。


「ありがとう? これは一体?」


 殿下はお礼を言いながらその小箱を受け取るも、特に贈り物を貰う理由が思い当たらないのか不思議そうな表情を浮かべる。


「何でも、魔法発動の助けになってくれる魔道具だそうです。もし行き詰ったら、道具に頼るのもいいのではないかと思いまして」


 ほう……セレスティアの杖のようなものだろうか?

 それにしては大分サイズが小さい気がするが。


「そうなんだ! ありがとうメーディア。とりあえず今日はこれを使わずに授業を受けるけど、大切にするね」


「はい」


 ……俺が殿下はどこまでも真っすぐだなぁと場違いな感想を抱いていると、そんな俺をメーディアさんがチラチラと気にしている様子だった。



「さて、実戦演習までこの授業は残すところ今回を含めて二回。もうたくさんやって来ているとは思うけど、最終調整に向けて真剣に取り組むように」


 普段よりさらに四割増しくらいで気合いが入っている様子のホーミカ先生の掛け声によって今日も授業が始まった。


 ……さて、今日は俺もいつもより真剣に見るとしよう。

 まあ、俺の場合は先生とは違う視点で、だが。

 学生を見るという点では同じかもしれないが、俺が探るのはこのクラスが何らかの魔法の影響下にないかどうかだ。


 魔法とは厄介なもので、発動の瞬間は魔法が使われたことが分かりやすいが、以前に使用された魔法を探るというのは厄介極まりない。

 普通なら知っている魔力でもない限り、違和感にすら感じないだろう。


 ただ、俺はファレス・アゼクオン、魔力覚醒ラインがあり得ないほど高い代わりに備わっている能力は最高レベルだ。


 俺なら普通は感じられないような微細な違和にも気が付ける可能性がある。

 ……これに関しては確かめたことがないため、可能性という言葉が離れないが。


 いつも通り、俺とホーミカ先生がそれぞれフィールドに分かれ、二対一の構図で戦闘が始まる。


 このクラスは最初こそ低レベルを嘆くほどだったが、授業をこなすたびに皆が強くなっているのを感じさせる動きをしてくる。

 やはり、エルシアさんやリカルド兄上の言う通り、才能やセンスが皆無という訳ではないらしい。


 では、どうして今までこんなに弱かったのか?

 ジッと観察をしながら、迫る魔法を打ち払い、避ける先を読んでは魔法を放ち、いつも通り彼らを蹂躙していく。

 もちろん、訓練と言うことは忘れないように、速度や威力を落として、最大限彼らの訓練になるように調整もしている。


 そうして、遂にベリル殿下とメーディアさんのペアがやって来た。


「ファレス先生! お願いします!」


「ああ、来るが良い」


 胸を張って挨拶をしてくるベリル殿下と小さく会釈をするメーディアさん。


 ふと、そんなメーディアさんの頭部に身に覚えのある魔力を感じた。


「行くよっメーディア!」


「はい、殿下」


 二人は息を合わせて、軽快なフットワークで距離を詰めると俺を挟んでいきなり挟撃をしてくる。


(あの魔力、どこかで?)


 俺は咄嗟に掌底で小さな音を発生させ、それをリューナスの音魔法で音撃破として二人に向けて放つことでそれに対処する。

 二人は急に発生した音に体の動きを鈍らせながらももう一度かく乱の動きに戻ると、機会を窺うように弱い魔法で俺に距離を詰めさせない。


(……なんだ、この違和感は。……どうして、他の学生からは感じないのにメーディアからは違和感を覚えるんだ?)


 埒が明かないと思ったのか、突然二人が距離を取ると、メーディアさんが直系でバスケットボール二つ分ほどのそこそこ大きめな火球を放ってきた。


 俺はその魔法に対して水魔法を壁の用に展開することで対処する、が、俺の水壁とメーディアさんの火球が互いを打ち消し合ったそのさらに後ろからおそらく殿下の物であろう土弾が飛んできていた。

 

 どうやら火球は大きさに魔力を裂いたハリボテだったようで、彼らの本命の攻撃はその後から追撃するこの土弾だったらしい。


 しかし、残念ながら相手はこのファレス・アゼクオンだ。

 俺は弾けた水壁の水滴をサンの特技を真似て操り、水弾として射出することでそれぞれを撃ち落とした。


(……サン……そうか!)


 そしてそんな超人染みた技能を前に一瞬唖然とした二人の隙を見逃さず、セレスティアの雷の魔法で高速の電気ショックを放った。

 当然、この速度の魔法は発動後即対応しなければ対処は難しい。


 二人はそのまま俺の魔法による直撃を受け、ノックアウトした。


「ふぅ……中々良かったぞ」


 決まり文句のように俺はそう言いながら、もう一度メーディアさんをじっくりと見つめた。

 戦闘中に感じたあの違和感。

 そして、サンのことを考えたおかげで開けた活路。


 このクラスが今まで弱かった理由を俺は遂に解き明かした。

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