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妖狩  作者: 定春
第一部:東編
44/55

EPISODE44「女王」

財団HANDアジトの地下深くの研究所らしき所に辿り着いた風雅は王を豪語する人造人間ホムンクルスのキングに遭遇。キングの術式は自身が受けたダメージを蓄積し全て相手に返す能力であり、風雅はその術式の前では手も足も出ず、最深部のさらに深くに落ちてしまった。


 風雅は布団の上だった。ハッと気づいて辺りを見渡すと懐かしいものばかりで、自分の手は小さい。そうか夢かと死んだ不安よりはいくらか安心が勝った。

おそらく自分がまだ人間で、結核を患っていた頃の子供時代の風景だろう。

(なんて嫌な夢…いや走馬灯だ。体が上手く動かない。上か横しか見れんぞ。)


            コトっ


垣根に何かが落ちた。横しか見れない首を捻って外を見ると、蜜柑が一つ落ちていた。

この時風雅は目を丸くしてその蜜柑を見つめた。その蜜柑には見覚えがあった。

(まさかこの蜜柑は…!)

そう思ったのも束の間、誰かが垣根の上に登ってきた。

「ごめんなさい、蜜柑落としちゃって〜。よいしょ!」

ひょこっと顔を出したのは同い年くらいの少女。

「ご、ごめんねぇ…。」

「あっ…あぁ…。」

お互い気まずい空気が流れる。

「蜜柑…取ってもいいですか…?」

「いい、僕が取る。(馬鹿、お前結核だろが!)」

いくら夢でも体は重く、両足を引きずって、服に砂が付きながらも蜜柑を拾って投げ返した。

しかし投げ返したのと入れ替わりで少女が垣根を越えて敷地に入っていた。なのに何故かお互い可笑しかったのか笑いを堪えられず吹き出してしまった。


その次の日も少女は八雲邸の垣根を登り、わざと蜜柑を落として風雅に知らせる。

「そんなことせずに普通に門から入ればいいのに。」

「だってあなたのお父様怖そうですもの。」

今の風雅だから言える。

(それはそう…。)

少女は風雅以外の八雲家の住人にばれないように垣根を越えていつも風雅のそばに来てくれた。

「見てーお手玉ー。色んな色持ってきたのよ!」

「また来てくれたのは嬉しいんだけど…君は誰だ?」

「私は“緋月 ハナ”。この近くに住んでるの!」


花は体調のことを気遣ってくれたのかいつも無理のない遊び道具を持ってきて、童謡などを枕元で歌っていた。当時の風雅は至極幸せだったことであろう。

ある日、花はいつものように垣根を登って風雅の所に挨拶しに来たが、タイミング悪いことに風雅たちの母・伊吹が風雅を看病している所に来てしまい、二人の秘密はあっけなく終わった。


しかし伊吹は二人を叱ることはしなかった。逆に花を歓迎した。

それからは垣根ではなく門から入るようになり、雷牙とも顔見知りになった。

伊吹は風雅の看病中に病に倒れ死去。後を追うように風雅も結核により死亡。そして妖に覚醒し、体は健康体そのものとなった。


 風雅は妖となって健康になったおかげで花と遊べるようになった。だがそれが全ての悲劇の始まりを告げた。

12歳を迎えた年、風雅と花は山菜採りに出かけていた。

「風雅くん、このきのこ食べられるかな?」

赤い傘に白い斑点。そして顔が付いている。明らかに食べれたものではない1980年代に入るまでは…

「やめとけ、身長伸びそうだけどさ。」

その時、山の中に何者かの足音が聞こえた。

それもどんどんと二人に近づいてくる。

「花ちゃん…これ、僕らの方に来てないか…?」

「だ、大丈夫よ…鹿か何かよ…きっと。」


          「見つけた。」


二人の目の前には白い制服を着用した男が6人ほど立ちふさがった。

「何…あなたたち。」

「我々と共に来てもらおう緋月 花。」

「させない!」

風雅は花の前に立ち、男たちを止めようとした。

「無駄な抵抗はよせ。サンプルを傷つける訳にはいかないのだ。」

「さん…ぷる?何のことだか分からないけど、お前たちに花は渡さない。」

風雅は疾風の術式に覚醒しており、両手に突風を纏って白服の男たちに立ち向かうが、膝蹴り一発で唾液を吐いて倒れてしまった。

「おい、こんな子供一人に時間を裂くな。」

「こいつは妖の分際で我々に反抗した。反乱分子はここで処分すべきだろう。」

苦しむ中、男たちの抑揚のないロボットのような会話を聞いていた時、風雅を膝蹴りした白服が彼に拳銃を向けた。

「…!」

「風雅くん!!」


           バンッ!!


銃弾が放たれた。そして風雅は戦慄する。花が自分を庇って胸を撃たれてしまったのだ。即死であった。

「貴様、サンプルを殺したな。」

「大丈夫だ我々の“財団”の技術を用いれば、蘇生は可能だ。」

花を撃った白服が彼女に触れようとした時、人間であろうとも必ず恐怖する程の殺意を感じた。

「待てよ…返せよ…花を…“俺”の…友達を返せぇぇぇぇぇ!!!!!」

風雅の背後には狼の顔が浮かび上がり、突如その場から竜巻が発生し、白服たちを虐殺。かろうじて生き残った一人が花の遺体を抱え、走り去ってしまった。

その一人に向けて攻撃をしようとしたが、力尽きてしまった。


           「はっ!」


そこで目が覚めた。風雅は研究所の瓦礫の上で寝ており、辺りに明かりはないが、水の落ちる音がする。

激痛を抱える体を起こして、明かりはないが壁を支えにして立ち上がった。

その時、鼻をツンと刺すような妖力を感じた。それはキングのものではなく、完全なる新たな妖力。その臭いは血液が放つ血腥いものと似ており、まるで風雅を誘っているかのように研究所よりも深いこの場所から続いていた。

壁を頼りに進んでいくと次第に明かりが見えた。少し走るとそこにはまた新たな研究所。しかし上部にあった古びた物よりもまだ小綺麗でまだ使っている雰囲気を感じた。その臭いに誘われて研究所を覚束ない足取りで進んでいたところ、その臭いは風雅から見て左に曲がっていたことに気づいた。

そこはとある部屋であり、一面白く、真ん中に大きな培養槽が一つあった。恐る恐る近づいて培養槽の中を見た。

「嘘だ……花?」

風雅は体の負傷などお構いなしに培養槽まで全速力で走って、大粒の涙を流しながらガラスにすがりついた。

培養槽の中には風雅と同じく20代前半の見た目をしたかつての親友であり恋人、緋月 花が入れられていた。

培養槽の隣にはモニターがあり、花の名前がフルネームで書かれ、名前の下には“女王クイーン”と書かれていた。

「“キング”の対…一体どうなってんだ、クイーンって何だよ!!」

     

            カチャ


突然ひとりでに培養槽が開いた。花が培養槽から落ちてしまう。風雅は急いで受け止めた。

「花?…花!?」

ゆっくりと花の目が開いた。

「うん…?あれ…風雅…くん、何で泣いてるの?」

「やっと…やっと逢えた!ここまで…100年も掛かった…!!」

風雅は嗚咽交じりの声で涙を流しながら花を強く抱きしめた。

「俺のせいで君が死なせた…ずっと逢って謝りたかったんだ…一日足りとも君を忘れたことはない…。」

風雅は必死になってごめんね、ごめんねと謝り続けた。

しかし花は当時の記憶で止まっているのか、状況があまり理解できておらず、自分が大人になったことにもあまり自覚していなかった。


「何があったか分からないけど、私のせいで風雅はずっと苦しかったんだね…私の方こそごめんね。ごめんなさい…。」「!」

花は風雅の頭に手を乗せて、よしよしと擦った。風雅はさらに大声をあげて泣いた。

「白髪生えちゃって…もうおじさんみたい。」

花の屈託のない笑顔はいつまでも変わっていなかった。

「そうだよ、おじさんどころか100歳超えちゃったんだよ…。」

大人になった花は母親のような慈愛で風雅の涙を指ですくい、頬に手を伸ばして感触を確かめるかのように触る。

「よしよーし。」


 風雅は花をお姫様抱っこで抱えて部屋を抜け、廊下に出た。

「風雅、ここどこなの?」

「お前を殺した“財団HAND”って組織のアジトさ。おそらく花は“人造人間ホムンクルス”として現代に蘇ったんだろう。」

「ほ、ほむんくる…?」

「まぁ詳しいことはここを抜け出してからだ。上に上がらないと…!」

「どこへ行くと言うのだ?」

二人の前に再びキングが現れた。

「お前、ここまで追ってきたのか!」

「誰、この人!」


「さぁ愚民よ。余の花嫁からその汚い手をどけるのだ!」          

                EPISODE44「女王」完


          次回「英雄」

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