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第五十八話 魔法披露宴⑧

 披露宴の一大イベントはその名の通り、俺たち十二歳になった子供が魔法を披露するものだ。

 本来こういう催しはホールなど室内で行われることが多いだろう。

 しかし、魔法の披露が前提となるとそういう訳にはいかない。

 よって、この魔法披露宴は王城きっての最大兵力であり、皇帝の権威の象徴の一つでもある近衛騎士隊の訓練場で行われる。

 剣の軽視されるこの世界では、近衛騎士と言っても皆魔法で戦うため、この訓練場はそもそもが魔法に強い特別仕様。

 加えて、娯楽の少ないこの国では、定期的に近衛騎士による公開訓練なるものが行われており、屋外競技の競技場やスタジアムのように観客席、ギャラリーまで設置されている。

 魔法披露宴にはうってつけという訳である。


 案内の近衛騎士について俺は八人の先頭を歩く。

 

 入場は披露の順番とは逆。

 つまり、俺が一番最初だ。

 と言ってもまあ、別に緊張することは何もない。

 入場口となっている扉の傍に控えた騎士の合図で会場に入り、用意された席に着くだけでいい。


 これに関しては確実に二番目以降の方が面倒だ。

 なにせ、前を歩く人との感覚に気を使わなければならないからな。


 おそらく式典用で殺傷能力を持たない長槍で道を塞ぐように向かい合って交差させていた騎士たちが、寸分狂わぬタイミングで道を開く。

 どうやらこれが合図のようだな。


 姿勢や歩き方に気を使う必要はない。

 俺は誇り高きアゼクオンが嫡男。

 ファレス・アゼクオンだ。


 堂々とこの披露宴の主役は俺だと会場に集まる者すべてに見せつけるように歩く。

 カーヴァリアの圧倒的美貌も、東端の田舎者武人も俺には敵わない。

 背にはアゼクオンの紋、胸には皇帝の徽章。

 さぁ、俺を見ろ!

 その記憶に刻み付けろ!

 俺がファレス・アゼクオンだ!


 俺が歩き終わるまで、会場は静寂に包まれていた。

 それも仕方のないことだろう。

 完全に無意識だったが、俺の全身からは『傲慢』の圧倒的な魔力が溢れだしていたのだから。

 

 俺が席に着くと同時に溢れだした魔力の奔流はピタリと止まる。

 そして、まるで時が止まっていたかのような会場にぽつりぽつりと音が生まれ始めた。


「……遠慮と言う言葉を知らないのかしら?」


 俺の隣に腰を下ろしたセレスティアが婉曲な表現を使わずに本音を伝えてくる。

 彼女は俺の魔力を一番近くで受けたのだ。

 本気の俺はサラですら立っていられないほどの魔力量があると言うのに、やはり名家の血筋名だけはある。

 

「誰が誰に遠慮をする必要があると?」


 内心では感心しつつも俺はきっぱりと言い切った。

 若干嫌味っぽくなっているのは、さっきの控室でのちょっとした仕返しだ。


「ふふっ、それもそうね」


 だが、セレスティアは俺のちょっとした仕返しを笑って受け止めた。

 ……? やはりセレスティアはよくわからない。


 そんな無駄話をしていると見覚えのある男が前に出て来た。


「帝国の新たなる才の誕生に祝言を。おめでとう」


 その男はこの数か月で二度顔を合わせている近衛騎士隊隊長のグレイグだった。


 再び会場に静寂が訪れる。

 

 確かに、魔法披露宴は国事であり、毎回祝言にはそこそこな大物が出てくるのが通例だった。

 しかし、近衛騎士隊長ほどの大物が出てきたことはないだろう。

 少なくともこの国における近衛騎士隊長は皇帝の懐刀、一番の側近と言い換えてもいい。

 政治的能力や権力を考えなければ、立場的にはこの城のナンバーツーだ。


 案の定、雛鳥連合な男爵家貴族たちは無論のこと、ルーカスも衝撃を受けているのが見なくともわかる。

 さすがのセレスティアは表面的には動じていないようだが、少し観察してみれば悠然と口元に携えていた笑みが消えている。


 だが、この衝撃はここでは終わらなかった。


「と言っても私は前座、本日は陛下が直々に御出でですので」


 ……!?!?

 グレイグの言葉で会場中に激震が走り、皆示し合わせたかのように入口の方へ目を向けた。


「はっはっはっ! 偶にはこうして直接見に来るのも良いものだな!」


 その声は入口からではなく、ギャラリーの中心上部付近から聞こえて来た。

 全員の視線が上を向くのと同時に、その姿を見た者は即座にその場で膝を付いた。


「皆、顔を上げよ。今日は余のための式典ではない!」


 右手に持った錫杖をカツンと鳴らす。

 条件反射的に膝を付いた者も信じられずに呆気に取られていたものも皆、その音で現実へと引き戻された。


「……ふむ。さて、当月に生まれ、今日こうして集まった八人よ。余が直々に祝言を贈ろう。これからのそなたらの活躍に期待する。今日は存分にその力を振るうと良い」


 皇帝はそう言うとギャラリーの最も高い位置に置かれた玉座にどっかりと腰を下ろした。

 どうやら、魔法披露宴を最後まで見て行くつもりらしい。


 これには流石のセレスティアでさえ、固まり言葉を失っていた。

 とは言え、陛下のお言葉を貰いっぱなしにするのは無礼にあたってしまう。

 ……俺としてはいきなり主役の座を持って行かれたような気分で、あまりいい気はしていないが、ここは仕方がないだろう。


「陛下より賜った御祝言に皆、万感の思いです。お言葉を胸に刻み、本日は精一杯励ませていただきます」


 降り注ぐ陽光を見上げながら席を立ち、胸に手を当てて頭を下げる。

 そして、この場の全員を代表して、俺はそう言った。

 すると慌てて他の七人も立ち上がり、俺と同じようにする。


「うむ。ファレスよ。そなたには特に期待しておる。余の徽章に恥じぬ成果を見せよ」


「ありがたき幸せに存じます。ご期待に沿えるよう尽くさせていただきます」


 会場中にどよめきが駆ける。

 それはそうだ。

 皇帝が魔法披露宴に出てくるというだけでも、三日くらいは新聞の一面を飾ってもおかしくないほどの特大ニュースだと言うのに、その皇帝がたった一人の個人に言及したのだ。

 それも……期待している、と。

 加えて、公然の秘密と化していた俺の胸の徽章にも皇帝自ら触れる。


 俺はかなり特殊だが、本来皇帝と会話を許されるのは懐刀である近衛か王城の要職者、各貴族家の当主クラスの者のみ。

 だと言うのに、会話に留まらず関心を向けられるというのは、それはそれは凄まじい、ある意味で先日の地震を超える大事件と言えるだろう。


 だが、そんなどよめきも、こちら側にいるグレイグの柏手一つで再び静まった。


「陛下からありがたいお言葉も頂戴したことですし、早速始めていきましょうか」


 俺たちの緊張を少しでもほぐそうとしてくれているのか、その口調は以前話したときのものより大分穏やかだ。

 まあ、きっと気休めにもならないだろうが……。


 ただでさえこんな大舞台で緊張しているだろうに、二つの太陽に見られながらなんて……まあ、でも貴族ってのはそういう物だからな。

 滅多に出来ない経験だから、頑張って乗り越えてくれよ。同期たち!

 

「一番手はクラービー男爵家。リューナス・クラービー」


 グレイグが名前を呼び、リューナスは立ち上がって前へ出た。

 その足取りは恐れを知らず、この状況にも全く飲まれていないように見える。

 さすがはリューナスだ。

 ここまで行くと鈍感を通り越して大物の器だろう。


「使用魔法の属性を」


「私の魔法は無属性。的になる物があるとありがたいのだが」


 グレイグに使用魔法を聞かれても、全く気にする素振りはない。

 それどころか視覚的には分かり辛い音の魔法を、しっかりと見せつけるために的の要求までしている。


「ほう……土属性魔法で作った土塊とかで構わないかな?」


「少々視覚的迫力に欠ける魔法なのでな。そう言った物があった方が分かりやすいのだ」


「良いだろう」


 そしてグレイグは近衛騎士隊の土属性魔法使いを呼びよせると、リューナスの背丈と同程度のサイズの土塊を作らせた。


「これでいいかな?」


「すまない、感謝する。では、私の魔法をご覧に入れよう」


 グレイグが二、三歩距離を取る。

 皇帝の目が妖しく光り、会場中は皆息を呑んだ。

 リューナスの手が土塊の方に伸ばされる。


 次の瞬間――耳を裂くようなけたたましい轟音と共に土塊は砂の山へと姿を変えた。


「……ほう」


 思わず笑みがこぼれてしまう。

 さすがは原作最強の一角。

 最速の魔法、音の使い手だ。


 リューナスが手を下ろし、こちらを向いた。

 

「これが私の魔法。無属性、音の魔法だ!」


 しばしの沈黙。

 最初にそれを打ち破ったのは俺の拍手だった。

 それに続き、拍手喝采で一気に会場が盛り上げられる。


 素晴らしい。

 このくらいのものを見せてもらえなければ、俺と言う花が際立たない。


 俺は自信満々に胸を張るリューナスの魔法をしっかりと()()()()()

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