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第七十八話 学園入学⑬

 サラとクインの追及を何とか逃れ、せっかくの通信玉も何とか守り切り、二人を落ち着かせ俺たちはそれぞれ帰路に就いた。


「ファレス様、グランダル家やマーデン家はいかがなさいますか?」


 帰りの馬車の中、朝とは違いぴったりと俺の横に座ったサラがそう聞いてくる。


「現在、アゼクオンとスペーディアの繋がりはかなり目立っている。その最中での出来事だ。無関心でいるわけにはいかないだろう。……マーデン家はともかくグランダル家はかなり厄介だ。相手が人間である以上力でねじ伏せるというのも難しい」


 俺はそれには抗わずサラの好きにさせながら、今回の件の解決策を考えていた。

 

 今回の件を解決するのは実は簡単だ。

 現在の微妙な関係はっきりさせる、つまりスペーディア家がアゼクオン家の傘下であると発表してしまえば良いのだ。

 公爵家と侯爵家、この帝国においてその差は皇帝の血筋か否かと言う部分でしかない。

 むしろ、力だけで考えれば今のアゼクオン家は歴代から見ても最強クラスだろう。

 なにせアゼクオンの直系である父上と、北の大辺境伯家であるファルシアン家の直系である母さんが結ばれたのだ。


 立地的に両者がこの王都を挟んでいなければ独立したってやっていけるだけの力を持っていると言っても過言ではない。


 しかしながら、貴族は血を何よりも重視する生き物だ。

 スペーディア家がアゼクオン家の傘下として認められるには血の交わりが必要。

 つまり、この簡単な解決策を実行するにはスペーディアとアゼクオン間で誰かが結婚する必要がある。

 この壁さえ突破できれば、いくら皇帝の血筋であるグランダル家とはいえ、そう易々と侯爵家であるアゼクオン一門には手出しができなくなる。

 が、この壁が高すぎるのだ。

 なぜなら、現状スペーディア家とアゼクオン家の間で結婚できるのが俺とクインだけだからである。

 さて、どうしたものか……。


「……私にお役に立てることがありましたら何なりと」


「ああ……頼りにしている」


 サラによって半強制的に繋がれた左手に少しだけ力を込める。

 するとサラは嬉しそうにしてそれに応えるように俺の腕にもたれかかって来た。


 ◇◇◇


「おはようございます、ファレス様」


 翌日、学園に登校すると相変わらずの気品を振りまくセレスティアが挨拶をして来た。


「ああ、おはようセレスティア」


 馬車から降りたすぐそこで待っているというのは実に奇妙な状況だが、俺は気にしないことにした。


「セレスティア様。一体どうやって私たちがここに降りることをお知りになられたのでしょう?」


 しかし、俺の後に続いて降りて来たサラはそういう訳にはいかなかったらしく、真正面から突っ込んだ。


「あら、普段からファレス様のことを見ていればこのくらい簡単にわかりますわ」


 だが、そんなサラにもセレスティアは一歩も引かず、とんでもない切れ味で切り返す。

 

 えぇ……そんなことまで分かられてたまるか。

 というかここに止めたのは御者だよ! 俺の意志は関係ない!

 

「……どうやら、そこそこ分かっているようですね」


「ええ、貴方に勝つにはこのくらいしなければなりませんから」


 ……え? 何認め合っちゃってるんですかお二人さん?

 というかサラさん? あなたは御者がここに止めたことを知っていますよね?

 ……だめだ、内心のツッコミが止まらない。

 だが、二人もその調子のまま、どちらの方が俺のことを解っているかについての対決を続けている。

 いや、どうやってもサラが勝つよねそれ。なんでそんな健闘出来てるの?


 ………………。

 ………………!

 ………………!!

 

 二人のやり取りは段々とヒートアップして行き、遂には周りに人が集まるほどになってしまった。


「おい、二人とも。そろそろ――」


 いい加減止めないと収拾がつかなくなりそうだと、俺が声を掛けようとした時――ちょうど同じタイミングで別の方から声が掛かった。


「おい! ファレス・アゼクオン!」


 ……なぜか俺に。


 俺が呼ばれた方を振り向くとそこにいたのは……エンペン・グランダルとそれを煽てるルーカス・マーデンだった。


「なんだ? 何か用か?」


 瞬間的に俺は気を引き締めなおし、毅然とした態度でエンペンに向かい合う。

 するとエンペンは一つ大きく深呼吸をするとこう言い放った。


「僕と、セレスティアの婚約者の座をかけて勝負しろ!」


「……は?」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 何がどうしてそんな話になるのだろうか?


 それに昨日のことで懲りなかったのか……。

 人前で大見栄を切ると、見栄を切り通せないければ恥をかくのは自分の方だって身をもって体験しただろうに。


 そんなエンペンの発言を受けてか俺のすぐ横ではサラがセレスティアのことを少し庇うように一歩前に出ていた。


「まあ、待て。貴様の話は荒唐無稽すぎる。何をどうすればいきなりセレスティアの婚約者の座をかけた決闘が始まろうというのだ?」


「うるさい!! 本来セレスティアは僕の横にいるべきなんだ! 兄上がそう言ってたんだ!」


「お前の兄が何者なのかは知らないが、いくらグランダル公爵家と言えど、婚約を強制することは事実上不可能だ」


「うるさい! うるさい!! 勝負は一週間後だ、分かったな!!」


 エンペンは完全に頭に血が上った様子でそう言い切ると、ドスドスと足を踏み鳴らしながら学園に入って行った。


「……チッ」


 心の底から舌打ちが漏れた。

 ……本当に、見ていられない。

 あれはまさにバッドエンド一歩手前の原作ファレスそのものだ。


「ファレス様……申し訳ございません」


 俺が突然舌打ちをしたせいか、本気で申し訳なさそうな顔をするセレスティア。


「いや、気にするな。あのような愚か者は見ていられないだけだ」


 良いだろう。

 完膚なきまでに叩きのめし、悪落ちの隙もないほどにボコボコにしてあいつの後ろにいるであろう兄上とやらまで引き摺りだしてやる。

 絶対に不遇な悪役にだけはしてやらないし、させない。


 俺は心にそう誓いを立てて、二人を連れて教室へ向かった。


 ◇◇◇


 入学二日目、つまり初授業日の今日は帝国史の授業からだった。


 とは言え、授業初日と言うこともあり、制度化された型にはまった授業でもう再三聞かされ続けた内容に正直真面目に話を聞いている学生はそれほど多くない。


 現に……


「(ファレス様、昨日聞きそびれてしまったのですが、剣の訓練はいつごろからなさっておりますの?)」


 右隣のセレスティアは授業中だと言うのに平気で通信玉で話しかけてきているし……


「………………」


 左隣のサラは必死にノートを取っているかと思えば……「いや、気にするな。あのような愚か者は見ていられないだけだ」「いや、気にするな。あのような愚か者は見ていられないだけだ」「いや、気にするな。あのような愚か者は見ていられないだけだ」………………。


 先ほど俺がエンペンに言い放った言葉をこれでもかと書き連ねている。

 ……一体何をしているんだ。

 ノート上部を見てみれば、今日の日付とファレス様名言集と綴られている……。


 頼むからやめてくれ。

 何が嬉しくて他人に黒歴史ノートを生成されなくてはならないのだ。


「(あの……ファレス様? やっぱり先ほどのことをお怒りになっていらっしゃいます?)」


 俺が反応せずにサラの方を見ていたせいか、今度は急に自信を無くしたセレスティアがそう聞いてくる。

 本当に、授業中に何をしているんだ……。


「(気にしていない。ただ、むやみに話しかけるなと……)」


 そこまで言いかけて踏みとどまる。

 今のセレスティアの扱いは気を付けないと本気で折れるタイプに見える。


「(いや、何でもない。剣を始めたのは十一の時だ)」


 俺がそう反応してやると露骨に表情が明るくなるセレスティア。

 ほんと、君のクールキャラはどこに行ったんだい?


「(ではどなたかに師事を? どんな方なのでしょう? 使っていらっしゃった剣はどんなものなのですか?……)」


 俺が素直に反応したことが余程嬉しかったのか、矢継ぎ早に質問を飛ばしてくるセレスティア。


 はぁ……この調子なら、分かり切った授業も退屈しなさそうだな。


 そんなことを思いながら授業初日の時間が過ぎていった。

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