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妖狩  作者: 定春
第一部 東編
35/48

EPISODE35「餓鬼」

        1989年 石動 凱 爆誕


 平成元年という年号の変わり目に生まれた石動 凱は幼い頃から満足した生活を送らせてもらえなかった。母親は凱を身籠ったことにひどくショックを受け、産んだすぐ後になぜそう思い立ったのかは謎だが入水自殺。父親は飲んだくれており、ある程度の食事を与えていたものの、同時に暴力も絶えなかった。

凱が4歳の時、父親は酔った勢いで線路に侵入。電車に轢かれ亡くなった。

凱は父親が死んだことに何も感じていなかった。涙すら一滴も流さなかった、どうせ死ぬと分かっていたからだ。 

満足な教育も当たられず、虐待までされていたのに、一般の4歳児までの体格と体力を維持できたのは奇跡と言っても過言ではないだろうか。


7歳の頃、孤児院の協力で小学校に入学。

そこで生まれて初めて喧嘩をしてしまい、相手の子を殴ってしまった。

その時、人を殴る感触を知ってしまい高揚感からか校内の問題児たちを片っ端から殴ってしまう。


9歳の頃、学校中の生徒から恐れられ、“悪童わるがき”とまで言われるようになった。

そんな暴れん坊を唯一止められる生徒が一人いた。

「こらーーガっちゃん!!まーたケンカしてんのかぁーー!!!」

「げっ…一華!」

ケンカする度に一華に見つかっては“ゲンコツ”という鉄拳制裁が加えられる。

一華とは孤児院で知り合い、現在までの付き合いに至る。彼女も早くに両親を亡くし、悲しみに暮れていたが、凱が入ってきたことでその悲しみも晴れていった。

凱は表面上は正義感があって強く見えるが本当は“愛”などという感情を知らない。愛情を知らないから動物も人も平気で殴れる。

両親からの“愛”を受けていながらも同じ境遇の一華だけが凱を止められる。


少し遡って小学一年生の時、二人を引き取ってくれる男がいた。名は“牛島”。体は牛のように大きく、右目に傷を持つ強面の中年男性だ。見た目は怖いが近所の子供たちからは人気なのだ。

その正体はかつて街を牛耳っていたギャング集団“牛鬼会”の初代頭かしらである。

二人からは「おやっさん」と呼ばれている。

昼は駄菓子屋、夕方からは子ども食堂を営んでいた。


          バッカモン!!


食堂に怒号が響き渡る。凱の頭には大きなタンコブが出来ていた。

「また暴力のために拳を振るったのかお前は!」

「むしゃくしゃしてたんだから仕方ねーだろ!別に殺すまで殴ってないし。」

「そういう問題じゃねぇ!お前のその拳は誰かを護るための拳にしろと何度も言っただろうが!」

「そんなん言われても分かんねーよ!俺には護りたいものなんてない!!」

凱は怒鳴ってキッパリと断言し、階段を登って自室に籠ってしまった。


 それからしばらく経った二学期の末。廊下で小柄な男子生徒が数人の生徒にいじめられていた。

「や、やめて…!」

その様子を凱と一華は角から見ていた。

「どうしよう…ウチじゃ力不足かも…ガっちゃん何とかしてよぉ。」

「は?やだよ、何で見ず知らずのチビのためにケンカしなきゃいけねぇんだよ。」

「“ケンカ”じゃない、“護る”のよ!」

「またそれかよ…俺には何も護れない。俺はただ拳使って憂さを晴らすだけだ。」

凱は一華に向けて拳を掲げてアピールしたが、一華はすぐに凱の拳に自分の手を重ね、強く握った。

「お願いだから…もう、いけないことに手を染めないで…!あんたがケンカしたって聞いた日は毎日おやっさん皆に頭下げて回ってるの知ってるんだから!!」

「!」

「頭下げて、殴られて、それでも怒りもせずに毎日毎日夜も寝ないでくまだらけ!もうおやっさんを休ませて上げてよ、親孝行の一つでもしたらどうなのよバカ!」


小3の口からこんなにも立派な文句が出るだろうか。

親なんてものを知らない凱には想像しかねる状況だった。

「赤の他人が自分のために謝罪?何のために?」

この思考しかない。

「ちっ、仕方ない…行くか。」

凱は一華の手を振り払い、いじめている生徒たちの元に走り寄る。そして

「おらぁ!!」

凱は何も言わずいじめっ子の一人を殴り飛ばした。

「お前は…“悪童わるがき”の凱!」

「おい、今度そのチビに手ぇ出してみろ?必ず俺がぶっ飛ばしてやるからな!」

残されたいじめっ子は殴られて気絶した仲間を引きずって逃げていった。

「あの、ありがとう…」

「あ?何もてめぇ礼言われるために助けたんじゃないからな!何見てんだぶっ飛ばすぞ!!」

「こんのバカ!」

一華はすかさず凱の後頭部に空手チョップを入れて気絶させた。

「ごめんねぇこいつバカなのぉ〜。」


この時助けられた少年こそが小次朗であった。

凱は小次朗を助けた後からなのか、無意識に身の回りのものに気を使えるようになった。

牛島が被害者の家族に謝罪することもなくなった。口では色々とツンケンしているものの、一番愛情に飢えていたのは凱本人だった。

食堂には小次朗が加わりより賑やかになった。


「この頃は楽しかったよね…君があんなことするまでは」

と小次朗は凱に迫る。

 

 時はさらに流れ中学一年生の時。ここですべてが狂い始めた。

凱はいじめられっ子を助けようとして集団リンチにあい、刃物で刺され、場所が悪かったのか死んでしまった。

そして妖として覚醒。

元々身長145センチだったが、一日で170センチまで急成長した。

日に日に力が増し、学校でも何かに触れる度に豆腐のように崩してしまう。

牛島にその事を相談すると

「お前…妖になったんだな…。」「あやかし?」

「一度死んだ人間が超能力を持って生まれ変わったバケモンさ。俺の親父も妖だった。」

「おやっさんの親父も…」

「警察に撃たれて死んだがな…」


その後も悲劇は続いていく。

一華は子供を助けようとして車に轢かれ死亡。妖として覚醒し、「“衝撃波(The Shockwave)”」の術式を手に入れる。

一方の小次朗は階段から脚を踏み外し死亡。妖として覚醒し、「“暴力(The Violence)”」の術式を獲得した。

二人とも覚醒したことに戸惑いがあったが、一華は常にプラスに考え続け、日常生活で運用できるほど器用だった。


「凱くん。君は何故あの日起きたことを覚えていないのかい?僕たちが袂を分かったあの日を…」

「忘れるわけねぇだろ…だってお前g」

「君がその手でおやっさんを殺した事を僕は一生許していない!!そして君の罪を僕になすりつけ、牛鬼会から追放した!!」「…は?」


凱からしたら小次朗が何を言っているのか分からない。

小次朗は怒りに身を任せ財団の支援を受けた者だけが持つ薬を首に注射し、式神『鬼熊』を“武装アームド”した。『鬼熊』を全身に纏い、巨大な熊の怪物になった小次朗は暴れ回る。

大剣で応戦するも『鬼熊』の拳で吹き飛ばされ、大剣はステージから落ちてしまった。


「『玄武』、“武装アームド”!!」

両手の巨盾で“武装アームド”した小次朗の拳を受け止め、“さい”で一撃を入れるが強靭な熊の体には通さない。

そして凱は叫ぶ。


「お前さっきから何言ってんのか分かんねぇ!おやっさんを殺したのはてめぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」


 小次朗があの日見た光景。

凱は日に日に妖の力が増し、制御できなくなった。そこでとあるニュースが入った。

凱がいままでケンカで勝ってきた生徒たちが皆遺体となって発見されたという。

それを追及された凱は錯乱しながら食堂をめちゃくちゃにし、子供たちを庇った牛島は腹部を貫かれ殺害。

何事も無いように牛鬼会を名乗りだし、小次朗に牛島殺害の濡れ衣を着せ、警察に突き出し追放された。


一方凱があの日見た光景。

日に日に自分の力が増し、おかしくなっていく小次朗を皆心配していたが、とある事実が発覚した。

小学校で小次朗をいじめていた生徒、中学で小次朗をいじめている生徒が連日で遺体となって見つかったのだ。まるで熊にやられたような傷跡だったという。中には人間というものが辛うじて分かる物もあったとか。


食堂のテレビからそのニュースを見ていた一同。小次朗は虚ろな顔で椅子に項垂れるように座っていた。


「小次朗…こいつらお前をいじめてた奴じゃねぇのか…?」

「うん…」

「皆死んだらしいわよ…」

「うん。」

「小次朗、お前がやったのか…」

「うん!」

突然小次朗は目の色を変え、足元の影から『鬼熊』を召喚。子供たちに襲いかかるが、庇った牛島は『鬼熊』に腹部を貫かれてしまった。

凱はすかさず小次朗を殴り気絶させた。

「おやっさん!!」

「凱…こんなわるがきが…人の為に動けるわるがきになるなんて思わなかった…凱、お前は俺の誇りだ!牛鬼会を継げ、そして弱き人々を護り、街を汚すものを…倒す…の…だ…」

「喋んなおやっさん!一華、救急車!!」

一華は足がすくんで動けなくなっていた。また愛する人を失うトラウマを思い出し、体が震え縮こまってしまったのだ。

「ジミー、救急車!!」「了解ッス!」

「呼ぶな!お…れはも…う助からな…ぐふっ!凱、俺からの… 餞別プ…レゼ…ントだ…!」

精一杯の力を振り絞って指差した先にあったのは、一本の大剣だった。そう言い残し、力が抜けて指が地面に落ちる。

「あ…あぁぁ…!おやっさぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

これが凱が見たあの日の真相である。


凱は涙を浮かべかつての友を倒す悲しき覚悟を背負い、小次朗に立ち向かう。

        

         「“鉄塊羅岩”!!」


凱は全身を熱気に包んで小次朗に突っ込んでいく。小次朗は爪から斬撃を飛ばす。凱に当たり、右腕が吹き飛ぶが瞬時に再生。その後は斬撃を避けて近づいていく。


この“鉄塊羅岩”という技は防御を捨て、全て攻撃に振ることで力を解放できる技である。ノーガードのため隙が大きいという弱点はあるが、必中で大ダメージを与えることが出来る。

「来るなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「いいや俺はずっと、お前に手を差し伸べ続ける!!戻ってこい、小次朗っ!!」

先程は一つの拳での打撃は効かなかったが、次は二つの拳を合わせる。


         「“双拳・岩穿いわうがち”!!」


二つの拳から放たれる大地の力は2倍の威力であり、さらに“鉄塊羅岩”で攻撃力を強化した状態であるその威力は『鬼熊』の体を霧散させ、中身の小次朗だけを吹き飛ばした。そして彼は倒れた。


 


 小次朗は凱に抱えられながら目を覚ました。

「よぉ、起きたか?」

「凱くん…?なんか…すっきりした気分だ…。」

小次朗のジャケットの裾から灰がサラサラと音を立てて流れていた。

「あぁ…僕もう駄目みたい…」

「まだだ!まだ何とかなるって、もっと、こう…なんか…」

「もう良いんだ…僕はたくさん人を殺し過ぎた…地獄に行くんだ…。」

小次朗は先程の狂った表情から悪い憑き物が全て洗い流されたような穏やかな表情をしていた。

「僕は…財団に入ってしまった…あの“烏”っていう仮面の男が…僕の耳に囁いたんだ…」


「“君の一番の友達が、君の大切な人をみーんな殺した。”」


小次朗の灰化が進行していく。

「ごめんなさい…ごめん…なさい…。」

「もう謝るな…!これ以上俺の前からみんな居なくならないでくれよ!!」

凱は初めて人前で泣いた。愛を知らなかった、憂さ晴らしの為に拳を振るっていた“悪童わるがき”が、大粒の涙を零して駄々をこねた。

涙が小次郎の顔に当たると顔も灰化してきたのか、涙が染み込んでしまった。

「凱くん…バイバイ…僕は…あっちで皆に謝る、罰も受ける…おやっさんにも…あい…t。」

ついに全身が灰化し、凱の手からこぼれ落ちた。

凱は悲しみとやるせなさで灰を掴んで叩きつけた。

「馬鹿野郎…!!俺はもう“そっち”に行けねぇんだよ…!」

人々を護ってもいつかは死に、見送っていく。これから仲間たちが消えることもあるだろう。それでも悲しみを押し殺して見送ることしかできない。だって彼は“不死”だから…         

                EPISODE35「餓鬼」完


           次回「鬼神」

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