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第三十八話 作戦会議

「さて、では聞かせてもらおうか」


 サラがレドとナバラを呼んでくる間にようやく落ち着きを取り戻した二人に、改めて話をするように促した。

 少し間を置いたおかげで彼らも状況を整理できたようで、慌てていた割には整った話になっていた。


「沖からそう離れていない地点、それもそこまで深くない場所に黒い影か……」


「はい、黒と言うか蒼というか……船上からではもはや雲の影にしか見えないような考えられない大きさでした」


「……ナバラ、お前の知る話と一致するか?」


「まあ、おそらくってとこですがなぁ」


 そんなものがいるなら十中八九ナバラの話に出て来た海の神で間違いないだろう。


 問題はそいつの元までどうやって行くかだ。

 被害の大元である可能性が高い手前、安易に沖に引き寄せては、せっかく復興した街が再び被害を受けることになりかねない。

 だが、海上での戦闘経験のない俺たちが突然海中戦なんてぶっとんだ戦いをしてはそれこそお終いだ。


「問題の解決にはおそらく、その巨大な影、ここではナバラに習って海の神としておこうか。解決にはその海の神との戦闘は避けられないだろう」


 そう言いながら俺はレドの方を見た。

 俺の視線に気が付いたレドは一歩前に出て話し出す。


「私の剣が届く距離ならば、お任せを。しかし、沖から離れていないとは言え、私の射程はせいぜい十数メートルです。それ以上でも届かせるのみならば可能でしょうが、そこまでの大きさとなると有効打にはならないでしょうな」


 まあ、それはそうだろう。

 と言うより剣を十数メートル先にまで届かせられるのはどういう理屈なんだよ。

 あれからも剣術の指導は受けているが、時穿の剣は『傲慢』で使えるようになっても、そっちはまだ出来ないのだが?


「船ではまた難破されて戦闘どころではないだろうしな……」


 ううむ……難題だ。

 かの高名たるモーゼの海割りのような魔法があればいいのだが、あいにく原作プレイヤーの俺でもそんな魔法は知らないし。


「いやぁファレスサマよぉ! 俺たちのクインファレス号を舐めて貰っちゃぁ困るぜ!」


 俺のぼやきに腕を捲りあげたナバラが勢いよくツッコミを入れてきた。


「ほう? 新船は海の神を擁する海の荒波にも耐えうると?」


 煽るような口調で返すも、内心は全く信じていなかった。

 いや、だってそうだろう?

 確かに今日見た船はなかなかの出来だった。

 しかし、人間を軽々飲み込んでしまうような海の神なんてものと対峙できるとは思えない。

 それに、せっかく造った船がまた難破なり沈没なりするのはさすがに堪えるだろう。


 だが、どうやらナバラはかなりの自信がある様だ。


「前の船は確かに沈んぢまったがよぉ……あれを受けて俺たちも学習してんでさぁ! 前より高い波だろうと荒れ狂う竜巻だろうともう沈まねぇぜ。これは自身を持って宣言できる」


 プライドだけで語っているのだとすれば、かなりの大言壮語だ。

 しかし、何故かこのナバラの態度には心を動かされるものがあった。


「ほう? では、その首を賭けられるか?」


 もう、俺の内心は決まった。

 ここまで言われて日和っていては責任者、貴族としてのプライドに関わる。

 だから後はその言葉の重さを理解しているかどうか。


「無論でさぁ! 船長ってなぁ船員の命を預かる立場、もう二度とあんな目に船員を合わせるわけにゃいかんのでさぁ!」


 その独特な口調が彼の意思を強く、強く伝えてくる。


 うむ、これならいいだろう。

 不確定要素ばかりな以上、他者の自信に賭けるというのは重要なことだ。

 俺には無理ですと言っている奴よりやらせてください! と言ってくる奴に任せた方が後腐れはないし、実際にうまくいくことが多い気がするというもの。


「では、海の神との戦闘には新船クインファレスを起用する! 船おろしと同時に大任だ! 整備等完璧に整えておけ!」


「任せてくんなせぇ! おい、お前ら、もう十分休んだな?」


「もちろん!」

「はいっす!」


 俺の決定にガッツポーズで応えたナバラは海の神から命からがら逃げて来たばかりの二人に声をかけた。

 何をそこまで……と思ったが、二人もやる気十分と言った様子を見せている。


「じゃあ、ファレスサマ、会議中ですまねぇが俺たちは船の方に行かせてもらうぜ!」


「……ああ、しっかりな」


 こうなった彼らはおそらく止めても聞かないだろう。

 ならば、存分にやらせるまでだ。


「さて、俺たちは少しでも戦略を詰めていくぞ」


 ナバラたちを見送った後、改めて残った三人を見ってそう言う。

 とりあえず、サラと俺は魔法で援護に回ることになるだろう。

 戦い方としては最強の矛であるレドをいかに通すか、だ。

 そのあたりの詳細を詰めておきたい。

 

 そんなことを考えながら、視線をクインの方へ向けると、なぜかクインが顔を赤くしてプルプルと震えていた。


「クイン? どうかしたか?」


 俺がそう聞くと、恥ずかしさ半分驚き半分な声でクインがこう言った。


「……く、クイン、クインファレス号って! なんですかっ!?」


 いや、その声にはもしかしたら怒りもにじんでいたかもしれない。

 と言うか、クインに知らせてなかったのかナバラたち……。


「あの船の名前らしいぞ。聞いていないのか?」


「き、聞いていませんっ! そ、そんなファレス様のお名前と私の名前が並ぶなんてぇ」


 わなわなと体を震わせながら、手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまうクイン。

 どうやら申し訳なさや不敬かもしれないという不安、それと並ぶくらいの喜びや嬉しさの感情などでぐちゃぐちゃになっているようだ。

 いつの間にか俺の横に移動して来ていたサラはそれを見て怒りを再燃させたのか、平静を装ってはいるが眉間はぴくぴくと動いている。

 とは言え、間一髪で我慢できているのは今日の昼のことがあったからだろう。


「……不敬だと思うならば、今からでも変えさせるべきでは?」


 ふぅーっと見事なアンガーマネジメントを決めながら、クインに向かってサラが控えめに進言する。


「い、いえ、せっかく皆さんがつけてくれた名前ですから、わざわざ変えなくても良いと言いますか……」


 だが、クインも譲りたくない一線はあるようだ。

 普段なら弱気を発動して言いなりになってもおかしくなさそうな場面だが、何とか話を流そうとしている。

 

「ほっほっ、若さですな」


 バチバチと稲妻を走らせるサラと川の如く話を逸らそうとするクイン、そしてその光景をだしに一人で紅茶を煽る爺。


「……」


 海の神戦の作戦会議だったはずなのに、いつの間にかそれ以上に張りつめた空気になる俺の部屋だった……。

 なお、レドは一人で楽しそうにしていたので、決戦当日は身を粉にして働かせると決めた。


 ◇◇◇


 作戦会議から二日たった次の朝。

 この二日間ほぼ工場に籠りきりだったナバラたちが準備が整ったことを告げに来た。


「よぉ、ファレスサマ待たせちまったな。クインファレスの整備は完璧でさぁ! もう、何が相手でも沈みやしねぇぜ」


「そうか……では、とりあえずお前たちは体調を整えるために休め」


「あぁん? 俺たちはいつでもいけるぜ?」


「馬鹿を言うな。お前たちが船を操るのだぞ。船の整備が間の益でも人災で作戦失敗ともなれば目も当てられん」


 俺がそう言うとナバラはその後についてきていた数人の船員の顔を改めて見回した。


「……まだまだだなお前らも。俺はぁいつでも行けんだが……お言葉に甘えさせてもらおうか」


「ああ、そうしておけ。夜は宴だ。それまで休んでいろ」


 俺がそう言うとナバラの背後の船員たちから歓声が上がる。


「チッ、現金な奴らめ。まあ、では俺たちはこれで」


「ああ」


 宴と聞いた途端表情が明るくなった海の男たちを見送りながら、この一月を振り返る。

 なんだかんだとんとん拍子に進んだ一か月だった。

 海の神もそうあってほしいが……。


 まあ、取り合えず今回の名代としての仕事の集大成だ。

 傲慢でも堅実に、画竜点睛を欠くことのないように締めくくれるように万全を期そう。


 気合いを入れて手袋を着けなおしながら、来る決戦に向けて集中を始めた。


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