EPISODE43「百龍」
人造人間の一人“兵士”のナユタと対峙する凱と龍我。
しかし龍我はナユタの攻撃で気を失った後、生来持つという“黒い殺意”を携えて復活してしまった。完全に外へ出た黒い妖力は龍我の理性を飲み込み、味方である凱にすら牙を剥いた。
龍我の“黒い殺意”は5体の龍の形になり、“黒龍”と呼ばれた。
この“黒い殺意”は神流がいうには龍我が妖になる前から所持しており、歳を重ねるごとに制御が効かなくなっていた。
最初のリミット解除は47号との戦闘でハイになった直後に隠し持っていた本来の妖力が溢れ出し、47号を恐怖に陥れた。
次の解除は凱との戦い、長時間戦うにつれ精神の安定が不安定になり、“黒い殺意”が溢れ出した。
そして現在、ナユタに一瞬でノックアウトされたその憤りで“黒い殺意”を発動。
さらに黒いオーラは5匹の龍の形を持ってナユタに一撃を与えた。
止めようとした凱もほぼ一発で吹き飛ばされてしまう。
龍我は“黒龍”をたなびかせ、ゆっくりとナユタの元に歩み寄ってくる。
「死ね…。」
龍我は淡々とした冷たい声で右腕の黒龍を飛ばした。
ナユタの左腕に噛みつくもすぐに離してしまう。
「なに…?」
「ナユタの体は金属になる。」
ー「“鋼(The Medal)”」ー
自身の肉体を鋼に変え、防御力を高める。そして、
「“毒牙”!」
ナユタの左腕が銀色の蛇に変わった。重いが素早く龍我の足に迫るが両足の“黒龍”が妖力を吐き出して上昇、金属の蛇を避けた。
金属の蛇はコンテナに衝突すると、どろどろに溶けてしまった。
「あれは…水銀か!」
水銀
常温で液体状態を保つ唯一の金属元素で、「液体の銀」という意味を持つ。強い毒性を持ち、神経系に深刻な健康被害を引き起こすことでも有名な金属だ。
byコピペ♡
それを術式の延長解釈で水銀製の大蛇を作り、龍我を襲った。さらにその水銀が気化してしまえば水銀中毒になる確率がグンと上がってしまう。
さらに両腕を水銀の蛇にして龍我に攻撃を仕掛ける。
しかし黒い龍には水銀など効かないのだ。
意外にも凱は毒物の知識はあるので急いで腕で口を覆う。
(バカ野郎!黒い龍に水銀が当たって蒸散すればお前の死ぬ確率が高くなんのが分かんねーか!あー分かんねーか、今じゃただのバケモンだもんなっ!)
凱は龍我の方に走り出す。
そして龍我の胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「おい、これがお前のしたい戦い方なのかよ!」
「キミには関係ないだろ、殺すよ?」
「俺はあまりお前の事を知らない、でもお前は一時の感情に任せて殺人をするような奴じゃあねぇだろ!!」
龍我はだったら突っ込んでくるんじゃねぇよという冷たい目で凱を見つめる。
いつも凱に絡んでは冗談を言っていた龍我の面影はどこにも無い。今彼の目の前にいるのは殺すことしか考えられない生物。いや、生物というには惨い感情を持ち、利口すぎる。
「二人まとめてなら、楽だ。」
二人の口論なんて毛ほども知らないナユタは凱に向けて水銀の蛇を伸ばす。
凱は身を挺して龍我を蛇から庇い、噛みつかれてしまう。
水銀の猛毒が血管、細胞まで広がり激痛が全身に響き渡る。本来ならば耐えていることですら苦痛なのに、凱は不死なので苦しむことしか出来ない。
「オレがあいつ殺すからさ、凱くんはそこに寝そべってれば?辛いでしょ、死ねないんだから…。」
「……!うるせぇぇぇぇ!!!!」
ついに痺れを切らす。凱は龍我の顔に思い切りストレートパンチを食らわせた。
「!」
さらに凱は蛇に噛みつかれながらも龍我に説教を続ける。
「お前、何で戦ってんだよ…何のために妖狩やってんだよ!!」「…!?」
神流も龍我から出てきて
「ご主人、もうやめてください!環奈ちゃんが見たら心配しちゃいます!」
その二人の訴えが龍我やっと龍我に届いたのか、握っていた拳が少し緩んだ。そして自分が幼少の頃ある恩師との会話を思い出す。
ー10年前ー
龍我は八雲兄弟の父・八雲十蔵の元で育てられたが、もう1人、今の龍我を作った青年がいたのだ。
青年の名は未来。妖狩であった。
風雅たちの後輩にあたり、龍我の最初の友人であり理解者だった。
幼少期の龍我はひ弱でよく港町の悪ガキたちにいじめられていた。
そこに偶然風雅と共に港町に来ていたミライが悪ガキたちを追い払った。それが二人の出会い。
たまたまだが二人は顔立ちや髪型が若干似ていた。そのせいもあってかすぐに意気投合。
ミライはお人好しで人懐っこい性格の持ち主。今の龍我のように風雅たちのことを「先輩」と呼び慕っていた。
龍我はいじめられて怪我が増える度にミライに相談していた。ある時龍我はミライに頼み込む。
「頼むミライ兄、オレを弟子にしてくれ!」
一瞬フリーズした後、ミライは手で太ももを叩きながら大笑いした。
「何笑ってんだよ!」
「あー腹痛ぇw…はぁ…俺はそんな師匠なんてガラじゃないし、人に教えんのは大の苦手何だよ。頼むんだったら十蔵さんにすれば良いじゃないか?」
「あいつはダメだ適当すぎる!」
「じゃあ風雅先輩たちは?」
「本当は頼みたいけど…あの人たち忙しいし…頼み辛い…。」
(いやーあの人たち結構ヒマだけどなー…)
「弟子にできないならさ、強くなる方法を教えてくれよ!オレは誰にも負けない最強の武道家になりたいんだ!」
「“最強”ねぇ…。龍我、これだけは言っとくぜ?最強になりたいんだったら“弱さ”を知れ。」
龍我はミライが何を言っているのか理解出来なかった。
強くなりたいのに“弱さ”を知れとは?さらに反論を重ねるが軽く諭される。
「ただ強すぎても、強い力しか知らないただの生物兵器だ。俺たちみたいな、な。だからお前には人の持つ優しさ、弱さを知ってほしい。もしお前が何かを守るために戦うのなら、周りを見て、弱い人たちの為に戦ってほしい。」
「無理だよ…俺になんか、人とは違うんだよ…ムカついたら気づいたら何かを壊しているんだ。そんな奴に弱い人たちを守れって?冗談キツイよ!」
「龍我、それは“今は”の話だ。虫歯と同じさ、治そうと思えば治るんだ。お前のその黒い何かもいつか大切な“何か”を見つけた時に消えちまうよ。強くなりたいなら、人の“弱さ”、自分の“弱さ”を知ることだ!ま、これは風雅先輩からの受け売りなんだけどなw。」
ミライはもう東京に戻らなくてはならない時間になった。漁港の海は夕日で赤く染まる。ミライは最後振り返る。
「龍我、これは俺からの言葉だ!」「なにー?」
「いいか龍我、“最強”に限界はない!さらにその先を追い求めろ。以上!!」
ミライの有する術式は龍我と同じく「“流水(The Stream)”」。
同じ術式はこの世に二つは存在しない。つまりそういうことだ。
その年の夏。龍我と海に来たミライたちだったが、龍我は海に潜む妖に襲われ、ミライはすかさず助けに入った。
龍我は助かったが気づいた時には海には彼一人。ミライの姿はどこにも無かった。
それから二日後。手から水が出せることに気づいた龍我は遠回りでミライの死を知り、絶望した。
そのミライからの言葉を思い出した龍我は凱に噛みつく水銀の蛇を“黒龍”で追い払う。
「!?、リュウ?」
「変なあだ名付けんなよ…悪いね、取り乱した。」
龍我は銀色の天井を見上げ、深呼吸をした。
(“最強”に限界はない、その先を追い求めろ…何で忘れてたんだろうミライ兄の言葉…忘れてなかったら今ごろこんな黒い奴消えてたのかな?今からでも遅くないよねミライ兄?さらに…その先へ!!)
龍我の妖力が上がっていく。“黒い殺意”のオーラは青く変わって、さらに巨大になり、天井をぶち抜いた。
「これが、今まで抑えていたオレの全妖力だ!」
青いスパークの他に虹色の粒子が漂っていた。ついに龍我はその先へ進み、LEVEL2の壁を破った。
龍我 LEVEL3突入
「すげぇ…!」
その時、龍我は凱に指を指した。
「凱くん、次のオレの目標はキミだ!必ずキミを倒していつかは風雅先輩も超えてやる!!」
「あぁ、いつでも来いよ、ぶっ倒してやるからよぉ!」
「ご主人!」
「二人とも、心配かけてごめん。もうオレは染まらない!!」
“『青龍』武装!!”
LEVEL3となった龍我の“武装”は他の物とは一線を画していた。
両手、両足、背中から5匹の水の龍が現れ、頭には妖力で生成された龍の角、肩には雲が掛かる。
「来いよ蛇!」
「さっきと違う気がするけど、所詮は同じ。」
ナユタは再び蛇になった両手を伸ばし、龍我に攻撃を仕掛けるが、両手の龍が口で蛇を受け止め、噛みちぎった。
「それじゃ気化しちまうんじゃ…!」
「心配すんなって。」
『青龍』の新たな“武装”には“浄化”という能力が備わっており、毒物はまたたく間に浄化され、水銀の蛇は消え去った。
「ありえない…。」
そしてナユタは奥の手とも言える手段を出す。
ー「“噛みつけ・『大蛇』”。」ー
ナユタが床に手をつくと、八本の首を持つ白銀の大蛇が顕現した。
「なんか強いそうだな…ワクワクしてきた!神流、アレやるぞ!」
『アレ?何かありましたっけ?』
「合わせろよ?」
龍我は最大限の妖力を込めて両手を合わせてそれを離すと、自身の背後に百にも及ぶ小さな龍たちが出現。
「これがオレの今の到達点…。」
「“百龍ノ激”!!」
技名を唱えたと同時に百体の龍が一斉にナユタに向けて放たれた。
「だったら似たやつで返してあげる。“八岐ノ大蛇”!!」
『大蛇』はさらに金属で新たな首を作り、百近い首を突き出した。
無数の龍と蛇がぶつかり合う。数では両者拮抗しており押されたり、巻き返したりの繰り返し。
「お前も戦うの好きそうだな…だったら良いこと教えてやろうか?」
「…?」
「“お前の弱さを知れ”ってなぁぁぁぁ!!!!!」
百体の龍はさらに威力を強め、『大蛇』の首を折ってついにナユタを巻き込んだ。
その威力は止まることなく、ナユタ、『大蛇』を飲み込み、倉庫の壁を食い破ったのだ。
しかしナユタは何とか生きており、脇腹に重傷を負いながらもまだ立っていた。
「お前の弱い所はな、全部式神頼りだったってことさ。オレは“百龍ノ激”を放つ際、常に大量の妖力を使ってる。なのにお前は余裕ぶって全ての攻守を式神に任せていた。そのせいで最後に妖力を上げたオレに負けたんだ!」
「ナユタが…負けた…?初めて、負けた…。」
その瞬間、ナユタの隣に仲間である人造人間の暦が現れてナユタを連れて一瞬で消えてしまった。
「ひとまずは何とかなったな。いって!」
後ろから近づいた凱に頭を殴った。
「“何とかなったね。”じゃねぇよ!どんだけ俺が殺されかけたか!あと…どんだけ心配かけたか分かってんのか?」
急に優しげな声になり、龍我は余計にこたえてしまった。少し気まずくなったが、龍我は頭を掻きながら立ち上がった。
「あーもうごめんって!はい謝った、はいこれでチャラー!」
「お前な…。」
少し凱は呆れて掌を額に当てた。
「とにかく、ここの制圧は終わったから先輩たちと合流だ。」
「は?ココで待たないのかよ。」
「風雅さんと連絡取れないって言ってたろ?中にはアイツより強い奴がいるかも知れない、急ごう!」
EPISODE43「百龍」完
次回「女王」




