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第二十話 正反対。だからこそ好相性。

「ちょっとクロフォード! 皇帝陛下がファレスに興味を持ってるってどういうこと!?」


 せっかく諫めたと言うのに、同じくらいの剣幕で父に詰めよる母……。

 だが、今回に限っては俺も気になることなので、止めはしない。


「いつも落ち着きを持てと言っているだろうスジェンナ。……なんでもファレスの対応に興味を持っただとか。何かやったのか?」


「……そうよ! さっきクロフォードは災害への対応ご苦労って私に言ったけど、私は引き継いだだけなんだから! 私が戻った時にはもうほとんどの対応は完了していたのよ!」


「……ほう?」


 父が早口でまくし立てる母の言葉の真偽を窺うように後ろで控えている侍従たちに目を向ける。

 すると、突然父に視線を向けられた侍従たちはコクコクとキツツキのように頷いた。


 ……その反応はどっちかというと嘘っぽく思われそうなものだが。


 という、俺の心配はその甲斐なく、どうやら父はきちんと理解してくれたようだ。


「魔力覚醒に加えて、有事の対応まで勤めて見せるとは……ようやく自覚が出てきたようだな」


「ちょっと、そこは普通に褒めてあげるところでしょ!」


 反応は変わっても、父の関わり下手というかコミュ障気味なところは変わってないな。


「ンンッ……では、とりあえず二人から話を聞くとしよう」


「はい、父上」


 母の言葉に父自身思う所があったのか、さりげなくあくまでさりげなく二人からと言うクロフォード。

 どうでもいいことだが、母と父はお似合いだなと思いながら返事をする俺だった。


 ◇◇◇


「ほう……つまりお前はこの一週間ほどで特殊な魔法を得、元剣聖を師に付け、災害対応ではアゼクオンたるカリスマを発揮したと」


 俺は両親がいなかった期間のことを改めて一から報告した。

 面倒ごとになりそうだったため、吸魔の指輪の件とサラの件は隠したが、それ以外はある程度これまでのことをそっくりそのまま。

 

 その結果が今の半信半疑な様子の父だ。


 まあ、俺だって傲慢で手の付けられなかった息子が自分のいない一週間でこうも変容していたら信じられないかもしれない。

 実際、俺の転生? がなければこうはなってないはずだからな。


「どれも未熟ではありますが……」


 そんな思いから、つい謙遜が出てしまう。


「ほんとに格好良かったのよ? ファレスちゃんもそんなに謙遜する必要ないわ」


 すると今度は母が哀しそうな顔をする。

 ……夫婦としてはお似合いでも同時に付き合わなければならないのは中々厳しいなこの二人は。


「ありがとうございます、母上。母上も早く帰ってきてくれて助かりました」


「……! ふふっ、優しいのね。良いのよ。私はあなたの母親なんだから!」


 まあ、母に関しては素直に感情を示せば、こうして察してくれるから父よりは何倍も関わりやすいのは間違いない。

 

「それで、皇帝陛下の件だが……明日、出るぞ」


 ……こっちはダメだ。

 今の俺と母のやり取りを見ていなかったのか?

 そんな急転換をしたら――


「はぁっ!? 明日ですって!? クロフォード、あなた、流石に酷いわよ?」


「いったい何が酷いんだ? 別にスジェンナがついてくる必要はないのだから、君には関係ないだろう?」


 あーあー、せっかく人が気を使って両者が矛を収められるようにしたと言うのに。

 そんな火に油を注ぐようなことを……。


「ファレスちゃんが初めて王都に行くのよ!? 私がついていけないなんて酷過ぎるわ!」


 あ、そっちなんだ、流石母上。


「これは旅行ではなく、皇帝からの招待だぞ? 本来なら私がついていく必要さえないだろう。今回は連れてくるようにとの命だから仕方ないが」


「はぁ!? 成人前の子どもなのよ?」


「それでも、アゼクオンたるカリスマを発揮したのだろう?」


「それとこれとは別よ!」


 うーん、どっちの言い分も正しくて、微妙にズれている。

 父に俺を見させることができたのは良かったが、そうなったらなったでこっちもかなり面倒だな……。


「母上、王都へはまた別の機会に行きましょう。父上、明日のいつ頃出発でしょうか?」


「ああ、明日の早朝だ」

「ファレスちゃん……。そしてクロフォードは王都へとんぼ返りなのね」


「ああ、面倒をかけるな」


「別に……いいわよ」


 ……なるほど、こういう父上だからこそ、この天然キラーっぷりが十二分に活きるのか。

 いや、ちょっと真面目な顔で見つめられただけで照れる母上がチョロいのか?


 原作ファンとしてはキャラクター解像度が上がるのは助かりものだが、それを一変させて自分の親だと考えると途端に頭痛のタネになる。


 まあ、夫婦仲がよろしいのは良いことだ。

 この辺りで邪魔者は退散するとしよう。


「では、父上、母上。俺は失礼しますね」


「ああ。あとはサラも一緒に連れてくるように」


「はい」


 ……なぜサラが? とも思ったが、俺はこの微妙な空間からさっさとお暇することにした。

 

 ◇◇◇


 自室に戻ると入口でサラが待機していた。


「おかえりなさいませ」


「ああ。サラ、遠出の準備をしておいてくれ」


 別にもったいぶることでもないため、さっさと伝えてしまう。


「どこかにお出かけなさるのですか?」


「帰りがけに、父の言っていた皇帝陛下からの招待の件だ。明日の早朝らしい」


「あ、明日ですかっ!?」


 ……父にもこの反応を見せてやりたい。

 いや、この場合は皇帝にか。


「ああ、お前もつれて行くからその準備もな」


「承知、しました? ……って、え? 私もですか?」


「ああ。理由は俺も知らないが、父上がサラもつれてくるようにと」


「……メイドの恰好で良いのでしょうか?」


 確かに……。

 それこそサラを連れて行く理由が分からなければ判断できない部分じゃないか。

 俺の侍女としてついて来いと言う話ならメイド服で良いだろうが、何か別の理由で呼ばれているならば相応の恰好をするべきだろうし、今回の場合は招待、それも皇帝からの、だ。


 最悪両方持っていけば……いや、持っていったとしていつどこで着替えればよいのか。

 そもそもこの件に関しては情報が足りなすぎる。


「……確認しに行くか」


「……申し訳ございません」


 あの甘くなりかけた空間に戻るのか……。

 ………………。


 ある意味で気が重く、足が伸びない俺を申し訳なさそうな目でサラが見ている。

 違うんだよサラ。

 必要なことの確認は仕方のないことだ。

 それより、俺のファレスとしての感情が親のイチャ甘シーンに遭遇しないかと思っているだけだから。


 ……なんて、伝える訳にもいかず、微妙な雰囲気のまま、俺は父の執務室へ向かった。


 ◇◇◇


「父上、申し訳ありません。明日のことについて少し聞きたいことがありまして……」


 念のためノックの後、扉の外から大声で話しかける。


「入れ」


 すると、間を置かずすぐに返事が返ってくる。

 ほっ……どうやら、俺の想像していたようなことにはならなそうだ。

 そう思って扉を開けて――


「ちょ、クロフォード!? ま、待って、ファレスちゃん!!」


 すぐに目に飛び込んできたのは、父上の膝の上で首に手を回し横抱きにされている母上の姿だった。


 oh……


 俺の後ろについていたサラもこれには挨拶を忘れて呆然としてしまっている。


「……お邪魔、してしまい申し訳ありません。手短に済ませますので」


「ち、違うのよ! ファレスちゃんこれはね……」


 あたふたと手足をばたつかせる母と何故か母を降ろそうとしない父。

 ……これはきっとスルースキルを試されているんだ。うん、そう思うことにした。


「明日のサラの恰好についてなのですが、メイド服のままでよろしいでしょうか? サラも同伴させるとおっしゃられた意図を図りかねまして……」


「ああ、そのことか。まあ、訳は行けば分かる。恰好は皇帝陛下からの招待にふさわしい物にするように」


 母を抱えたままの父はちらりとサラの方に目をやってそう言った。


「承知いたしました。では……」


「ファレスちゃん、これは……その……」


 最後の最後まで母上は弁明しようとしていたが、あえて触れずにそっとしておくことにした。

 ちなみに、サラは固まったまま若干頬を赤くしていた。

 

 ◇◇◇


 「……ということだそうだ。ドレスは持っているか?」


 気まず過ぎたが、ただ黙っているのもそれはそれで居心地が悪く、サラに話しかける。


「あ、はい。大丈夫です……」


「そうか……」


 ………………

 ………………

 ………………


 会話が終わってしまった。

 ……自室が遠い。


 足音ばかりがやけに響き、サラの視線を感じては目を逸らされる、その繰り返しだった。


 結局この後も気まずいまま、今日が終わった。

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