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第二十二話 正論パンチ

 あーあー、これはとんでもないことになったぞ。

 サラの父、エドワードの殺気を受けながらも、皇帝の眼圧の後ではそこまでの脅威に感じられず、状況に比べて冷静な思考で今後の最悪を考える。

 この状況の最悪は……サラをエバンス家に連れて帰られることだが、この状況ではちょっと文句も言えない。

 

 さて、どうしたものかと俺が考えていた時だった。


「おい、エドワード。その殺気は私の息子に向けているのではないだろうな?」


 んん!?


 俺の背後で冷たく燃えるような魔力が広がっていくのを感じる。

 これは……父上?


「そうだと言ったら?」


「……言葉にする必要があるのか?」


 予想外の父の反応に少々面食らってしまったが、それ以上に目の前の状況がよろしくない。

 どちらも帝国内では大物な大貴族の二人がバチバチと火花を飛ばし合い、今にも戦闘が始まりそうな雰囲気を醸し出している。


 おい、皇帝! なんとかしてくれよ!

 そんな気持ちを込めて皇帝の方を見やるも、肝心の皇帝はニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべており、頼りになりそうになかった。


 ちなみにサラはと言えば、エドワードとクロフォード間のバチバチな雰囲気に気が付かず、まっすぐとキラキラした目を俺に向けてきている。

 アテレコするとしたら……「私はファレス様の物、ですよねっ!」とか、そんなところだろうか?


 まあ、流石の父上たちもここで戦闘は始めないだろうし、ほとぼりが冷めるまで静観するか……と、そんな甘えた考えを一瞬でも持った自分が情けない。

 渦中の人はあの父上なのだ。


 突然背後から父の気配が消えたかと思えば、俺たちと皇帝の間の空間で殴り合いの戦闘が始まっていた。


 俺の父クロフォードとサラの父エドワードは使う魔法がよく似ている。

 父の使う火属性の魔法は拳に火を纏わせてただひたすらに殴るという、果たして正しい魔法なのか? という疑問が上がりそうなものなのだが、なんとエドワードも同じように火を纏わせて戦うのだ。


 ここだけ見るとそう言う世界なのかと思ってしまいそうだが、全くそんなことはない。

 普通の人たちならば、物理的な距離に関係なく高い破壊力を持つ従来通りの魔法を使う。この二人が異常なのだ。

 

 ただ、そんな二人の唯一の違いと言えば、纏う火の種類だろうか。

 種類と言うか傍からは色の違いしか分からないが、父は燦々と燃え輝く赤い火を纏うのに対し、王国の闇とも呼ばれるエドワードは何処か仄暗い、注視しなければ闇に紛れてしまいそうな黒い火を纏っている。


「衰えてはいないようだな! クロフォード!!」


「……当然だ。貴様こそ、貴族としての務めを果たさぬところまで含めて変わらないようだ」


 拳がぶつかる度に小規模な爆発が起こり、視界上ではその熱気によって空気が歪んで見える。


「エバンスは民を導くのではなく、地盤を整えることこそ務めであるといくら言ったら分かる!」


「その結果が貴様の娘の現状ではないのか? だと言うのに貴様は自分の娘に詰問をし、加えて我が息子へ殺気を向けた。これがどれだけ愚かで情けないことなのか分からないのか?」


 父があの感じだからこそ、この正論パンチはおそらく顔面直撃クラスの威力があるだろう。


「……っ!」


 案の定、父の言葉に一瞬動揺したエドワードの反応が遅れる。

 そして、父の拳がエドワードの脇腹に突き刺さった。


「……っぐ」


 小さくうめき声を上げるとエドワードはその場に膝を付く。


「はっはっはっ! 良い余興だったぞクロフォード、エドワードよ」


 ニヤニヤとした表情のまま本当に愉快そうに笑い、今の出来事を余興として片付ける皇帝。

 あれでいて、周囲に被害が出ないように何かしらの魔法で守っていたのだから、本当に底知れぬ男であるこの皇帝は。

 

 ……だが、なんだとしてもここにはまともな大人がいないようだ。


「さて、では私たちはこの辺りで失礼させていただきます陛下」


 そう、この親父はまさにその筆頭だ。

 膝を付かせた相手にはもう興味がないとでも言うかのように、そちらへ目を向けることは一切なく、皇帝に対してそう言ってこちらを見た。


「ファレス、戻るぞ」


「……はい、父上。陛下、エドワード伯爵失礼します」


「うむ、明日もその調子で来るが良い」


 皇帝が何だかまた含みのあることを言っている気がするが、今日はもう疲れた。

 俺が父を追って歩き出すと、エドワードの方をちらちら見ていたサラも俺についてきた。

 さすがにそれは可哀そうかもしれないサラよ。おいたわしやエドワード伯爵。


 そんな思いを抱きつつ、謁見の間を出ようとしたところで俺を呼び留める声があった。


「ファレスっ……くん。キミ、私の娘を泣かせたら……」


 未だに脇腹を押さえたままのエドワードが、何ともテンプレなセリフを言ってくる。

 どう返そうかと悩んだものの、おかしな大人たちに当てられたのか、それとも一日の疲れで思考が止まっていたのか、俺は――


「そんなことはあり得ません。サラはすでに俺の物ですから。もし泣くことがあるとすれば感涙程度でしょう? 俺に仕えられることへの」


 気が付けばエドワード伯爵に対し、とんでもない言葉を言い放っていた。


「ファレス様!」


 タタッとすぐ後ろまで駆け寄って来て、触れるか触れないかの距離まで近づいてくるサラ。

 ……ほう、流石はメイド空気がよく読めるようだ。

 俺は先の発言のテンションのまま、エドワードに見せつけるようにサラをエスコートして見せる。


「っ!? 貴様ァ! 覚えていろよファレス・アゼクオンっ!!」


 謁見の間の扉が閉まるまで、エドワードの怒号と慟哭の混じった絶叫と皇帝の笑い声が城内に響いていた。


 ◇◇◇


 あのあとは城門前で待たせて居た馬車に再度乗り込み、王都にあるアゼクオンの別邸にやって来た。


「だいぶ遅くなってしまったな。……食事は好きに取りなさい。明日の予定は夜からだ」


 やって来てすぐ、俺たち二人にそう告げると父はさっさと自分の部屋へ引っ込んでしまった。


「ファレス様! すぐにお食事をご用意します!」


 父がいなくなるとすっかりいつもの調子に戻ったサラがいつも通りメイドをしようとしてくるが、それを手で制する。


「いや、今日は休め。結局明日に何があるのかがわからなかった。体調は万全にしておくべきだ」


「ですが……」


「ですが?」


「い、いえ、では今日はこれで、失礼します」


「ああ、おやすみ」


 言外に俺の命令に逆らうのか? と言う意味を込めた俺の言葉を忠実にくみ取ったサラはそれでもなお残念そうな顔をしながら、空いている部屋の一つに入っていった。


「さて、俺も休むか」


 アゼクオンの臣下で、ここの管理を任されているメイドに食事を運んでくるように声をかけ、こちらの世界ではまだ入ったことのない、この別邸における俺の部屋へ向かう。


 この別邸は学園編でファレスの拠点となる家で、『マーチス・クロニクル』内でも度々訪れる。

 ちなみにファレスはこの家での死亡パターンがおそらく最も多かったはずだ。


 ファレスルートにてサラが裏切る珍しいルートでも、ファレスはこの部屋で殺される。


「……いや、笑えないな」


 何とも言えない感慨に浸りながら、メイドが運んできた食事を食べ終え、休む準備をしていると俺の部屋を誰かがノックした。


「ん? 誰だ?」


 ……そういえば、サラの裏切りルートは確か夜にノックしてから部屋に入って来て――


「ファレス様、私です」


「ああ、どうかしたか?」


 そうそう、こんな感じでサラを招き入れたら、やけに豪華なナイフでグサッと――


 ガチャリと扉が開き、サラが入ってくる。

 そしてサラの方に俺が目を向けた瞬間――


「……ぐふっ! さ、サ……ラ?」


 俺はその場に倒れ込んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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