第三十四話 最強への道
翌朝、大勢の大男たちを連れたナバラが俺たちの拠点を訪れた。
「来たぜファレスサマ! ウチの船乗りどもも造船の話となりゃぁ、すぐに食いついてきたさぁ!」
ガハハと豪快に笑うナバラと路地裏とかで見たらビビってしまいそうな男たち。
期待できそうだ。
「それは良い。では、俺は先に失礼する。後は責任者と話し合ってくれ」
「あぁん? 責任者っちゃあ、ファレスサマでねぇのかい?」
「ああ、ある意味俺より適任の者だ。クイン!」
呆けた顔でこちらを見つめるナバラたちを前にしながらクインを呼ぶ。
すると、船員たちの迫力に押され普段以上に小さく見えるクインが恐る恐るといった感じで前に出てきた。
「スペーディア商会のクイン・スペーディアです。造船に必要な材料、道具等あればなんでも言ってください!」
等身大に出来ることを頑張ろうと言う気概は感じられる挨拶だ。
……さて、反応は?
「……おい、嬢ちゃん」
そう呟きナバラがクインににじり寄る。
「はっはい! なんでしょうか!?」
まるでガンをつける様なその顔に怯えながらもクインはなんとか反応した。
そんなクインにナバラは小指を立てて――
「アンタがファレスサマのコレなのかい?」
ニヤニヤと下卑た顔でそんなことを聞いた。
「あ、え? いや、いやいや! そっ、そんな、私なんて、違いますよ!」
「ほう? そうなのかい? イヤ〜俺にゃあお似合いに見えるけどねぇ」
ニヤけた顔を今度はこちらに向けてくる。
だが、今はそれ以上の危機が背後にあった。
「……誰が? 誰と、お似合い? おかしいですね? 聞き間違いでしょうか?」
……海沿いでそこそこ温暖な気候のノウ領で局所的に極寒の吹雪が起こっている。
その原因はそう。今にも『嫉妬』の魔法を暴走させそうなサラさんである。
「くだらん話は仕事が終わってからにしろ。俺は忙しいんだ。クイン、レド、後は任せる」
「わかりました!」
「承知いたしました」
これ以上ここにいるのはまずい、そう考えた俺は早々に話を切り上げ、クインとレドに後のことを任せるとサラを連れて馬車の方へ歩き出した。
途中でサラが「……この街の方とは後ほどお話をする必要がありそうですね」とかなんとか言っていた気がするが、まあ、プライベートにまで干渉するつもりはないので、聞こえてないふりをしておいた。
◇◇◇
街からノウ家の屋敷へはファンタジー馬車で一時間程度の距離だ。
ノウ領は周りこそ広大な山と海に囲まれているが、領地内は盆地の様な地形で見渡しはよく、街からも屋敷が見えているため意外と距離がある様に感じられた。
「ファレス様、今日はどうなさるご予定なのでしょうか?」
「そうだな。とりあえず進捗報告に来たとでも言って屋敷に入り、情報を探りつつ……と言ったところか」
つまりノープランということなのだが、バカ正直に言う必要もない。
「……その、私の見当違いでしたら大変申し訳ないのですが……クゾーム様は何やら怪しい力を持っている様な気がしております」
ほう、気がついていたのか。
さすが、設定にない大罪魔法を発現させてしまうだけはあるな。
「ああ、その通りだ。やつの魔法は異質でかなり悪質なものだ」
「! ファレス様はクゾーム様の魔法をご存知なのですか!?」
珍しく声を上げて驚くサラ。
まあ、それもそうか。
エバンス家はノウ家にもサラの様なメイドを送っているはずだ。
どう言う経緯を辿って報告をしているのかは知らないが、重要な情報は家族間で間違いなく共有されている。
だから、この間は報告を怠ったサラが処断されそうになっていた訳で……。
そのサラが知らないと言うことはクゾームの魔法はエバンス家にまで秘匿されていることになる。
それか……エバンス家で隠されているかだが……。
まあ、この際どちらでもいい。
だって俺は知っているのだから。
「ああ、無論知っている」
「流石です! 一体どんな魔法なのでしょうか?」
「そうだな。……俺の魔法とサラの魔法が同系統の魔法であることは認識しているか?」
「え? そうだったのですか? 確かに、無属性の中でも、少し似た雰囲気があるとは思っておりましたが……」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてそう答えるサラ。
まあ、仕方のないことだ。
この世界的には大罪魔法という括りは存在せず、無属性魔法については基本、それぞれが独立した魔法の様に扱われているのだ。
「ああ、俺たちの魔法は使用者の性質や性格が強く反映されているという点で同系統なんだ」
「性質や性格ですか?」
「まあ、その辺りの詳しいことは長くなるから割愛する。そして、クゾームの魔法だが……あの魔法は対象に夢を見せる魔法なんだ」
「夢を見せる魔法? それだけですか?」
確かに、それだけ聞くと大したことのない魔法のように思えるかもしれない。
しかし、あの魔法、大罪魔法『怠惰』の真骨頂はその先にある。
「いや、それだけではない。奴の魔法で夢を見せられると、その夢と現実の区別がつかなくなるんだ」
「……それはつまり」
「ああ、一種の廃人状態の様なものだな。俺は恐らくノウ家の現当主もその夫人もそんな状態なんじゃないかと考えている」
「なるほど……それって、ファレス様も危険なんじゃ……」
ああ、その通りだな。
だが、『傲慢』の魔法的に一度あの魔法を食らっておきたい。
確かに俺の魔法は見た魔法を使えるようにはなるが、一度食らったものはそれ以上に上手く扱えるようになるのだ。
だから――
ちょうど、馬車が停止し外から御者が扉を開く。
「昨日も行ったはずだ。俺を危険に晒せる存在はないと、俺は全てを糧に強くなるのだからな。それにお前がいるのだから、サラ」
「っ! その期待にお応えしてみせます」
馬車を降りながら、そう言った背後でサラが責任重大だと身を引き締めるのが伝わってきた。
◇◇◇
「これはこれはファレス様。先日ぶりにございます。して、本日はどのようなご用件でしょう?」
すんなりと屋敷に通された俺たちは、王城にも引けを取らない程に華美で落ち着かない一室でクゾームによるもてなしを受けていた。
「ああ、突然で悪いとも思ったが、復興の進捗報告はするべきだろうと思ってな」
「そうでしたか、申し訳ありません。我が領のことですのに、お任せしてしまって」
「いや、これは陛下からの勅命だからな。気にすることもない」
「どうでしたか? 街の様子は? 自慢の街なのですよ」
「ああ、いい街だ。活気があって、何より人が強い。あれだけの被害に遭っても悲壮感を見せる者が少ないと言うのは素晴らしいことだ」
「なんと! そこまで絶賛いただけるとは!」
表面上は穏やかに会話が進んでいく。
だが内心ではお互いに仕掛けどころを探っている、そんな緊張感も漂っていた。
「そう言えば、どう言った経緯で皇帝陛下から勅命をお受けに?」
「まあ、色々あってな。偶々皇帝陛下の耳に俺の話が入ったようで、王都に呼ばれたんだ。そこでな」
はじめに動きを見せたのはクゾームの方だった。
俺はそれに、噂通りの俺を演じて応じる。
「それはそれは! さすがです! ……陛下の耳に入ったとなると、もしや魔法のお話では?」
「ははっ! 分かってしまうか? 実はそうでな」
噂通り、原作通りのファレスはおだてに死ぬほど弱い。
たとえ事実とは違っても、あからさますぎるおだて文句だろうとすぐに気をよくする。
「興味深いです。ぜひ後学のためにお見せいただけないでしょうか?」
だから、こんなあからさまな誘いにも乗ってしまうのだ。
さぁ、かかってこい怠惰!
「そうかそうか。いいだろう。だが、ここでは少々手狭だな。どこか開けた場所は?」
「それでしたら、我が家の訓練場をお使い下さい。ご案内いたしますよ」
「よし、行こうぞ!」
俺は早く魔法を見せたくてたまらないと言った様子を演じつつ、クゾームの目を盗んでサラにアイコンタクトをした。
「(少し遅れて訓練場に来い。もし、俺が『怠惰』の影響下にあったら引き摺ってでも連れ帰ってくれ)」
そんな意味を込めたアイコンタクトだったが、正しく伝わっただろうか?
まあ最悪、俺を連れ帰ってくれの部分だけでも伝わっていればいい。
そう思ってサラの様子を見れば、やる気に満ちた顔でアイコンタクトを返してくれていた。
よし、これは伝わっていそうだぞ。
『怠惰』の魔法は俺が最強になるために確実に手に入れておきたい魔法だ。
若干のリスクはあるが、ここで手に入れておくに越したことはない。
こちらに来てからはこうしてゲームのように狙って魔法を獲得に動いたことはなかったため、少しの不安と高揚を覚えながら俺はクゾームの案内について行った。
◇◇◇
ファレス様が久しぶりに見る雰囲気を纏っている。
なんだか少し昔に戻ってしまったかのよう。
まあ、このファレス様はそれはそれでお仕えのしがいがあったのだが、やはり最近のお姿を見てからだと、数段いや数十段は劣って見えてしまう。
どうやら、クゾームはファレス様の魔法に興味を示したようだ。
これはファレス様の狙い通り?
この読みはどうやら正しそうだ。
ファレス様はその身をもってクゾームの魔法を暴き取得するつもりらしい。
……やっぱり危険じゃない! と言いたいところだけど、それがファレス様の行く覇道だというのならそのお邪魔をすることはできない。
そんなことを考えていると、ファレス様が一瞬こちらを振り返りアイコンタクトで何かを伝えて来た。
……ふんふん、なるほど!
おそらくファレス様が伝えたいことは、この屋敷に入る前に言っていたことと照らし合わせて――
「(少し遅れて訓練場に来い。もしファレス様がクゾームの魔法の影響下にあったらヤツを半殺しにして引き摺りだせ!)」
と言ったところだろうか?
ああ、これが背中を預けられるという感覚!
主からの最大限の信頼表現!
ファレス様からのアイコンタクトを完璧に読み切った私はその内容に感銘を受けながら、敬意とやる気を持ってアイコンタクトを返した。
「(承知いたしました! ファレス様に手を出した者には必ずその報いを受けさせてみせます!)」
私のアイコンタクトを確認したファレス様が軽く頷く。
ああ! こうも容易く私の返事を読み取られてしまうとは!
生涯最高の主人に仕えられたという喜びを抱きながら、私はにやけ顔を隠すように深く腰を折った。




