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妖狩  作者: 定春
第一部 東編
37/50

EPISODE37「失意と決意」

          ヒカルが死んだ


 この事実だけが、妖狩エージェントたちに突き刺さる。

鬼熊組との戦いで構成員を掃討することに成功したが、謎の組織“財団HAND”からの使者“からす”が妖狩エージェントたちの前に姿を表し、ヒカルを殺害。心臓から白い玉を取り出して去ってしまった。


          8月25日 八雲邸


早朝。毎日真っ先に聞こえてくる『おはようございます!』の声が聞こえない。静寂ただ一つだけ。

風雅は一睡もせずにただソファに座って失意のどん底に落ちていた。

もっと自分が動けていたら、もっと早くに対応していれば、ヒカルは死なずに済んだ。

そもそもヒカルが人造人間ホムンクルスって何なんだ。財団って一体何なんだ。

四六時中この事ばかり考え込んでいて、隈ができるほど思い悩んでいた。

雷牙は配信を休んでベッドの上でモニターに反射する自分の姿をじっと見ていた。


琥珀は家の空気が悪くなるのを察し、一人公園の中、暗い顔でブランコを漕いでいた。涙が止まらない。漕ぐのをやめて泣きじゃくる。『猫又』が擦り寄り、抱きかかえさらに声を上げて泣いた。


凱は鬼熊組によって殺された仲間たちの葬儀を牛鬼会だけで開き、火葬し、家族も親戚も分からないメンバーたちは墓も作れず校庭の楠木の下に遺灰を埋めて楠木に死んだメンバーたちの名前を一人残らず彫った。

残ったのは凱、一華、ジミーと東京の下町に出かけていた数人だけ。

他の仲間たちは皆声を上げて泣いたが、凱だけは仲間の前では涙を流さず葬儀を執り行った…実際は泣くのをずっと我慢していた。かしらとしての威厳を見せた。


龍我は河原に座り膝を抱えていた。

『ご主人…』

「今は…出てこないでくれ…ちょっと一人で考えたい。」

神流はシュンと落ち込んで引っ込んでいった。

龍我は先の戦いで住民を先に逃がしていたのにもかかわらず死傷者を出した。47号にも言ったが、龍我は亡くなった被害者、その遺族の恨み、怒りを全て受けると堅く誓った。おまけに後輩を一人見殺しにした。47号との戦闘でガス欠同然の状態となり、身動きが取れず、ヒカルを助けられなかったと後悔していた。

そんな時だった。

「何湿気た面してんだよ坊主。」

河原に凱がやってきた。

「キミか…よく会うねオレら。」

「まったくだぜ。(ここでなら一人で色々発散できるかと思ったのに、今一番会いたくない奴に出会っちまった…!)」

二人はお互いを見ようとせず、川の流れる音、カラスの鳴き声、気まずい空気が漂う。

「なぁ、お前なんでここにいんの?」

「色々考えたくてさ…水の音聞いてると集中できるんだ。雑音が今来たけど…。」

「ちっ!…まぁそれは水に流してやろう。ヒカルの事だろ一番は…死んだ奴のことなんていつまでもウジウジと引きずってんじゃねぇよお前らは…!」

「そんな言い方は無いだろ…!なんだよ、不死身になって人の心まで無くしたのか!?どうせキミには!!…あっ…」

怒りに任せて凱の顔を睨んだ。悲しげな顔をしていた。それもそうだ。彼はヒカルよりも長い付き合いの仲間を大勢殺された。自分の無力さも痛感した。そんな凱を悪く言う事は出来ない。凱は龍我の隣に座った。


「俺は今まで多くの仲間の死を見送ってきた…孤児院の仲間たちは社会人になったが、残りのダチはみんな俺に付いてきた…でもみんな殺された…!ヒカルが死んだのだって悲しいさ、悔しいさ!でも生きてる俺たちが出来るのは、死んだ仲間の分も生きていくことだけだ…

過去は変わらない。ズルズル引きずってても何も出来ねぇんだよ、だから生きていくしかねぇ…仇討ちする道もあれば、平和にあいつの分まで暮らす道もある。生き方なんて別に好きに選べばいいのさ。俺がとやかく言うことじゃねぇしな。」

「凱くん…。」

「兄弟だって今は悲しんで後悔してると思う、だがアイツは必ず覚悟決めるって俺は信じてる!子猫だって雷牙だって必ず前を向き始める!」


 その通りだった。仲間を失おうとも必ず彼らはしぶとく前を向く。琥珀はブランコから飛び降り、『猫又』と共に歩き出した。

「別に敵討ちとか趣味じゃないし、復讐心にも染まりたくないけど財団あいつら居たら色々と邪魔だもんね…だからさ、みんなで潰すわよ…財団!」


雷牙も部屋から出て風雅の前に立つ。

「おい、何いつまでも悩んでんだ。起きろ、前を向け!」

「俺は何も出来なかったんだぞ…?また一人失った!ハナもヒカルも母様も全部この手から溢れていくんだよ!!もう無理だ、限界だ!何が笑顔だよ、何が平和だよ別にいらねぇんだよ!!俺は何もない空っぽの、ただの、クズなんだよぉ!!」

「その口を今すぐ閉じろ風雅!!」

雷牙は風雅の顔を蹴り一発で倒し、ソファから落とした。

「お前…今なんて言った…笑顔も平和もいらない…だと?やけになって自分の気持ちに嘘を付いて言う言葉がそれか!」

この時自分がやけになって思ってもないことを言っていたことを風雅は雷牙に言われて認識した。

「え…俺そんなこといってたの…?」

「かなり思い詰めてたようだな…俺の蹴りですっきりしたろ?」

「まぁ確かに…風呂入ってくれって感想は出てくるな。」

「臭くて悪かったな…!まぁ昨日おれも相当思い詰めてたし…お前のことを責められないんだけどな。でも、今度またウジウジ悩んでみろ、殺すからな?」

「怖い怖い。」

風雅は凱よりもたくさんの人の死を見てきた。口では平気な言葉を並べ、得意の笑顔で取り繕っても、心の中では泣いていた。

ヒカルと出会った当初は邪険に扱っていたが、いつの間にか日常を謳歌し、成長するヒカルを見るのが楽しくなっていた。家族を作るのも悪くないと思い始めていた…


           ピピー。


無機質な音がリビングに響いた。二人は音の発生源を探す。

「え、何盗聴器!?」

「馬鹿な、この前の盗聴器は俺が電気放って壊したぞ!」

「ってあったんかい!」


二人は音の発生源を聴力を頼りに探すと、テレビ前のテーブルの近くだという事を掴んだ。

「まさか…この赤い紙か?」

「まっさかー。」


まさかの発生源はその赤い紙だった。二人が疑心暗鬼になってその紙をじっと見つめていると、黒文字で文章が浮かび上がった。


      『一之瀬 光のコアはまだ生きている。』


「!?」

二人は衝撃を受けた。すると連続で文章が下から上へと上がってくる。

「なんでスター◯ォーズ風なんだよ。」

『あっ、あーあー聞こえてるー?ワシじゃワシー財団の可愛い担当人造人間ホムンクルスこよみじゃー』

「あっ、俺に紙渡した子か。」

「良いのか財団だぞ?信用できるのか…?」

『別に信用しまいが疑おうが勝手じゃ。』

「聞こえてんのかよ。」


『聞こえとるに決まっとるじゃろ。これは…えーと何じゃ?“でんわ”とかいうやつと同じじゃ!』

「無声だからFAXでは?」

擬音まで文字化されるから余計に文字数が増えて蛇足となっている。

『ごほん!ともかくじゃ妖狩りのお主たちと話すことはさすがに禁止されとるからこのただの紙にわしの妖力を脳波に乗せて文章を描いておる。はたからみれば阿呆な顔をして止まっているように見えとるじゃろうなぁ恥ずかし。』

「御託はいいから早く話せ、さもなければ燃やす!」

雷牙はライターに火を点け赤紙を脅した。

『だぁぁぁ!!分かった、分かった!!』


『光殿のコアはもうじき新たな身体に接続される。』


「接続…?」

人造人間ホムンクルスの作り方。まず過去に生きた妖の細胞を髪の毛や灰から取り出し培養。カプセルぐらいの白い玉を作る。

そしてモデルとなる妖に身長体重が近い人間をさらい、型を作る。そしてその玉を被験体の心臓に埋め込み受肉。過去の記憶と肉体を引き継いだ人造人間ホムンクルスの完成だ。


「ひどすぎる…」

『わしの原型となった子供も、もうこの世にはおらん。むごい話じゃが、もう過去は変えられんのじゃ。では頼むぞ妖狩えーじぇんと。最後に基地までの道のりをこの紙に記す。』

そして文章はプツリと途切れ、財団HANDの基地までの道のりが記された。何故あの時彼女が風雅に対し慈悲深い女神のような表情をして、この紙を渡したのか今は分からない。しかし風雅の決意は固まった。

「どうする風雅…」

「どうするも何も、行くっきゃないだろ。ヒカルを取り戻すぞ!」

「その話、聞かせて貰ったわよ!!」

振り返れば目を真っ赤に腫らした琥珀が仁王立ちで立っていた。

「ヒカルを助けて、財団潰すわよ!」

一瞬呆気にとられたが、八雲兄弟は見合って、本気の顔つきになった。

「あぁ行こうぜ。」


           ー河原ー


「兄弟からメールだ。」

凱のケータイには風雅からメールが入った。

龍我はその内容を覗き込む。

それは先程の手紙のやり取りとヒカル奪還作戦の内容だった。決行は2日後。各々準備をするようにと


「坊主、ヒカル助かるかもしれねぇな。また大きな祭が始まる予感がするぜ。」

凱は作戦決行前に準備、主に訓練をしようと帰ろうと踵を返し歩いたが、龍我が呼び止めた。

「そういやさ、オレたちまだ戦りあった事無かったよね?」

「は?」

「作戦決行前の良い練習とストレス発散、その他諸々含めて、キミで晴らさせてもらうよ。」

「上等だぁいいサンドバッグ見つかったぜ!!」


こうして龍我対凱の手加減無し忖度無しのマジバトルが作戦決行前に行われた。


        次回第一部最終章開始。


             EPISODE37「失意と決意」完


           次回「潜入」

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