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第二十三話 衝撃

 俺の部屋に入って来たサラは凶器を身に着けていた。

 そう、あのランジェリーだ。

 確かにあの時見たときには、明らかにサイズが合わないだろうと思っていたのだが、どういうことか今のサラの身体にぴったりと合っている。


 膨らみかけの双丘をまるで十二歳とは思えない妖艶な雰囲気さえ感じさせる黒の雲で覆い、その細い腰は対照的に大きく露出させている。

 下半身はランジェリーのそれにしては少し厚めのレースがスカート状になった、それでもきわどい恰好だ。


「……さ、サラ? これは、何のつもりだ?」


 俺は決してロ〇コンではない。だと言うのになぜか、サラから目を離すことができず、何とか絞り出したなけなしの理性でそう問いかける。

 

「そ、その、ファレス様に頂いた物でしたので、いつかは使う日が……とは思いながらもまだ私には早いだろうなと思っておりました」


 俺の問いにサラは恥ずかしそうに答え始める。

 だが、俺に貰ったもの? いったい何の話だ?


「ですが、もしもがあるかもしれないと今日持ってきて、先ほどファレス様への想いが溢れるままに着用してみた所この通り、私のサイズにちょうどよく、年齢と雰囲気のバランスを崩さないデザインへ変化したのです!」


 ???

 入手経路の件は一旦置いておくとして、サイズが変化する下着だと?

 ……そんなアイテム知らない。

 それに加えて、サラの言葉から察するに着用者に最適なデザインへ変化するということらしい。

 確かに、下半身の部分は依然見たときの物よりは控えめになっている……。


 って、俺は何をまじまじと――


「は、恥ずかしいですが、私はファレス様の物ですから!」


 食事の後はすぐに休む予定だったため、控えめにしていた証明がいじらしいサラの様子と相まって何とも魅惑的だ……やめろ! そんな俺に都合のいい状況を作りすぎないでくれ!

 明らかに今の俺は冷静ではないんだ!


 今にもサラへ向かおうとする手を、腕を組むことで抑え込み、落ち着くために深呼吸をする。


「サラ明日は……」


「はい! もちろん覚えています! 予定は夜ですので、少し遅くなっても問題ありません!」


 ……そうだった。

 くっ……まさか、万事休すと言うことなのか。

 ファレス君の貞操はここで散る? いや、いやいやいや、そんなことは絶対にダメだ。

 男の貞操なんて、男の俺からしたら大したものではないが、女性には色々ありそうだし……。

 初めては好きな人に……いや、これだと状況の肯定にしかならない。

 さすがにサラの好意は明確過ぎる。

 だが、学園編まで行けば魅力的なキャラクターは男女ともに両手では数え切れないくらいにいるし、ここがゲームではなく今の俺にも正しく現実なようにサラにも現実なのだ。

 うん、やはりだめだ。

 流されてはならない。


 かつてないほど脳を高速回転させ、その結論にたどり着いた俺は毅然とした対応を取る。


「少しだけだぞ?」


「! はいっ!」


 ……あれぇ?

 どうやら俺(理性)があれこれと思考を巡らせているうちに俺(本能)はベッドに腰かけており、その状況に対して完璧なロールプレイをして来たこれまでの習慣が、この状況における最適解を無意識に選んでしまったようだ。


 ま、まずいまずい。

 ついにベッドにサラと並んで座ってしまった。


 と言うかサラさんや、君普段なら恐れ多くて同じベッドなんてとても……っていうタイプじゃ、なかったわ、うん。

 意外と積極的で、嫉妬の大罪魔法に目覚めるくらいに嫉妬深いんだった。


「あ、あのファレス様、恥ずかしながらこの後の知識に乏しく……」


 あぁっ!! そんな風に耳元でこそこそとお話しするのを止めなさいサラさん!


「そんなこと、気にしなくとも良い。恥ずかしがらずにお前の持っている知識を俺に聞かせてみろ」


 っきっもぉっ!??

 ちょっとちょっと、俺(本能)さん? 無知な子に知っていることを恥ずかしがらせながら話させるとか言う高度な恥辱プレイを要求するとかちょっと本当に正気を疑いますよ?

 いや、正気ではないのだが……というか俺(理性)さんの抑止力が弱すぎやしませんかね?


 本能と理性のとめどないやり取りが続く。

 ……いや、理性さんが実況をして本能さんが試合をしているような状況だなこれ。


「え、えぇっと、まず並んで二人で横になって」


「こうか?」


 サラの身体を軽く抱き上げ、ベッドの奥へ横にさせるとその頭の下に腕を通し枕にして、俺もサラに向かい合うようにベッドへ横になる。


「そ、そうです!」


 サラは急なことに一瞬身体を固くしたが、すぐに俺へ身を任せるように体の力を抜いた。


 ……ああ、これは俺(理性)の負けですわ。

 もう、ここまで来たら年齢とか関係ないし、というか中世ヨーロッパが舞台ならこういうことがあってもおかしくないんじゃないかと言う気さえして来た。


「それで? 次はどうするんだ?」


「次は――」


 ああ、問題はこれがエドワード伯爵にバレたときだよなぁ。

 さっき、これほどまでに煽るのか? と内心で思ってしまうほどに煽ってしまったし、これがバレたらあのおじさんは単身でアゼクオンとの全面戦争さえ辞さないだろう。

 なんとか隠し通さないと……。


「次は、布団をかぶってお話です!」


 ん?

 今、なんて?


「昔、私がまだエバンスにいた頃に一度、夜中に両親の寝室へ入ってしまったことがあります。そこで両親は薄着で布団をかぶってお話をしていて、何をしていたのかと聞いてみたら仲良くしていたと言っていました!」


 ……俺(本能)よ。その薄汚れた邪な考えをすべて持って行き、そのまましねぇぇい!

 こんなに職務に忠実で、生まれてこの方メイド兼スパイとして育てられ、俺のあの仕打ちを受けていたのにもかかわらず変わらず俺を慕ってくれるようなサラが十二歳でそんなにマせてるわけないだろ!

 逆転満塁ホームラン。

 理性さんが自ら白旗を振って敗北を宣言していたにも関わらず、攻撃を続けた本能さんがその詰めの甘さでギッタギタに切り捨てられるような音が聞こえる気がする。


「……そうか。サラは何が話したいんだ?」


 細かく刻まれどこかへ飛んでいった本能さんに変わり、理性さんがこの状況の対応に当たる。

 と言っても、この状況への解釈が変わっただけで、状態は何一つ変わっていない。

 だが、幸い先ほど「少しだけ」と言っているため、サラのお話に少し付き合えば、本能さんが作り上げてくれやがったこの状況を改善することができるだろう。


「え、えぇっと、その……」

 

 こういう物は相手の話を聞けるだけ聞き出し、満足させるというのが最も効率よく、現状でも最適解のはずだ。


 そう考えて、何だか言い淀んでいるサラが自ら口を開くようにジッと無言で待つ。

 すると、意を決したような表情でサラがずいと顔を寄せて来た。

 ただでさえ近い距離が更に近づき、女の子特有の柔らかい匂いが鼻腔をくすぐる。


「でも実は私知ってるんです。両親がお話ではなく、……愛し合っていたことを」


 ……!?!?!?!

 可愛らしい声音が突然艶めかしい響きの声に変わり、驚愕の事実を俺に突きつける。


「本当はファレス様も分かっておられますよね? 大丈夫です。今日のことは――」


 待て待てまてまて!

 知らないぞこんな小悪魔女子!

 俺の天真爛漫で、でもちょっと嫉妬深いくらいのサラを返して――って、ん?


「誰にも言いませ……ん」


 言い切ると同時に「すぅ」という可愛らしい寝息が聞こえてくる。


 「サラ? 寝た、のか?」


 サラが最後の言葉を口にするその前、眼前に迫ったサラの顔をまっすぐ見つめたとき、俺はその違和感に気が付いた。

 サラの目にハートマークのようなものが写っていたのだ。


 これが意味することはつまり……。

 俺はサラの身体に触れてしまわないように慎重にサラの着ているランジェリーの裾を触ってみる。


 すると、酒に酔ったかのような若干の高揚感と、なんとなくそう言う欲求が高まったかのような感覚を覚えた。


「なるほど。これはつまり……対象をそう言う気分にさせるランジェリーと言ったところか」


 まぁ、なんてものが存在してくれているんだこの世界は。

 今回はサラが高揚感と今日の疲れなど色々なものが混ざって眠ってくれたから良かったが、これを着たままサラに密着されていたら……と思うと気が気でない。


「このランジェリーは当分封印しておくように明日言っておこう」


 そう心に決めた俺は、なんとか朝までサラに触れないように、極限まで集中して睡眠をとることにした。

 

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