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第五十七話 魔法披露宴⑦

 黒のジャケットにアゼクオンの紋が入ったワインレッドのマントを身に着ける。

 遂に魔法披露宴当日がやって来た。

 胸には皇帝より賜った徽章を付けて、身支度は完了だ。


「……ファレスちゃんっ!」


 自室を出るとすぐに感極まった様子の母さんが駆け寄って来た。

 その後から父上もこちらに向かって歩いてくる。


 アゼクオンは伝統的に赤系統の色調を正装とすることが多い。

 普段はどちらかと言えば寒色系統の服を好む母さんも、こういう時ばかりは伝統に乗っ取って、鮮烈な赤のドレスを身に纏っていた。

 母さんは俺と同じく銀髪なのだが、今日の服装はその美しいシルバーが、より一層引き立てられている。

 一方父上は普段通り、黒で統一された格好をしている。しかし、ワンポイントとして今日は右肩のぺリースの裏地が赤いものを着用している。

 やっぱり、長身に肩マントは似合うよな……。


「母さん、父上もわざわざ部屋の前までありがとうございます」


 昨日の夜に色々とすっきりしたとは言え、やっぱりまだ元通りに接するのは難しい。

 それでもなるべく努めて普段通りを装って返した。


「良く似合っているわ! 今日の主役間違いなしね!」


 だが、母さんはそんな俺の微妙な感情など良い意味で蹴り飛ばして百パーセントいつも通りに接してくれた。


「ああ、見せつけてやりなさい。同世代にお前という才を」


 と、思ったら父上はなんだか少し様子がおかしい。

 母さんも父上の唐突な発言にキョトンとした顔をしている。


「ふふっ、そうね!」


 それでも、その変化は決してマイナスな方面への変化ではない。


「はい!」


 これは俺だけではない。

 アゼクオン家全体の新しい門出なのだ。


 ◇◇◇


 太陽が王城の真上に昇る。

 それと同時に聞きなれたBGMの生演奏が始まった。


 中世が舞台ではなく、あくまで中世風だということが如実に伝わる演出だが、俺の内心は大いに盛り上がっていた。

 これまで、登場人物以外に『マーチス・クロニクル』の世界観を体験できるものはそれこそ景観くらいしかなかったのだが、まさかこんなサプライズがあるとは……。


 現在俺は両親やサラたちとは離れ、王城の広い一室で他の披露宴参加者たちと共に入場を待っていた。


 今月の参加者は俺を含めて八人。

 うち三人は馬車の中で思い出した通りの三人だった。


 王城には有り余るほどに色々な部屋がある。

 だと言うのに、こうして全員を同じ部屋に集めているということはおそらく、交流を持たせたいのだろう。

 本来、貴族家同士の交流を皇帝自ら仲介するなんてことはあり得ないと思うのだが……ゲーム上の都合だろうか?


 なんてことを考えていたら、案の定、両の手を擦り合わせながら、あいつが寄って来た。

 にやりと金色の髪の奥から蛇のような笑みを携えるあいつが。


「これはこれは! お初にお目にかかります。ファレス・アゼクオン様!」


 原作では諸悪の根源にして、貴族としては大正解な立ち回りをして見せるファレスの仇敵。

 アゼクオンと同じく南部の貴族であるマーデン家のルーカス・マーデンだ。


「ああ、確か――」

「ええ! 私はルーカス・マーデンと申します。ああ、かのアゼクオン家のファレス様とこうしてお会いできるに留まらず、同じ式典に参加させていただけるなんて! 光栄の極みです!」


 ルーカスは俺の言葉を遮り、俺以外の周囲へアピールするかのように大きな声で言った。

 すると、男爵家の出身であろう子息子女たちがぞろぞろと集まって次々俺に挨拶してくる。


 ……ルーカスはおそらく原作でも、こうやってファレスに取り入って矢面に立たせ、色々と悪事を吹き込んだのだろう。


 今、挨拶に来た子息子女たちは皆年相応というか、きっと家族に俺とセレスティアには間違っても目を付けられるなと言われてきたんだろうなということが窺える。

 ルーカスに名前を言われるまでキョロキョロとしていたことから察するに、まだ各家の紋を覚えきれていないのだろう。


「俺への挨拶はもう良いだろう。あちらのカーヴァリアの令嬢の方へ行くがよい」


 原作ファレスなら鼻高々だったのかもしれないが、もう俺はそんなことに引き摺られない。

 唯一挨拶に来ず、軽食を頬張っているリューナスのことも気にせず、この可愛らしい子息子女にもう一人の挨拶すべき相手を教えてあげた。


 すると、親鳥を見つけた雛鳥の如く子息子女たちは俺の指した方へ頭を下げて向かっていく。

 ……まあ、十二歳なんてこんなものだろう。

 特にこの男爵位の子供たちは途中から爵位を持った者もいるはずだ。


 一瞬、セレスティアの方からかなり冷たい視線が向けられた気がしたが、俺はそれをスルーして席を立ち、尚も食事を続けるリューナスの方へ歩み寄った。


「そこのご令嬢、この中で一番口にあった物はどれかな?」


「む? 貴殿は?」


 俺が声をかけるとさすがに食事を一時中断してこちらを向く。


「ああ、失礼。俺はファレス・アゼクオン。今日という日を共に迎えられること嬉しく思う。リューナス・クラービー嬢」


「おお! 貴殿がかの高名なファレス殿か! 貴殿の噂は東端まで轟いている。何でも同い年にして皇帝陛下の名代を務め、一領地を救ったのだとか」


 俺が名乗るとリューナスはルーカスとは違い、下心の一切感じられない純粋な言葉でそう言ってきた。


「ははっ、そうだな。少し運が良くてな」


「謙遜なさるな! 確かその過程でかの竜種を討伐したという話も聞いている。私は貴族文化という物には疎いが、武人の端くれ。機会があればぜひ一手御指南願いたい」


 リューナスは何というか……とにかく関わりやすい性格なようだ。

 言葉に一切の裏表がない。

 何となく声をかけただけだったが、話しかけて良かったと思う。

 ……ただ、今の発言で控室は完全に凍り付いたのだが。主に他の男爵家の子息子女が。


「ははっ、どうやらリューナス嬢は本当に武人のようだな。すぐには難しいだろうが、我々には機会など余るほどに訪れるだろう。順当に行けば三年後には同じ学舎で時を過ごすことになるのだからな」


 ここで俺が悪感情を出すとさすがに雛鳥の子たちが可哀想すぎるので、とりあえず明確な返事はせずに話を逸らした。


「そうね。でも、学舎へ入るためにはあなたはもう少しマナーを身に着けた方がいいわ。ねぇ? ファレス様?」


 ……!?

 突然背後から足音と共に声が聞え、振り向いてみればそこには悪い笑みを張り付けたセレスティア・カーヴァリアの姿があった。


 えーっと? もしかしてさっき面倒だからって雛鳥連合を押し付けたから怒ってる?

 セレスティアの顔からは場をかき乱してやろうという考えが簡単に読み取れる。

 ……君、そう言うキャラじゃないよね?


「む? 私は何か粗相をしてしまっただろうか?」


 と、驚いていたせいで反応が遅れてしまった。

 俺が何かを言う前にリューナスがセレスティアにそう問い返す。


「まぁ、そんなことはないわ。でも、自分より爵位の高い方への挨拶は食事より優先するべきだったかもしれませんわね」


 もろ悪役ムーブをするセレスティア。

 いや、ね? 言ってることは正しいんだけど、その言い方だとあっちの可愛い子たちが……。

 そう思って、チラリと視線を向けてみれば雛鳥連合の皆はルーカスを除き震え上がっている。

 

「そうか……確かにそうであったな。遅ればせながら、私はリューナス・クラービーと言う。この度は礼節を弁えぬ振る舞い、大変失礼した」


 だが、リューナスは他の男爵家の者とは違い、セレスティアに一歩も引かずに名乗って見せた。

 さすがはプレイアブル、と言ったところだろうか?


「まぁ! いいのですよ。今日はおめでたい日ですもの。ねぇ? ファレス様?」


「あ、ああ。そうだな」

 

「そうか! ありがとう。ファレス殿もセレスティア殿もお心が広い」


 ……天然VS悪役令嬢って実際に見ると中々に胃の痛い光景だな。

 あと、セレスティアさん? なんだか俺のことすごく親し気に呼ばれていますが、俺たち初対面ですよね?

 

 ……サラに会わせたくないランキング一位な距離に立たないでほしい。

 前もって知っていたと言うのに、つい視線が引き寄せられるほどの美貌だ。


 おい、ルーカス! お前が役に立つのはこういう時だろう! 何か言って状況を変えてくれ!


 そんな俺の切なる願いが届いたのか、控室の扉が開かれる。


「魔法披露宴参加の皆様! 入場のご準備をお願いいたします!」


 ……助かった。

 

「さて、どうやら楽しい時間はここまでのようだ。話の続きはまた夜にでも」


 こう言って、話を強制的に打ち切ると俺は入口へ歩き出した。

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