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妖狩  作者: 定春
第一章 東編
9/30

EPISODE9「泥々」

         「友達になろ!」

 その一言で机に顔を伏せていた琥珀は驚いてガバッと音を立てて立ち上がった。

「え、いいの!?」「もちろんよ。」

琥珀は嬉しくて心の中でガッツポーズをしたが、嬉しすぎてどんな行動をすれば分からなくなっていた。

   

     だがそんな幸せも長くは続かなかった


「やめて!やめてぇぇ!」その後琥珀と「友達になろう」と言ってくれた女子生徒はグループを作り寄ってたかって琥珀をイジメるようになった。

最初は聞こえるぐらいの陰口、私物を隠す。机への落書き。そしてトイレに連れ込み集団で踏みつける。泣き叫んでも聞いちゃくれない。

これが人間のすることなのだろうか、もはや鬼の所業だ。


 周りの生徒は止めやしない。さらには教員までもが琥珀へのイジメを認知しながらも改善しようとはしなかった。

たったまる2日で琥珀の顔は痣だらけになり足も立てないぐらいボロボロだ。

保健室には行っていない。それは相談したところで何も“変わってはくれない”と自分でも分かっていたからだ

 

家に帰れば誰もいない

琥珀の両親は優しく正義感のある人達だったが彼女が

12歳の誕生日を迎えた当日、両親は怪死した。

それから彼女の世界が変わった。

           “孤独”

言い表すにはこれが最適だろう。いつしか世界の色は無くなり、1人だけ取り残された。しかし心の中では

         「友達が欲しい」

と願っていた。そして「友達になろうよ!」この言葉に救われた。だが一瞬でその世界は生き地獄と化した。

家に帰って、コンビニの弁当を温めて、痣が染みながら我慢して風呂に入る、寝る。そして地獄の1日が繰り返される

       

      「もうやめてぇぇぇ!!!!」

 「!」部屋は暗いがはっきりと分かる病院の天井だ。

東雲 琥珀は妖となり、感情の起伏や精神が不安定になれば重力を制御できずに操ってしまうという。さらには化猫の怪物へと変貌してしまう。

風雅により助け出され、彼から「友達になろう。」と言われたことで落ち着きを取り戻した。その言葉を思い出して涙がつーと流れる一筋の涙は枕を湿らせた。

「(あんな思いしたのに…まだ望むんだ…アタシ。どうせ来ない。所詮人間は口だけの生き物だ…)」

           ガラッ


        ーAM11時16分ー

 病室の扉が開いた。

「あっ起きてた?寝起きドッキリしようと思ったのに」

ヒカルが顔を覗かせた。手にはフルーツの入ったバスケットをぶら下げていた。

「アンタ、何で…」

「いや、お見舞い来るのは当然でしょ?もう無関係な他人ではないしね。」「我が弟子の言う通りだ。」

風雅も遅れて入室。彼の方は手提げ袋を持っていた。

「何で遊びたいか分からねぇからとりあえずオモチャ屋で全部買ってきたぞ。」

琥珀は袋を受け取ると中を覗き込んだ。

「わぁぁ!」

袋の中にはトランプ、ボードゲーム、その他様々なオモチャが入っていた。

「こ、これいくらしたの…」 「ざっと10万かな。」

平然と千円を超える金額を口にだす風雅に琥珀は開いた口が塞がらなかった。

「先生、家柄が良いからこんな消費できるんだよね。」

「いらんこと言わんでいい。」

ヒカルは頭に手刀をくらった。風雅は琥珀にどれで遊びたいかを聞いた。 「んーとねぇ…」


          「王様ゲーム。」


 『え?』二人は同時に声をだした。

「ごめーん俺百年も生きててついにボケたのかな?今中学生の口から王様ゲームってはっきり聞こえたんだけど、しかも女子。」

「先生、その10万の内に王様ゲームは入ってましたか…?」「いや、適当にポンポン入れてたから見てない…。」

「あったわよ。」普通に袋から「みんなのための王様ゲーム」なるものを取り出した。

「いや“みんなのための”ってなんだよ何で王様ゲーム資本主義に屈してんの?」

「突っ込む所絶対そこじゃないです!」


    ーAM11時 23分 王様ゲーム開始ー

 このゲームには一本だけ赤く塗られた10本の棒と最初から命令の書かれたカードと手書きできるカードが入っている。

風雅が棒を箱に入れ、3人一斉に取り出した。

         「やった当たり!」

当たりを引いたのは琥珀だ。

「今からはアタシが女王様よ!頭を垂れてつくばいなさい!」

「どこで覚えたんだそんな言葉…分かったよ女王様。」

風雅は子供の言うだからとそんな気にしてないが、同年代のヒカルは嫌々従う。

本来の琥珀の性格は明るく笑顔が似合う普通の女の子なのだ。若干傲慢だが。

王様権限が使えるのは10分間。他のプレイヤーは王様の言う無理難題に耐えて、遂行するしかない。

「そこの銀髪、アンタは側近Aよ。で、そこのさえない先輩は側近Zね。」

「何で僕だけアルファベット離れてんの!?せめてBにしてよ!」

「女王に楯突こうっての?」「いや何でもないっす。」

「側近A、下のコンビニで飲み物とお菓子を買ってきなさい!特に指定はしないわ!」「へいへい。」

「側近Zは下のコンビニでエロ本買って来なさい。」

「何で僕だけ!」「ん?」

琥珀の笑顔の圧に押され、泣く泣く承諾。


       ー病院一階 コンビニー

 「何で僕だけ…」「まっさか女子中学生がエロ本を所望する時代とは…変わったなぁ日本も。」

「あれ絶対キャラ付けじゃないです。素でやってます!」

風雅は楽々と買い物を済ませ、残るはヒカルのみだが、

周りの目を気にして緊張と羞恥で頬を赤らめながらも爆速で本を手に取り、レジに叩きつけて見事買い物完了。


      「買ってきましたよ女王様ー」

風雅はテーブルに買ってきたお菓子と飲み物を置いて、ヒカルはエロ本を琥珀に直接手渡した。

「君こんなの見てていいの?もっと年頃の女の子なんだからファッション誌とかでも…」

「うっさいわね打首にするわよ!アタシの足りない欲求を満たしてくれるのはコレだけだったの…風雅には見せたけど、アタシ不安定になると化物になっちゃうから、たまたま落ちてたエロ本見て落ち着けたの…」

「しみじみ語ってるけどエロ本なんだよね。…でも妖の精神は現代医療でどうこうできる問題じゃないからな。ある意味一種のデトックスか…人殺すよりマシか。」

「さ、側近A、肩もみなさい!Zは窓際にたって刑事ドラマでよくやる窓シャーのモノマネしなさい!」

「え…」

          ー2分後ー

 女王タイム終了 第2回戦にうつる。

    「やった当たり!」 王様 東雲 琥珀

「またお前かい!」

「何これ、王様ゲームの神様この子にだけ媚び売ってんの?」

「じゃあ次は…一緒にトランプしましょ!」

何と命令されるか2人とも不安だったが、次は普通のゲームでホッと息をついた。だったら普通にゲームした方が早い気がするという野暮はよそう。

「さっきはごめんね。エロ本1人で買うの恥ずかしくてこき使っただけよ。」

「ただ僕が恥かいただけじゃないか!」

その後3人はトランプや人生ゲームを楽しみ、あっという間に時間が流れていった。


     ーPM13時46分 とある路地裏ー

 

 ただの変哲もない路地裏のはずだが今日は警察が集まっていた。

路地裏で女子中学生3人の遺体が見つかった。東刑事とその他の警察による捜査が近辺で行われていた。そしてその場には雷牙が呼ばれていた。

雷牙はテープをくぐって手袋を着けた。「東さん。」

「おぉ来たか。どうだ、君の見解を聞きたい。」

雷牙は遺体のそばに寄って最初に合掌をした。

「まず見た感じなんですが…体に打撲や内出血のようなものは見られませんね。ただ…」

「ただ、どうした。」

「口の中に…泥が詰められていますね…」

「なに、泥だと!」「おそらく泥による窒息死でしょう。そして一気に3人連続…すぐに鑑識に出してください。そしたらもっと分かるでしょう。」

「分かった。ありがとう雷牙、いや妖狩エージェント・らi…」

「もう、その名前で呼ばないでください。俺には妖狩エージェントなんてふさわしくないっすよ…俺はあいつらのサポートが出来ればそれで良い。」

「…協力感謝する。八雲 雷牙。」東が敬礼をすると、雷牙は少し微笑み、サムズダウンをした。

これが雷牙の風雅のサムズアップに対する自分のサインなのだ。


       ーPM20時 30分 病院ー

 琥珀は遊び疲れたようでベッドの上でスースーと寝息を立てて寝ていた。

一方風雅たちは雷牙と警察が捜査していた未確認第37号をバイクで追っていた。

「たく何だよあの塊、後ろから色んなもんが垂れ落ちてんぞ!」

どうやら第37号は塊のような存在であり、移動する度に泥々としたものが落ちて風雅たちに掛かり、上手く走行できない。走っている時、その物体が風雅の防護服の肩パーツに掛かった。

「うげ、ばっちぃ…。」

それを指で取って明るい所で見てみると、それは何の変哲もない泥であった。

「兄貴が言っていたのはこれか…となると奴が女子中学生を殺した犯人ってことか…」

すると第37号は方向を変えて移動し始めた。追ってみるとそこには見覚えがあった。病院の方向だ。

その泥の塊は病院の前に止まり、ある部屋の窓を割った。塊はその部屋から何かを取り出しまた移動した。

「先生…あの部屋って…!」「あぁ…琥珀の部屋だ。急ぐぞ!(一体、何しようってんだ!)」


        ー 市立葵学園 ー

 泥の塊こと第37号はヒカルと琥珀の通う中間一貫校葵学園の屋上に登った。

塊の中から琥珀が吐き出された。

「ゲホッ!ゲホッ!何よコレ泥!?」

「やぁこんばんは。」

聞き馴染みのある声が聞こえて顔をあげた。

水上みかみくん…!どうして…」

「君を助けに来たんだよ…“友達”として。」

クラスメイトである水上の顔を見た時、琥珀はとある日の出来事を思い出した。

         ー2ヶ月前ー

 また地獄の1日の繰り返し、女子軍団にはいじめられ、教師、クラスメイトからも無視。このまま報われない人生を過ごして自分の心は持つのだろうか…そんなことを考えながら机に突っ伏していると

「どうしたの、大丈夫?」

唯一声を掛けてくれた男子生徒。それが水上だ。

       「“友達”になろうよ!」

一度は信じ、裏切られたその言葉、もう信じないと思ったが今の彼女にそれを聞き定める余裕は無かった。

ただ助けが欲しい。それを水上に求め、“友達”になった。


「何で水上くんがそんな力使ってるの…」若干引いた笑みを浮かべ水上に聞いた。

「ぼく、前に言ったよね?邪魔なものはぜーんぶ消してあげるって。」「!!」

    思い出した。全て思い出してしまった。

閉ざしていた真実、信じたくなかった真実を。

      自分が妖になった真実を。

琥珀は自殺ではなく何者かによってこの屋上に連れてこられ、落とされた。

その“何者”とは、何を隠そう目の前にいるこの男だという事を。

「まさか…あんたがやったの?アタシがこうなったのは…あんたのせいなの?」

「“せい”は心外だなぁ。ただ君を僕と同じようにしたかったんだ。」

「何してくれてんのよ…これが“友達”にすることなの!!」

「うん、そうだよ。」

この水上という男はまったく悪びれず、瞳は純粋な子供の様に輝いていた。

「君のこと、ずーーーーーーっと見てたよ。学校でも家でも病院でも…“いつ死んでくれるかな”ーって。」

      

       “いつ死んでくれるかな”


この言葉を聞いた直後、琥珀は大きなショックを受けた。今まで生きてきて、こんな言葉で殴られたのは初めてだ。次第に過呼吸になり、自分が制御できなくな って化猫となり水上に襲い掛かった。

「ぶっ殺してやるぅぅぁあ゙あ゙あ゙!!!!」

「酷いよ琥珀ちゃん。ぼく傷ついちゃうなー。」

水上は特に気にしていないように振る舞い、泥団子を琥珀の腹に直撃させ、屋上から放り出した。

化猫の体が溶けていき、重力を操作する気力も残っておらず、ただ落ちるのみ。もう心も体も限界だ。

(あぁ…結局アタシは友達…人に恵まれない人生だったな…風雅たちも来なかった…次生まれ変われたら…何もしない…貝になりたい…)

涙が頬を伝い、琥珀はゆっくりと目を閉じた。

      「させるかぁぁぁぁぁぁ!!」

ヒーローがバイクに乗って颯爽と参上だ。

ヒカルが琥珀をキャッチし、バイクは壁を走った後グラウンドに見事着地した。

「待たせてごめんな、琥珀。」「風雅…来てくれたの?」

「あぁ、ちゃんと来たよ。」

それを見た水上は泥の塊となって屋上から飛び降りた。

「琥珀ちゃんそいつら危険だよ。離れて…」

「はぁ?アタシからしたらアンタが一番危険なんだけど、この変態サイコパストーカー!」

「ぼくの知ってる琥珀ちゃんはそんなに口悪くないよ…お仕置きが必要だね…“友達”として。」

だんだんと水上の声色が低く怒りを秘めたようなトーンになっていく。

「もういいや。君たち全員殺す、今度は別の所で新しい“友達”作るよ。」

「させるかよ。お前のその“友達”って言葉はエサと同じ意味なんだよ。その人に尽くすフリをして最後は蹴落とす…最悪じゃねぇか。」

「ぼくはちゃんと琥珀ちゃんのために尽くしたよ?彼女をイジメていたクズどもを片っ端から処刑したんだからね。」「うそ…」

琥珀はクラスメイトが亡くなったということを知り、膝から崩れた。それを見た風雅、ついに堪忍袋の緒が切れた。

「おい…いくら人をイジメてるようなクズでもよぉ…命は命なんだよ。琥珀を毎日イジメていたのは許せないさ、だけど息を吐くように人を殺すお前の方が、今は許せない!!」


風雅の感情が爆発したことにより、巨大な霊力のオーラが学校全体を震わせた。

「あーもう鬱陶しいなぁ。ほらいけ“泥人形マッド・ドールズ”!」

風雅の巨大なオーラに屈しない水上が右手を上げると体から小さな泥団子が放出され、地面に着弾すると泥団子は人型に変わった。

「これがぼくの術式“泥々(The Mud)”。泥は全て僕の支配下。自由自在に操れるのさ。」

泥人形たちは動きはゆっくりだが、確実にこちらへと進軍していた。

「琥珀ちゃん動ける?」「無理…腰抜けちゃった。」

「じゃあバイクの上で待ってて。」

ヒカルはバイクの上に琥珀を座らせ、自身も戦場へと向かっていく。

「(アタシも何か役に立たなきゃ…でも何が出来るの…?)」


 「ヒカル、人形はお前に任せていいか?!」「え?」

「俺は大将を叩く!」 

そう言うと風雅は宙に風の足場を作って泥人形の上を進んで水上の元までたどり着いた。

「よぉクソガキ」「やぁ不審者その1。今すぐ琥珀から離れろー」

「お前言うほど感情こもってねーぞ。演技指導してやろうか?」

そうこうしてる内に、水上の霊力がどんどんと高まっていく。

   「いや結構。“引きずり込め・『泥田坊』”!!」

水上の背後に巨大な1つ目の泥の怪物が咆哮を上げて出現した。

「これがアイツの式神か…!」「“武装”!」

泥の怪物・“泥田坊”が水上を飲み込み一体となってしまった。

「うぉぉありえねぇ!」「いやデカすぎ!」

手を動かしただけで校舎の窓が破壊され瓦礫が落ちていく。水上はその瓦礫を掴んで風雅たちに投げつけた。

「危ない!」

風雅はヒカルの元まで移動し、風でバリアを展開し瓦礫を受け流していく。

「ありがとうございます。」「油断するなよ、まだまだ来るぜ?」

風雅は右手を天にかかげ叫ぶ。

       「“吠えろ・『神狼』”!!」

その言葉と共に竜巻が発生し、風雅の式神・『神狼』が顕現した。

「『神狼』、琥珀を守れ。泥人形は俺たちで片付ける。」

「わふっ!」

『神狼』は彼の言葉を理解し、行動する。そして命令通り琥珀とバイクのそばに付いた。

「ヒカル、さっきも言ったがお前は泥人形を倒しながら『神狼』と共に琥珀を守れ。俺は人形倒しながらあのデカブツまで目指す。」「了解!」

風雅は列車でも使用したサマーソルトから放たれる“鎌鼬”で泥人形を切り裂き、まるでモーゼの海割りの様に道を開いた。

一方のヒカルは右手の拳に霊力を溜め込み、それを泥人形にパンチとしてぶつけると泥人形は吹っ飛び辺りの仲間を巻き込みながら四散した。

「出来た…やった出来たぞーー!うぉ!」

油断すれば押しつぶされてしまうだろう。

『神狼』は琥珀を守りながら尻尾を振るって風の刃を飛ばし、人形を真っ二つに切り裂いた。

「さっすが先生の式神だな…パワーが段違いだ…」

「ねぇそのワンちゃん風雅のなの?」

「うーん…先生の相棒っていうか先生自身っていうか。」

『神狼』をヒントに琥珀は考えた。「もしや自分の中にいる化猫も外に出せるのではないか」と


 風雅は飛び上がり空中から“鎌鼬”を放って水上の泥で出来た手を切り裂いた。しかしすぐに結合してしまう。

「そりゃそうだよな…手応えがなさすぎる。」

風雅は地面に着く前にヒカルたちの状況を把握した。

泥人形の数が底をつきかけていた。水上はもうそれ以上増やせないのか、それとも視野が狭くなり増やすのを忘れているか。好機と見た風雅は『神狼』を自分の中に戻した。そして目元に風を模した痣が出現。

          「変身!!」

白銀の人型狼となった風雅は素早い動きで泥田坊を引っ掻きまわし、殴り、蹴る。

「い゙だい゙、い゙だい゙…い゙だい゙よ゙!」

   

    「アオォォォォーーーーーン!!!!」

 月夜に響く遠吠え。最後に右手に霊力を込めた。

「“疾風弾”!」

風雅の拳は水上にヒットした。だが、相手は泥の塊、“疾風弾”のようなわずかな力で相手の身体を破壊するような技は効くはずもなく。右手が泥に飲まれ、抜けなくなってしまった。

「づーがまーえ゙だ…」

風雅は水上に捕まり、握られ圧迫された。

「こいつ、腕だけ実体にできるのか…!がぁぁぁ」

そして変身の時間制限が過ぎて元の姿に戻ってしまった。それを見ていた琥珀は自分には一体何が出来るのか必死で考えていた。

「考えろ、考えろ!足りない頭で考えなさい東雲 琥珀!!」

だが焦りと恐怖で頭が働かない。どうすれば友達を救える、どうすれば役に立てる

失敗したらどうしよう、みんなが死んだらどうしようアタシのせいで…思考はどんどんネガティブな方向に湾曲していく。

      『好きにやればいいんだよ。』

そんな声が聞こえた。目を開くとすべての時間が止まっていた。琥珀の目の前に例の化猫が立っていた。

「あんた…誰?」『アタシはあなたよ。あなた自身。』

「もしかして…シキガミってやつ?」

『たぶん。そんなことはさておき、あなた今悩んでるわよね?どうすれば助けられるか、失敗したらどうしようとか。』「うん。」

『そんなこと考えてるから動けないのよ。“どうすれば”じゃなくてただ“助ける”ことだけ考えなさい。後はあなたの自由なようにやってごらん。あなたは一番自由を愛する女王様。あんな変態サイコパストーカーに負けんな!』

その言葉を聞き、琥珀はハッとした。悩みが全て吹っ切れた。

「!!。ありがと、アタシ…」


 もう1人の自分から激励をもらい、覚悟を決めた琥珀はバイクから飛び立った。

「琥珀ちゃん?!」

(すごい…体が軽い。頭の中スッキリしただけでこんなに違うんだ。月が綺麗、雲の動きがよく見える。あとはもう…自由にやるだけ…!)

無重力でふわりと浮いて水上の頭上まで移動した。

「あ゙っ琥珀ぢゃン見テて、今カらこノ男殺すネ。」

琥珀は水上の言葉に耳を貸さず、無言で手を伸ばした。

風雅が見たのは、覚悟を決めた顔をした琥珀の姿だ。瞳孔は猫のように縦長になり、両頬には猫のヒゲを模したような痣が出現していた。

      ー「重力(The Gravity)」ー

そして一瞬で手を除いた水上の体が重力によって押しつぶされた。

「あ゙ぎゃぁぁ!」

風雅はその隙に脱出。再度右手に霊力を先程よりも多く溜めた。

水上の生身がむき出しになった所で風雅が渾身の一撃を叩き込む。

         「“旋風”!!」

“旋風”は風を圧縮し、直接相手の体に流し込むことで粉砕する一撃特化の技なのだ。

“旋風”が水上の体にクリーンヒット。吹き飛ばされて校舎にクレーターができるほどの威力であっ

「ぐじょぉ、まだだ!まだまだぁぁぁぁぁぁ全部泥々にしてやるぅぅぅぁああぁあぁあ」

水上は再度“泥田坊”を“武装”し、戦おうとするが琥珀が立ち塞がる。

     「さようなら。アタシの“友達”」

指揮者のように指を振るうと、水上の周囲東西南北に重力場が発生。体が四方に引っ張られ、水上は自身の泥と共に激痛を抱いたまま霧散した。

全てを出し切った琥珀は振り返って特大の笑顔とピースをして気を失った。

再び目を覚ました琥珀は周りに風雅とヒカルが居てくれたことに安心して涙を流した。

「あれ、泣くはずじゃなかったんだけどなぁ…涙止まらないよ。」横たわった琥珀が横をみると、隣には尻尾が二股に分かれた紫色の子猫が座っていた。

「アタシもありがとう…」少女は再び目を閉じた。  

                EPISODE9「泥々」完


          次回 「疾走」

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