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妖狩  作者: 定春
第一部:東編
45/55

EPISODE45「英雄」

キングによりさらに地下にある謎の研究所に落下した。目を覚ました風雅は謎の妖力にいざなわれ、研究所を進むと、培養槽に入れられたかつての親友であり恋人・緋月 ハナと再会を果たす。

二人は研究所を脱出しようとした時、再びキングが風雅の前に現れて、衝撃の一言を放つ。


 「さぁ愚民よ。余の花嫁からその汚い手をどけるのだ!」 

「は…何言ってんだ…?」

その発言に全ての血管が浮き上がる。怒りの妖力が風雅に立ち込める。

「言葉通りの意味だ。その女は“女王クイーン”、“キング”である余の妻としてふさわしい!!」

「あの、会ったことも話したこともない人と結婚するの私嫌です!」

しかしキングは花の話を聞かず、目を閉じて鼻歌混じりで戯言を言う。

「元々〜お前は余と結ばれる為にこの世に蘇ったのだ〜♪“キング”、“女王クイーン”、そして我々を命をかけて守る愚民“騎士ナイト”、“兵士ポーン”、“巨塔ルーク”、“僧正ビショップ”…この六人が揃えば敵は無し…さらに子を産めば!」


「もういい、これ以上は聞きたくない!!」

風雅はキングの言葉を遮り、指をさす。

「リベンジマッチだ!お前に花は渡さない、もうこれ以上花をこの手から離さない!」

「愚民が余に楯突いた時点で詰んでいるのだよ…。」

そう、キングにはまだ吸収した風雅のパワーが微量だが残っている。風雅はすでに骨が何本も折れ、出血が止まっていない。今立っているのが奇跡のようだ。

キングは駆け上がって拳を振り下ろし、風雅を攻撃するも花の手を引いて回避、花を元いた部屋に避難させ、ドアを閉めた。

一瞬キングは花の方に近づこうとした時、風雅は静止させる。

「おいおい、お前の相手は俺だろが。花に手出しはさせない。」

「愚民がぁ…!!」

キングの右手に紫色のオーラが溜まる。  

「貴様が余に与えた力…もう一度味わいたいようだな!」

キングの術式は「“逆襲者(The Revenger)”」。相手から与えられたダメージを蓄積し、相手にそのまま返す能力を有する。前回風雅はその能力をもろに食らい、この研究所まで落とされた。

(相手はカウンター重視の術式、安易に“疾風”は使えねぇ…かえって力を出そうものなら花にも被害が及ぶ!)

風雅は今まで見せたことのない焦り顔をしてしまい、花の方を見つめた。すると花は声の届かないガラスの前でジェスチャーを始めた。


両腕を大きく挙げて、ほっぺの前で構える。それを二回繰り返す。

「!!」「……?あっ、そういうことか!?」

花のジェスチャーが意味していたのは、「私に構わず倒しちゃって!」と表していたようだ。

しかし自分の失態で花を死なせてしまった経験があり、トラウマのようなものが未だに渦巻いている。いくら本人が許可を出しても本気を出すことが出来ない。


「受け取れ愚民!」

そう考えている内にキングの拳が腹部にめり込み骨がミシミシと音を立てて体は叩き疲れてしまう。

「風雅!」

「くそ…!」

やむを得ず“疾風”を使ってしまい、キングの顔を殴る。

それもキングの想定内、顔に翠の妖力が吸収され、パワーが蓄えられてしまった。

「さぁ、もっと余に供物を捧げよ!」

瞬時に術式で風雅に力を返し、風の力で花を匿っている部屋のガラスを突き破り、転がり込んでしまった。

「風雅、しっかり!」

花が風雅のそばに駆け寄る。そしてキングも研究室に入ってきてしまった。

「さぁ、余のもとに来い“女王クイーン”よ。そして一生を共に添い遂げよう。」

「人の事を称号で呼ぶような人に私はなびきません!さっきも言いましたけど、私はあなたのことなんて知りません!私の夫は八雲 風雅ただ一人です!!」

「…ッ!」

体の動かない風雅はその言葉を聞いて顔を上げた。

「花……。」

「ありゃ、すごく恥ずかしいこと言っちゃった…えへへ…。」

しかしキングは花が話している間、指を耳に入れて弄くっていた。

「あ、もう終わったか?さて余と来てもらおう。」

この男、この世界は一人で回っていると思いたいのか誰の話も聞かないといういい性格をしている。

「大人しくこちらへ来い女ぁ!!」

「痛い!」

キングは花の華奢な右腕をまるで石を砕くかのように強く握り、花を無理やり引っ張る。しかし花も抵抗し、キングの腕を掴み返して踏ん張る。風雅も精一杯体を動かして花に近づこうとする。

「やめろぉ!」


「この子供しか産めない生き物が!」

「この暴れん坊の…えーと、馬鹿野郎!!」

慣れない暴言でキングを罵ったと同時に、左手の人差し指の先が赤く光った。

「え?」

そして指先から小さな真紅の矢が発射され、キングの頬をかすった。

「余の神聖な顔に…愚民の汚れた術式で傷をつけたな…!貴様は一生性奴隷の刑だぁぁぁぁぁ!!!!」

激昂したキングは裏拳で花の顔面を殴った。

そして気絶し床に倒れた。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

また守れなかった、また同じパターンだ。また危険な目に合わせてしまった。自分が弱かったから、いつまでもウジウジと心配を抱えながら戦っていたからこうなったのだ。

そこで病弱だった幼少の頃に母・伊吹に言われた事を思い出した。


「風雅、これを差し上げましょう。」

病床に伏せる風雅に伊吹が手渡したのは赤い布。

「母様、これは?」

「首巻きです。最近寒くなってきましたからね。」

風雅にはなぜ赤色なのか分からなかったが伊吹はすぐに答えを示してくれた。

「赤は“英雄”の色です。いつか大手を振って外を歩けるようになったら、困っている人たちを笑顔にしなさい。そしてあなたが本当に護りたいと人が現れた時は“余計な事は何も考えずに全力で護り抜く”のよ。」


その時風雅の何かがプツリと音を立てて切れた。

「うぅ゙ぅ゙ぅ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

風雅は母から貰った赤いマフラーを掴んで吠えた。彼の背後には翠緑色の狼が出現し、風雅と共に吠えた。

体の周囲には青いスパークと虹色の粒子が出現し、髪が元の色のまま逆立った。


       八雲 風雅 “LEVEL3”覚醒


「お前…!」

「もうウジウジ考えるのは面倒だ。キング、お前を今ココで確実に殺す!!」「!?」

風雅は一瞬でキングの間合いに入り、掌を腹部に当てただけで研究所の廊下まで吹き飛ばされた。

「なっ、何だこの力は!?術式頼りの力ではなく、純粋なるパワー!!」

「立てよ。」

風雅はすでに自分の目の前におり、立たずにいると、キングが花にやったように裏拳で顔を殴り、さらに吹き飛ばす。

「これは花の分…いや足りないな、お前を殺すまでが花の分だ。俺の分は忘れてやる。」

この時風雅の体の中には“嵐”が起こっていた。自身の体内に流れる妖力を全て風に変換して身体能力と術式効果を最大限まで高める、突入前の修行で身につけた新たな力である。

今まで未完成で先のキング戦では使う程の余裕とポテンシャルが無かった。

しかし、今の風雅はLEVEL3に覚醒。ポテンシャルは100%を超えていた。


 「この…愚民がぁぁぁぁ!!!」

キングは全ての妖力を解放し、身体能力を高める。

風雅は右手に風を溜めて先制攻撃を仕掛ける。キングはその手を片手でキャッチ。余裕の笑みを見せた。

「ククク…LEVEL3になろうと、所詮は愚民の扱う術式。余が全て食ろうてやろう!!…ん?」

「そうか、じゃあ…たーんと召し上がれ。」

風雅の手を受け止めたキングの手に亀裂が入り始め、粉々に消し飛んでしまった。

「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「どうやら吸収できるパワーのキャパオーバーが起きたらしいな。俺の力はよぉ、お前の知る力より何十倍も重いんだよ!!」

右腕を失ったキング、生まれて初めて味わう恐怖。自分より弱いと思っていた人間が一瞬にして自分より優位にたった挫折を一度に味わい、何も考えられなくなってしまったのだ。

「ま、待て、話し合おう!我々は分かり合えるはずだ!!」

「人の上に立つ人間が命乞いしてんじゃねぇよ。潔く、風になって散ってくれ…!」

八雲 風雅は優しい人間だ。今まで任務で倒してきた妖に対しても心の中で「次の人生は良い人に転生」することを願い、その命を絶つ。しかし目の前にいるこの暴君には何の躊躇いも、慈悲もいらない。


        「“疾風弾・V3”!!!」


風の拳は狼となりて、キングを貫いた。

「この王である…余が!愚民如きにぃぃぃぃぃぃ!!!」

キングの頭から亀裂が入り始め、体の色が灰色になると、まるで特撮で使われる人形カポック爆破のように体は木っ端微塵に爆発四散した。

「花!」

風雅はLEVEL3を解除して花の元に駆け寄り脈を確認した。

「よかった…気絶はしてるけど、脈拍は正常だ。妖になった影響か…」

その直後、風雅の頭に一筋の光が直撃。それは形を持った妖力だった。一瞬だけ見えた光の軌道を辿ると、この研究所の廊下の先に繋がっていた。

風雅は花を揺するが起きる気配がない。生存を確認し、胸をなで下ろした風雅は花を背負って研究所の先を目指すことにした。

                EPISODE45「英雄」完


           次回「雷霆」

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