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第百三十二話 竜の王と色欲の英雄②

 王都から最も近い貴族領であるグランダル公爵領。

 皇帝家であるグラーツィア家の血を分けられている由緒の正しい家門であるグランダル領はファルシアン辺境伯領を除けば、王都に次いで最も大きな貴族領である。


 王都以上に貧富の差の大きいこの領は、その土地柄もあって腰を据える成金男爵家が多い。

 男爵家は数家程度では大した力を持たない。

 しかし腐っても貴族家であるため、数が集まればそこそこの影響力を持つようになる。

 先日の一件も、グランダル家はその数多の男爵家を総動員して騒ぎを起こしていた、という訳らしい。


「この辺りからグランダル領へ入ったようです」


 人目に付かないように、深夜に王都を出た俺たちは日の出とともにグランダル領に足を踏み入れていた。


「さすがは公爵領……つい先日まで魔道具の売買を占めていただけはありますわね。こんな領土の端まで道の舗装がなされていますわ」


 確かにセレスティアの言う通り、石畳が引かれてると言うほどではないにしろ、人目を避けてわざとメインの通りを使っていないと言うのに道は舗装されていて、馬車の揺れも少ない。

 いくらこの馬車がゲーミング仕様とは言え、荒れた道ではとても休めたものではないのだが、今もサンが俺の膝の間に座って眠っていられる程度にはなだらかな道になっている。


「店舗に魔道具を置くだけでも以前まではグランダル家に確認をしなければならないという暗黙の了解がありましたから……実際にスペーディア商会の伸び具合からも、魔道具の持つ経済効果が凄まじいことは間違いありません」


 実感の籠ったクインの言葉。

 やはりグランダル家は相当の私財をため込んでいるようだな。

 これならば、何か大きなものが隠されているかもしれない。


 期待と緊張感に少し鼓動が早くなる。

 すると――


「んぅ……」


 小さな声を上げてサンが目をこする。


「……起こしたか?」


 どうやら起こしてしまったらしいサンに声を掛けると彼女は小さく首を振る。


「ううん。なんか……変な感じがする」


 そう言うとサンはこめかみのあたりに手を当てて、難しい顔をする。


「サン? 具合悪い?」


「ううん、そう言う感じじゃないんだけど……」


 すぐにサンの異変に気付いて声を掛けるクイン、体調不良とは違うようだが……。

 なんて思っていると、俺の脳内にも何かノイズが走るような、あまり気分の良くない音が聞こえて来た。

 酷い音、という訳ではなく、頭の奥で微かに何かがなっているような気がする……その程度の感覚。


「三人は何か聞えないか?」


 俺は確認のためサラたちにも聞いてみるが

 

「私には何も」

「私も何も聞こえませんわ」

「私もです」


 三人とも聞こえていないようだ。

 つまりこの音は、サンを通じて俺へ聞えてきているということ。


 それが意味することはと言えば……


「竜の言葉、か?」


 その言葉は思いつくと同時に俺の口を吐いていた。

 そして俺がそう言った途端、頭の奥で鳴り響いていた微かなノイズ音が消えていく。


「あ、変な感じ、なくなった」


 どうやらほぼ同タイミングでサンの方も聞こえなくなったらしい。


「竜の言葉、ですか? それは先日、王城でサンが聞いたような?」


「ああ、恐らくだがな。サン、今の音が何を言っているかは聞き取れたか?」


 クインの質問に答えながら、サンに何かを聞き取れたか聞いてみる。


「ううん、それはダメだった。ずっとジィーって感じの音がしてただけ」


「そうか……」


 しかし、聞こえていたものは同じでも、意味までは取れなかったようだ。

 まあ、そもそも意味があったのかすら分からないのだが、俺が竜の言葉と言った途端に聞こえなくなったというタイミングはきっと偶然ではないだろう。


 やはり、ここには何かがある。

 俺の抱いていたその予感は、今確信に変わった。


 ◇◇◇


 途中で一度、馬を休ませたりと休息を挟みながら俺たちは昼前にグランダル領の中心街に到着していた。

 聞いていた通り、なんというか王都以上にお高く留まったような街並みが広がり、かと思えば少し外れの細い路地裏にはこちらへ鋭く目を光らせる貧しい者たちの姿も見える。


「ファレス様、お待ちしておりました」


 そんな街中を通り過ぎてたどり着いたのはグランダル家の屋敷。

 ほとんど城かと見間違えるほどに巨大なその屋敷は現在、調査を任されたアゼクオンの騎士によって色々な捜査がなされており、元々ここに住んでいたトールスやエンペンの家族は調査が終わるまで王都で謹慎中だ。


 ……そう言えばエンペンは元気にしているだろうか?

 一度はぶつかったものの、あいつは悪い奴ではなかった。

 トールスは裁かれるだろうが、エンペンにはそう大きな罰はくだらないはず。


 これからのグランダル家はエンペンを中心に立て直していってくれることを願おう。


 なんて、久しぶりに思い出した友人に内心でエールを送りながら、俺たちは騎士の後をついて屋敷の中へ入っていく。


「ここは……華美と下品のすれすれな具合ですわね」


 屋敷の中に入ってみればセレスティアが一言で俺たちが内心に留めたそれを言い放った。

 だが、実際セレスティアの言う通りで、何となく色調は統一されているものの、珍しい調度品たちが我こそはとでも言うかのように主張し合い、無音なのにうるさい空間になってしまっている。

 クゾームによって支配されていたノウ家よりはマシだが、それでも幾分かマシと言った程度で、残念なことには変わりない。


「……ですが、このどれもが魔道具のようです。大した力はないようですが……」


 しかし、その一つに目を凝らしたクインが若干の驚きを含んだ声でそう言った。

 

「と、なればグランダル家が魔道具を作製しているのは間違いなさそうですね」


「ああ、いくら魔道具市場を寡占していたからとはいえ、この数の魔道具を私的に保有することは相当に難しい。あとはその証拠と方法だが……」


 サラの断定に俺も頷き、証拠についての捜査状況を騎士に視線で問う。

 しかし、案内の騎士は申し訳なさそうに首を振るだけだった。


「とりあえず、この屋敷内ならばそうそう危険はないだろう。連絡手段の有無も考えて俺、サラとセレスティア、クインとサンの三組に分かれて、俺たちも捜索に当たる。騎士たちがあらかた探索をしてくれているはずだが、ここは見ての通りの魔道具屋敷。微妙な魔力の動きがあればそこを入念に、調べていく。だが、危険に感じたり、何かあれば必ず俺に連絡しろ」


「かしこまりました」

「ええ」

「はい」

「うん」


 四者四用の返事を確認すると、俺たちは三組に分かれて探索を始めた。


 ◇◇◇


 まず、俺が向かったのはおそらく居住区域では最上階であると思われる城の三階部分。

 階の大部分が四つの部屋で構成されており、恐らくグランダル家それぞれの私室と言ったところだろうか?

 とりあえず上り階段から最も手近な部屋の扉に手をかけ、一歩足を踏み入れる。

 

 するとそこは、この屋敷にしてはおとなしい、いわば普通の部屋だった。

 やたらめったらに調度品が飾られていることもなければ、がちゃがちゃと小物類が山積しているわけでもない。


 しかし、だからこそ、その異質さが際立っている。


「……この部屋は一体誰の部屋だ?」


 独り言を呟きながら、その部屋を探索していく。

 クローゼットを開ければ、掛けられている服は全てが男物。

 これで母親の線は消えた。

 それと同時に服のサイズから父親の線も消える。

 グランダル家の現当主はかなり恰幅の良い人だ。となると、ここはトールスかエンペンの部屋なのだろうが……。


 俺はあれこれと推測を立てながら、机の前まで歩を進めた。

 横に幅の広い机の両側下部にはそれぞれ三段の引き出しが取り付けられている。


 もしエンペンの部屋ならばと思うと……今更ながら何となく悪い気もしてきたが、そうは言ってもこれは皇帝の許可を得て行っている調査の一環だと自分に言い聞かせて、その引き出しに手を掛けた。


 引き出しには鍵もかけられておらず簡単に開く。

 するとそこには予想外の物が置かれていた。


「これは……!?」


 一目見ただけで分かる。

 赤々とした派手なデザインに発せられる禍々しいまでの魔力。

 これはこの世界でも俺のためだけに存在する物。

 原作上でも一度もお目にかかれなかった『傲慢』の大罪呪宝。

 一対のイヤリングのようなそれが、何故かこの引き出しの中に鎮座していた。


 俺と引き合ったためだろうか?

 突然空気が張りつめ、息が詰まりそうなほどに鋭い魔力が部屋中へ行き渡る。


 サラはあの一件以降もブレスレットを日々身に着けているが、このようなことはあれ以来一度も起きていない。

 ……と言うことは、これが大罪呪宝を自身のものにするために必要な事象なのだろうか?


 俺はそんなことを考えながらも『傲慢』の魔力をこのイヤリングと張り合わせるように展開し、その魔力によって抑え込んでいく。


「大罪呪宝と言えど、せいぜい希少な魔道具如きが俺に歯向かうなど、図々しいことこの上なし。黙って俺の物となれ」


 その言葉と共に俺は握りつぶすように一挙に魔力を圧縮し、イヤリングから放たれる魔力を押し戻した。

 するとイヤリングは一瞬、赫耀(かくよう)に光り輝いたかと思えば、次の瞬間には普通のイヤリングへと戻っていた。


 途端に通信玉とサンからの連絡が入る。


「ファレス様!? 今のは一体!?」

「お兄ちゃん! 大丈夫!?」


 どうやら今の衝撃は下階にも同様に伝わってしまっていたらしい。

 

「問題ない。少し面白い物を見つけただけだ」


「そうですか……あまり心配させないでください。サラさんは今にもそちらに行ってしまわれそうですわ」


「面白い物!? 後でサンにも見せてね!」


 しかしながら反応はこれほどまでに違うのだから面白い。

 俺はそれぞれに一言二言告げて、通信を切ると改めてそのイヤリングと向き合った。


「一体どうしてこれがこんなところに?」


 そう言いながら俺がそのイヤリングが収められた箱を取り出すと、さらにその下から「Diary」と書かれた一冊のノートが現れる。

 この引き出しにはそれ以外の物は入っていなかった。


 ……この日記に何か書かれているのだろうか?

 唯一、一緒に入っていたとなればそう考えるのも自然なことだろう。

 俺はそう思って、日記を開いた。


恐らく100話以上ぶりに登場した大罪呪宝。

念のために補足を置いておきますと、

大罪呪宝は大罪魔法に応じた魔道具のことで、該当する大罪魔法使用者以外の人が持っていてもただのお洒落アイテムにしかならないものです。

本作の最序盤でファレスがサラに渡したブレスレットが一応『嫉妬』の大罪呪宝でした。


あれは今では、サラの何でも入る収納として利用されています。


時々サラがファレスの剣(魔剣リジル)をどこからともなく取り出していたり、直近だとサンの兄である黒竜の死骸を収納したのもあのブレスレットの異空間の中です。

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