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第五十九話 魔法披露宴⑨

 リューナスの迫力ある魔法によって、会場のボルテージは最高潮。

 緊張でガチガチになっていた雛鳥連合も、良い意味で雰囲気に飲み込まれたことで、本来の実力を上回る力を発揮していた。


「相乗効果か……はたまた……」


 リューナスから数えて五人目の水属性魔法を見ながら、顎に手を当ててグレイグが呟くのが聞こえて来た。

 もし原作でもこの通りの展開だったのだとしたら、この中で剣を披露したファレスの胆力とプライドは本当に凄い。

 まあ、グイレグや皇帝が出てきている時点で原作とは全く違うのだろうが。


 なんて考えていると、誇らしそうに胸を張って席へ戻る少女と入れ替わる形で遂にあいつへ発表の順番が回った。


「続いて、ルーカス・マーデン! 使用魔法の属性を」


「私の魔法属性は土です」


「ほう、土か。当月の披露宴では一人目だな。では、好きなタイミングで始めてくれ」


「はい! 御覧に入れましょう!」


 言いながらルーカスは訓練場の中心へ進み出る。


 ……こいつ普通のRPGだと三下みたいなムーブしてるのに、『マーチス・クロニクル』ではかなり厚遇されているキャラなんだよな。

 顔もイケメン系だし、魔法も特殊ではないが単純に強力なものだ。


 中心にたどり着いたルーカスは少し強めに足を踏み鳴らした。

 リューナスの音の魔法とはまた違った鈍い音が会場に響くと、ルーカスを中心に半径二メートルほどの地面が円状に地盤沈下のような現象を引き起こす。

 

 一見するとかなり地味な魔法だ。

 だが、これが接近戦になると途端に凶悪な魔法に早変わりする。

 要するに相手の足場を奪えてしまう訳だ。

 羽を持たず、行動を地面に縛られる人間という種族である以上、この魔法の影響をまったく受けないと言うことは出来ない。


 それにルーカスは沈めるだけでなく、隆起させることもできるのだ。

 俺の思考とタイミングを同じくして沈んだ地面を隆起させ、勢いよくルーカスが飛び出してくる。

 そして皇帝の方へ一礼。


 数秒の沈黙の後、感嘆の声と共に拍手が巻き起こった。

 感嘆は主に領地を持つ当主層からの声だ。

 おそらくこの魔法の利便性に気が付いたのだろう。


 そう、ルーカスの魔法は理論上無限に城壁を生成することができる。

 おそらくこれまでこの国で見られてきた土魔法は土を使って何かをするという物で、地面に対して働きかけるものは少なかったはずだ。

 それに加えて、ここは近衛騎士隊の訓練場。

 会場全域に魔法への耐性がある造りになっている。

 そんな会場の地面を沈め、隆起させるという現象を引き起こしたのだ。

 地味でも圧倒的に有用な魔法、おそらくルーカスの魔法はそう認識されたことだろう。


 ただ、残念ながらその賞賛も今だけのものだ。

 ルーカス、お前の魔法はもう、俺の方が上手く扱える。


 思わず口元に出そうになった悪い笑みを手で隠し、咳払いで誤魔化す。


 さぁ、次はセレスティア。

 君の魔法を見せてもらおう!


 ルーカスと入れ替わりでセレスティアが席を立つ。

 その横顔は真剣そのもの。

 彼女もこの会場の雰囲気とリューナスやルーカスの魔法に触発されたのだろう。

 いい物を見せてもらえそうだ。


「さて、次はセレスティア・カーヴァリア! 使用魔法の属性を」


 グレイグの問いに答える前に一度、セレスティアがこちらを振り返る。

 振り返った彼女の表情は言い換えればまさに挑戦状、そんな雰囲気を醸し出していた。


 ふっ、良いだろう。

 ただ、申し訳ないがその自信は長くは続かないだろうがな。


 俺は目線でグレイグを示し、言外に早くしろと伝える。

 それを返答と受け取ったセレスティアはグレイグに自身の属性を伝えた。


「私の魔法属性は水と風の複合属性。雷ですわ」


 もう今日に至っては何度目か数え切れないほどの衝撃が会場を巡る。

 リューナスの無属性魔法も確かに珍しいが、五属性の一つとして位置付けられる程度には数の見られる魔法だ。

 しかし、二属性、それも複合属性を覚醒しているというのはかなり稀有。

 本来ならサラも水と風の複合で氷属性を覚醒するはずだったのだが……どういう訳か『嫉妬』を覚醒している、と、言うのは流石に余談が過ぎるか。


 衝撃にどよめく会場をセレスティアはどこからともなくステッキ状の杖を取り出しながら悠然と歩く。


 ここもまた彼女のらしさと言うか、人気の一つの所以と言えるだろう。

 セレスティアはその魔法の強大さ故に、完全な制御が苦手という設定がある。

 この世界では基本、そう言った媒体を介さずに魔法が行使できてしまうため、プレイヤーとしては絵が変わらず少し物足りなく感じることがある。


 そこにこの杖と言うアクセサリーを持った美少女が現れたのだ。

 ある種、恥の一つにもなりかねない補助輪のようなものなのに、彼女にとっては文字通りのアクセサリーとしての価値の方が上に行く。


 やっぱり美少女に武器ってのは皆のロマンなんだよね。


 中心近くまで歩みを進めたセレスティアは杖を持った左手を短く振った。

 すると快晴の空が瞬く間にどんよりと曇っていく。

 そして天より日差しの代わりに蒼白の雷が降り注ぎ、訓練場の地面を焼いていった。

 その雷は止まることなく降り注ぎ続け、やがて、訓練場の地面はボロボロになっていた。


 そこまでになってから満を持したと言わんばかりにセレスティアが大きく杖を振る。

 すると天災にも思えたその魔法はピタリと止まり、天からは先ほどまでのように光が差す。

 それと同時にセレスティアは皇帝に向けて悠々と頭を下げた。


「はっはっはっ! 素晴らしい!」


 それまで黙って、こちらを眺めていた皇帝が笑いながら手を叩く。

 それに呼応するように大歓声とリューナスの時以上の大喝采が会場を埋め尽くした。


 蒼雷侯姫……原作の二つ名に違わぬ力。この歳でここまでとは……。

 くくっ……はははははっ!


 素晴らしい! 最高ではないか!


 どう? と余裕たっぷりな目をして席へ戻って来るセレスティアは相変わらず美しい。

 ただ、その美しい顔はこの後すぐに俺によって塗りつぶされるだろう。


 舞台は整った。

 そして、俺の準備もまた、完璧だ!


 見せてやろう!

『傲慢』の圧倒的な力を!


 セレスティアの魔法の余韻が落ち着くのをしばらく待ってから俺は席を立ち、グレイグの元まで歩く。

 俺は立ち上がると同時に、入場の時と同じように魔力を溢れさせ、会場を一気に黙らせ自分へ注目を集めた。


「さて、当月の魔法披露宴、締めを務めるはアゼクオン侯爵家、ファレス・アゼクオン! 使用魔法の属性を」


 ここまで幾度となく繰り返されたこの問答。

 だが、俺と同じ回答はおそらく、過去に一度もないだろう。


「俺の魔法属性……そうだな。……強いて言うならば、全て、だ!」


 俺の発言を聞き、ここまで大きく表情を崩さなかったグレイグが一瞬、正気か? と言う顔をしたのを俺は見逃さない。

 まあ、せいぜい疑っていると良い。


 すぐに真実を証明してやろう。


 俺はお返しとばかりにセレスティアを振り返り、悪い笑みを向ける。

 そして、セレスティアの反応を見る前に向き直り歩き出す。


 俺が一歩、また一歩と足を進めるたびに、両脇へ男爵家の貴族の子たちが見せた炎の球や水の球が浮かび上がり、俺の道を指し示す。

 風の刃がマントを靡かせ、アゼクオンの紋が目立つように揺れる。


 そうして俺が中心にたどり着く頃には、再びこの会場は俺によって掌握されていた。

 だが、本番はこれからだ。


 俺は軽く地面を踏み鳴らす。

 するとルーカスの地面を沈下・隆起させる魔法が円柱状に地面を隆起させ、俺を高い位置へつれて行く。

 そして、その背後ではセレスティアの雷魔法が轟雷のように降り注いでいた。


 俺が皇帝より少しだけ低い位置で地面の隆起を止めると、玉座に座る皇帝と円柱に立つ俺の目線が丁度重なった。

 そして俺は恭しく皇帝へ向けて跪く。


「ご期待にはお答えできたでしょうか陛下?」


 俺が使った魔法は全て、この会場で使用された魔法だ。

 そしてその全ての魔法において、俺は元の使用者の上を行く。

 魔力の密度、魔法の質、規模の大きさ、制御の範囲、才能と言う言葉で表されるすべての要素を全員の魔法に対して見せつけたのだ。

 さぁ、皇帝、これで満足か?


 すると皇帝はおもむろに立ち上がり、言った。


「まだ、もう一つあるのだろう?」


 不敵な笑みを携え、手札を出し切れと要求してくる。

 まあ、良いだろう。

 どうせ、最後に使おうと思ってはいたんだ。


「さすがのご慧眼です」


 皇帝の要求に応えるために俺はもう一度立ち上がるとその場で飛び上がった。

 そして、ここまで隆起させた足場、もとい地面に向かってリューナスの音の魔法を放った。

 それと同時に皇帝が錫杖を振るうのが見える。

 ……あれは結界か?


 だが、その正体を確認する前に凄まじい轟音が鳴り響き、一瞬前まで俺が立っていた足場が粉微塵に崩れ去る。

 本当は風魔法で着地予定だったのだが、少々余計な演出をしたせいで体勢がよろしくない。

 ……仕方ない。

 あまり使うつもりはなかったが……俺はそう思いながら、腰に付けた儀礼用の剣に手をかける。

 どうせ、皇帝の前では一度使っているし、他の人たちにはせいぜいグレイグや父上にしか捉えられないだろう。


 俺が地面に衝突するまでおよそ二秒、それだけあれば余裕だ。

 発動する魔法はもちろん――時穿剣。

 できうる限り最速で俺は剣を振り抜いた。


 おそらく観衆には何が起こったか分からないだろう。

 ただ一瞬、まばたきをした瞬間にはもう、俺が地面に立っていた。

 その結果しか目にすることができないのだから。


 着地してからもう一度、足を踏み鳴らせば先ほどセレスティアの雷魔法に魔法によってボロボロにされた地面が綺麗に修復されていく。

 こうして、元通りとなった訓練場の中心で俺は再び皇帝に頭を下げた。


 これが、名実ともに最強の魔法『傲慢』の真髄だ!

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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