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妖狩  作者: 定春
第一章 東編
6/31

EPISODE6「臨戦」

 未確認第35号“ライノ”を撃破した後、ヒカルは半分妖という状態であり、警察側の指示で妖狩側の保護下に置くこととなった。

「先生!」

午前8時の八雲邸に少年の快活な声が響いた。

「あ?せんせい?」

「はい!これからは敬意を払い、あなたの手となり足となります!」「お、おぉ…」

寝起き一発でこの宣言でさすがに引いた風雅。

その後も洗濯や掃除などある程度の家事はしてくれるので、後々風雅は

「ちょっと良いかも…こいつ使える☆」

と悪知恵を働かせてしまう程の仕事ぶりだ。

一通り家事を終え、ヒカルは風雅に擦り寄る。

「あ、あのぉそろそろ僕に戦闘の手ほどきを…」

風雅の顔を覗いてみると、口を大きく開け、眉をひそめて天井を見つめていた。

      「(うわ、すっごく嫌そう!)」

「何で俺がガキのお守りと修行させなきゃいけねぇんだよ。鍛えたいなら近くにジムあるぜ?」

「それじゃただのパンプアップなんです!」

ヒカルは自分でも珍しいと思える程の大声をあげた。「僕は…目の前で人が死んで、自分はビビって背中向けて逃げ出した…後悔してるんですよ。死んでもいいから自分で仇をとれば良かったって。」

「……お前は一回死んでる。もう残機はないぜ。それでもあいつらと戦いたいってのか…」「はい!」


「はぁ~ダメだダメだ。お前が死んだら俺が全責任負っちまう。」「コンビニでプリン買ってきますよ。」

「俺の修行は厳しいぞ。」「(よっしゃ!)」

改めてヒカルは風雅の正式な教え子となった。


       ー八雲邸・別邸「道場」ー


 風雅は戦闘用の防護服に着替え、ヒカルは通っている高校の体操着に着替えた。

「いいか?妖ってのは本来“術式じゅつしき”という異能を持っている。」「じゅつしき?」

「そうか、知らなかったか。じゃあヒカル、コイツが見えるか?」

風雅は宙に指を差した。指した先には青色に輝く球体のようなものが浮いている。

「あーなんかぼんやり見えます…ねぇ…」

「コイツは“霊子れいし”なぜか妖にしか見えない物質だ。昔妖になった博士が偶然発見したことから“幽霊原子”とも言われている。」「ほーほー」

ヒカルは風雅の説明を一言一句メモをとった。

「この“霊子”は俺たち妖の力の源。霊子は空気中にあるからな摂取は無限に近い。」

そしてここで出てくるのが先程の“術式”。術式は空気中の霊子を取り込み己の能力に昇華させることで初めて発揮できるのだ。

「お前は中途半端に妖に覚醒したから術式がまだ分からん。だからこの霊子を利用しろ。試しに手合わせだ!」「はい!」

霊子の取り込み方は呼吸と同じで自然に体に取り込まれる。もっと素早く獲得したいなら気を高めるようなイメージすること。

「そうだ、バトル漫画の要領でやっていけば素早く取り込めてサマになる。じゃあ行くぜ!」

「よろしくお願いします!」

霊子をある程度取り込んだヒカルが猪突猛進に突っ込む。

「真っ直ぐ来るか…なら俺もそれに応えるのみ…」

右手に風を纏い正拳突きを繰り出そうとした瞬間、ヒカルは直前で前宙し、風雅の拳を避けた。

「(何!?コイツ、寸前で俺の攻撃を…!)」

「もらった!」「と思ったか!」

動揺はしたものの風雅は冷静に対処。回し蹴りでヒカルを一発でダウンさせた。

「いってぇ!」「お前身のこなしだけは体操選手並みだな。何かやってた?」

「うーん。イメトレです!」「は?」

あまりに予想外の答えに風雅は混乱した。

「子供の頃、特撮ヒーローや格闘家のビデオを観て練習したんです。あとはイメトレです!」

「(こいつ天才タイプだったか…!)」

「ま、まぁお前の動きは大体分かった。じゃあ次はコイツだ。出てこい『神狼』!」

風雅の足元からつむじ風が発生し、銀色の狼が出現した。

「これは“式神シキガミ”。俺たち妖の…何だ、分身ってやつ。」

“式神”も術式と同様、妖に覚醒した時に生まれる自分の分身でありパートナー。式神の姿は十人十色であり、風雅は狼である。

「いいなぁ式神。」「お前もいつか出るよ。」

とさりげなくフォローした。

「じゃあ今から『神狼』と戦ってもらおうか。」

「待って!警察犬の訓練じゃないんだから!」

「いけ!『神狼』」「ポ◯モンかよ!?」

風雅が『神狼』を放とうとした時、ケータイに着信が入った。

「もすもす。あっ東刑事。」

「君に仕事だ妖狩・『神狼』。」「へいへい何すか。」

「山手線を走る特急電車で異変だ。相次いでその列車から乗客が消えている。至急向かってくれ。」

「了解。ヒカル、訓練は中止だ。今から実技に移る。」「え、急展開!?」

2人はバイクに搭乗し、次に例の列車が到着する駅に向かう。

          ー発進ー

「そういえば、先生以外に妖狩っているんですか?」「いるよ。全員死んだけど。」「あ、あぁ…」

この気まずくなった空気を変えるために新たな質問をした。

「じゃ、じゃあ先生はどうして、妖と戦ってるんですか?」

しばしの沈黙の後、風雅は答えた。

「そりゃ、みんなの笑顔と自由を護るためよ。」

笑顔と自由、コレが今の風雅を作っていると言っても過言ではないのだ。

「だってさ、人の笑顔って見てるといい気分になるっていうか、こっちまで嬉しくなっちゃうんだ……。それを平気で奪う妖が許せない。あんな奴らの為に、もうこれ以上誰かの涙は見たくない。だから俺は戦ってるんだよ。」

その答えを聞き、ヒカルの心はほのかに温かくなった。「着いたぞ。」


    ー9時23分 列車到着まであと7分ー

 

 「ちょ、先生めちゃくちゃ人いるじゃないすか!?」「この時間でも通勤する人たちはいるからなぁ。だが次に来るのは特急電車、乗客は限られる。」

「それでもあんな大人数を一気に消せるんですか?しかも誰にも気づかれずに。」

「どういう能力かは知らんが実例が出てる以上可能になっちゃってるんだよな。」

       ー9時30分 列車到着ー

「来たぜ。」

駅のアナウンスと共に特急電車がホームに停車。その時2人は一瞬で感じ取った。

「先生…」「この列車、中々やべーな…」

列車はどす黒く禍々しい霊力で覆われ、まるで会社員や学生を乗せて走る国民的交通機関とは到底思えないオーラ。ヒカルは足取りが重く、風雅は獲物を見つけた獣のように舌で唇をなめた。

「さ、任務開始だ。よろしくお願いしまーす!」

              

              EPISODE6「臨戦」完



        次回 「幻想」

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