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妖狩  作者: 定春
第一部 東編
31/38

EPISODE31「自傷」

ヒカルと琥珀により、鬼熊組の幹部二人を討伐することに成功した。残る幹部は三人、そして風雅と凱はかしら・小次朗の行方を追って、千代田区にある武道館に向かった。


           ー渋谷区ー


地面から生えた針の山で壁を作られ分断された雷牙とジミーはそれぞれ幹部に当たってしまった。

ジミーが対峙する幹部はナイフをくるくると回しながら近づいてくる。第50号と呼称しよう。

「たく、人間だからすぐ終わっちまうんだよなぁ…最強の妖狩エージェント様って奴とやりたかったぜ。」

ジミーは生まれつきの影の薄さで50号から逃げようとするものの、

「なに、こそこそやってんだぁ?」

ジミーの居場所を察知し、ナイフを投げつける。幸い顔に当たらずケガはなかったが、すっかり怯えて腰が抜けてしまった。

「てめぇがどこへ逃げようと無駄だ。俺は狙った獲物は仕留めるまで逃さねぇぞ?」

「くっ……あぁもうくそっ!!」

ジミーは隠し持っていた瓦礫の破片で50号の頭を殴り、その隙に逃走した。

(広い道に出てそっから八雲の兄貴と合流すればいい!あそこまでダメージ与えたんだ、しばらくは悶絶して動けねぇ!)

「痛ってぇなこのクソガキが!!」


           グサッ!


何を血迷ったのか、50号は自分の右脚に自分のナイフを突き刺した。

「つーかまーえた…!」

それと同時にジミーの右脚に刺し傷が現れ、転んでしまった。

「なっ、どういうことだ!?こんな傷知らねぇぞ!」

「おー、そんな近くにいたか。存在感も皆無、おまけに運動もダメとは…お前ほんとにギャングか?」

「うるせぇ…色々ダメでも、かしらがいれば…。」

「そのかしらに頼ってるからお前はダメ人間のままなんだろ?!なぁ!」

次に50号は自分の肩にナイフを突き刺し、同時にジミーの肩も傷付いた。

「これが俺の術式…」


       ー「“損傷(The Injury)”」ー


自分のダメージを対象に肩代わりできる能力を持った術式だ。発動条件は自傷すること。手に持ったナイフは自傷用でもあり、相手に傷を負わせることも可能。


「しかし俺が殺すと決めた相手にしか使えねぇけどな。雑魚相手に使う気はなかったんだが、お前があまりにもムカつくから使っちまった…よ!」

次は右の掌を刺した。ジミーの掌から鮮血が噴き出す。

慌てて抑えるも出血が止まらない。

次に自分の足首を切りつけ、ジミーを立てなくし、顔を蹴り上げ、自分の頬に切り傷を作った。

「あぁぁぁぁ!」

「痛ぇか?痛ぇだろう…俺はな、絶対この力を使う時は急所は避けてんだ。何でか分かるか?」「……!」


「相手の苦しむ顔が見てぇからさ!」

「この悪魔め!」「黙れ!」

50号はジミーの髪を掴んで、顔をコンクリートに叩きつけ、顔を蹴り上げて瓦礫の山まで吹っ飛ばした。普通の人間ならばここで息絶えるが、ジミーは生まれつき頑丈さだけは飛び抜けていたので、簡単に死ぬことは無いが、その分狙われるというものだ。


ジミーは残った体力を振り絞って瓦礫の山から滑り落ち、ふらふらとした足取りで逃走する。

「もう一本の足も切っとくんだった…対象を視界に入れねぇと使えねぇんだよなぁ…。」

50号は軽々と山を飛び越え、辺りを見渡すがジミーの姿はどこにもなかった。

「逃げたか…まぁ別に殺しても何ともないがな。」

「おらぁぁぁ!!!」

50号の背後にある中華レストランから包丁を持ったジミーが近づき、50号は振り返ったと同時に腹部を包丁で刺された。

「お、おぉ…!」

「これが地味を利用した俺の戦い方だ!」

「残念でした〜。対象を視界に入れたまま俺に傷を付けたらよぉ全部自分に跳ね返って来んだろうがぁぁ!」

ジミーは包丁を刺す瞬間、雄たけびを上げてしまった。

その声に50号は反応し、対象となるジミーを視界に入れてしまい能力発動が再開された。もしここで静かに近づいて刺していれば確実に有効打になっていただろう。


能力が発動し、ジミーの腹部に出刃包丁の広い刃で刺された跡が出現した。

「かはっ!」

「ちっ、みぞおちギリギリかよ…悪運の強い奴だ。逃げれば良かったものを…死に損ないめ!」

さすがにジミーの体はボロボロで、その場に倒れ込んでしまった。走馬灯も見え始めそうだった。

かしら…助けて…。」


ジミーは産まれた時から存在感が無かった。幼稚園の頃は親にすら気づかれず、隣にいるのに捜索願が出されるほどに。小学校ではクラスの皆から気付かれず、卒業アルバムにも載せてもらえなかった。

中学校では思春期と反抗期で荒れに荒れ、不良として存在感を確立しようとした。だが喧嘩も弱く、体力もない。ヤンキーと言うにはダサいチンピラと化していた。

そんな暗黒期を一瞬で塗り替える男が登場した。


       ー10年前 中1の二学期ー


ジミーはある生徒に決闘を申し込んだ。

それが後の牛鬼会頭かしら・石動 凱だった。

生徒の間でこの決闘は注目すべき一大イベントと化した。

「おい、石動が決闘申し込まれたって!」

「見に行こうぜ!」「戦う相手死んだなw」

舞台は中庭、ジミーは凱の実力を知らずに決闘を申し込んでしまったらしい。

この頃の凱は落ち着いているが、小学生までは喧嘩三昧の暴れん坊だった。対して自分は喧嘩すらも出来ないひよっこ、結果はすでに分かっている。

「お前、弱そうだなぁ。」

「そんなの、やってみなきゃ分からねぇだろ!」

勝負は1分で着いた。ジミーのボロ負け。喧嘩至上一番盛り上がらないハズレ回となった。


その後もジミーは凱に勝負を挑んでは返り討ちにされ、また何度でも挑戦した。

「お前、弱いくせに何で挑んでくんだよ。」

「はぁ…はぁ…アンタを倒せば、俺の名声は上々!人気者だ!」

「力で勝ち取った人気なんてお前は嬉しいのか?」

「人気なれりゃなんだっていいんだよ!もう誰にも相手にされない人生はうんざりだ!どうせお前も俺の顔なんて忘れてるくせに!!」

「え、毎日来るから逆に忘れられなくなっちまったよ。15回も挑んできたよな。な、忘れてないだろ?」

「お前…。」

「昔から記憶力は良いんだよ。あっそうだ、今度さ牛鬼会のおやっさんの食堂行こうぜ!めちゃくちゃうめーんだよ!」

「お、おう…。」

ここでジミーは初めて友達と呼べるような間柄になっていた。

先代頭かしらの食堂で、凱や一華との交流を深めた

そして凱をかしらとする牛鬼会を再結成した際、初期メンバーとして選ばれた。当然目立たないので幹部級の立ち位置とはならなかった。

ただそれでも良いと思えてきたのだ。人気者になれなくてもいい、無理に目立とうとしなくてもいい。そう思わせてくれたのは友との交流のおかげだ。自虐や愚痴で人気者どうこうと言うこともあるが、凱は背中を叩いて笑ってくれる。


「たとえ皆がお前を忘れても、俺だけはずっと覚えててやる。」


さりげないこの一言がジミーを救ってくれたのだ。その一言だけジミーは絶対に忘れたことはない。今は目の前にいる仇をぶちのめすのみ。牛鬼会の一員としての責務を果たそうとしている。

「もういいだろ…純人間にして良くやった方だぜ?さぁ心臓刺してフィナーレだぁ!!」

50号はナイフを自分の心臓に刺そうとしていた。


           パシっ!


何者かが50号の腕を止めた。「!?」

かしら……?」

薄れゆく意識の中でジミーは助けに来たのは誰かと目を見張っていた。

「ジミーさん、大丈夫ですか!」「お前…」

助けに来たのはヒカルだった。

「何だよ…かしら…じゃねぇのか…よ…。」

ジミーは安心したのか、ゆっくりと目を閉じて意識を失った。

「ここからは僕があなたの相手をします。」

「お前は妖か…ちょっとは楽しませろ…よ!」

50号は不意打ちで自分の足にナイフを刺して、ヒカルが動けないようにした。

砂煙に紛れヒカルを背後から襲おうとしたが

「ぐふっ!」

ヒカルはジミー戦の時に使用した“勘”による裏拳で50号を吹っ飛ばす。

「何だこいつ…この!」

砂煙が晴れた後、左肩、左肘を連続で刺し、ヒカルから血が吹き出た。

(奴の姿が見えりゃこっちのもんだ!ははっ!)

しかしヒカルが持っているものを見た50号は自身をなくし、一気に血の気が引いた。

「そ、それは…小麦粉!いつの間に!」

「さっき近くの店から取ってきたんですよ。ちゃんと金はレジに置いてきました!」

ヒカルは小麦粉を地面にぶつけて煙幕代わりにして50号を撹乱。

「“光輪弾”!!」

煙幕で能力を封じたヒカルは50号の顔面に“光輪弾”をぶつけ、上空へ吹き飛ばし、50号は花火となって廃虚となった渋谷の空で輝いた。


その花火に他の幹部や妖狩エージェントが見上げた。

残る幹部は二人、風雅たちは武道館に辿り着いた。

「小次朗!」

凱は一目散にスタジアムの中に入り小次朗を探した。

「来たね、妖狩エージェント。そして何故か生きていた凱くん。」

小次朗はスタジアム中央に立っており、スポットライトが彼に当たっていた。

「さぁ、妖狩エージェントの諸君…“祭”の始まりだぁ!」

                 EPISODE31「自傷」完


           次回「雷獣」

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