EPISODE23「青龍」
風雅たちの前に現れた新たな妖狩・龍我は風雅の矜持を受け継ぎ、最強の武道家となるべく敵と戦う。凱とは反りが合わなかったが実力は確かなものだった。
対峙した43号は“財団”と呼ばれる謎の組織から支援を受けており、謎の液体を注入してパワーアップ。
辛うじて倒すことに成功するが、“財団”と“注射器”の謎が浮かび上がる。
ー8月3日 AM9時15分ー
43号を撃破した後、回復した龍我は八雲邸を訪れていた。
「風雅先輩、雷牙先輩。改めまして、修行終えてただいま帰還しました!」
「そんな堅苦しい挨拶すんなよぉ。」
「前みたいに普通の挨拶してくれても良いぞ。」
「で、何でキミがいるんだい…?」
龍我が風雅の間から家の中を覗くと、凱が何気ない顔でお茶を飲んでいた。
「……また言い争うなよ?」
龍我は屋敷にあがり、凱のいる居間まで入った。
「……何だよ。」
「昨日は…ありがと…」
「………けっ、何だよ気持ち悪ぃ。」「くっ…!」
再び二人は一触触発の状態に、目に見えるほどの火花が二人の間に散る。
「あーもう言わんこっちゃない!」
「一周回って仲良いでしょあの二人。」
二人の言い争う声を聞いた琥珀が洗面所から歯磨きしながら覗いた。
「やっぱりキミっていけ好かない奴だよね!」
「俺よりいけ好かない奴に言われたくないね!」
二人の口論はまだ続き、終わりがないと思った時、
「ストッーープ!!」
とある少女が蹴りで中央に割り込み、二人の口論を止めた。
「なんだこの娘、どっから現れた!」
凱は鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、琥珀は
「可愛い女!可愛い女!」
と歯ブラシを放り投げて蛮族のように騒いだ。
「ご主人に近づくな野蛮人!」
「野蛮人…w」
陰から見ていた雷牙は少女が言ったことを復唱したら笑いを堪えられなかった。
「龍我、この娘ってもしかして…」
「オレの式神『青龍』です。」
少女には青い鱗の魚のような尻尾と、龍の角が生えており、見れば龍と分かるのだが風雅は疑問を持っていた。
「お前の式神って龍まんまじゃなかったっけ?」
「この5年で色々あったんです…」
とトホホと溜息をつきながら涙をポロリと流した。
「えー泣いてやんのーw!」
煽りを真に受け、相手を見ずとも涙を弾丸に変えて凱を吹き飛ばした。
ヒカルも居間に訪れ、龍我と顔合わせをした。
「君が風雅さんの弟子か…。うん、すごくいい目をしてる。一度オレと手合わせしてみないか!」
「え…いいんですか…?」
風雅は苦笑いを浮かべ壁にもたれた。
「あーあ。龍我に目つけられたってことは強くなってる証拠だけど、同時に運が無かったな。」
ー八雲邸別館・新道場 AM9時26分ー
先日の風雅の修行でボロボロになった道場を一流の匠たちが改修。シェルターを備え、妖の攻撃では傷がつかないようになった。欠点は床が硬すぎて寝られないこと。
「いやー楽しいなー全身の細胞が踊り狂っているよ!」
「ご主人頑張れー!!」
「どうしよう…勝てる見込みがない…」
「最初から諦らめんな!やってやれ。」
「いや僕術式とか無いし…。」
その弱音を聞いた龍我は準備運動しながらヒカルに助言をする。
「ヒカルくん、術式や霊力の大きさが全てでは無いんだよ。必要なのは心・技術・体力の心技体と何としても食らいつこうとするハングリー精神さ。」
その助言をヒカルは刻み、確かにその通りだなと思えた。
「分かりました。やってみます!」
そして風雅は試合開始の小太鼓を鳴らした。
「はぁぁぁ!」
ヒカルは拳を突き立て真っ直ぐ龍我に向かっていく。
「それだよその目だよ!」
しかし龍我は軽く回避し、ヒカルの背中に蹴りを入れる。
「ゔっ!」「まだだ、まだイケるだろ?!」
「アイツあんな動けるのか。」
と凱は龍我の戦闘技術を素直に認めた。
「そりゃそうさ。八雲印の龍我くんですよ?」
「どういうことだ?」
「龍我はな、俺らの“親父”が鍛えたんだぜ?」
元々龍我は親を知らず、生まれてすぐに捨てられ、ダンボールに乗せられ海を漂流していた。
それを港町に移り住んでいた八雲兄弟の父親が拾い育てた。
「親父まさか隠し子か!?」「やると思ったぜ。」
と双子からは疑われたが、すぐに弁明し龍我を育てた。
護身術として5歳ぐらいから武術を教わり、カンフー、少林寺拳法、ジークンドーと多岐に渡る。
それが今活きている。自身の後輩を鍛え、さらにその後輩の強さにワクワクしながら。
「足元がお留守だぜ?」「なっ!」
「はぁぁ!」
龍我はヒカルの脚を払って宙に浮かせ、さらに蹴りを入れて吹き飛ばした。
風雅は小太鼓を鳴らし試合は終了した。
「やっぱり強いな龍我さんは…」
「君もいい動きをしていたよ。新人の妖にしてはよく戦える方だよ。」「ありがとうございます…」
龍我は手を差し伸べてヒカルはそれを取った。
最近巷の黒い噂。夜のとある住宅街、女性が一人で歩いていると行方不明になるという。それは一人でなくとも、女性二人組なら二人まとめて、カップルなど異性同士でも必ず女性だけが消えるという。都市伝説あるところに妖の影有り。
警察からの調査以来で龍我とヒカルが例の住宅街に赴いた。
「龍我さん、その娘出したままなんですか?」
「あー“神流”のこと?うん、出しておくしかないんだよねぇ…」
「私はご主人の大切な人を守っているのだ!」
「それってどういう…」「ちょっと長いよ?」
ー5年前ー
これはまだ龍我が14歳だった頃に起きた事件である。
当時中学生だった龍我には“環奈”という後輩がいた。表ではクールで成績優秀というテ目で見られるが、龍我の前では人懐っこい本来の性格になり、本人はそんなに成績が良くない。いつも赤点ギリギリの点数を隠しているから、顔だけで成績優秀という勝手な印象を付けられているのだ。本人にはいい迷惑である。
「せんぱーい!また勉強付き合ってくれーって皆が言ってきます!助けてぇ!!」
「えー我慢して教えればいいじゃん…」
「嫌だ嫌だ!数学の問題見ただけで鳥肌立つんですよー!!環奈さんってクールだよねって言われるけど、ほんとは人との距離感分からないだけなんす!」
「オレには距離感バグってるくせに?オレにしてるみたいに皆にも同じ感じで接すればいいじゃん。」
「それは…その…先輩だけの特権て言うか…?」
環奈は急に赤面し、しどろもどろになっていく。次第に龍我を直視出来なくなり、徐々に横を向いていく。
「?」という反応をしたが、当時の龍我には知り得ない感情なのだろう。今も感じるかは分からないが。
そして夏休み
環奈は夕方に龍我を線香花火に誘った。
花火は盛り上がり、二人とも幸せな時間を過ごしていた。その帰りに事件は起きた。
龍我は環奈と別れ、背を向けて家路に着こうとした時。
「きゃあぁぁぁぁ!」
環奈の声が聞こえた。彼女の目の前には影で何者かは見えないが妖が立ち塞がっていた。
グサッ
「先輩助けt…」
その妖は環奈の胸を貫き、不敵に笑った。
「……!!このやろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
この時人生で初めて、己の理性が消えるほどの激怒した龍我は、気づいた時には自分の手が真っ赤に染まっていた。息も荒く、全身は痛いが残った力を振り絞って環奈を抱き上げた。
「環奈ぁ!しっかりしろ!」
拍動が弱くなっていく。息も絶え絶え。中学生の龍我にはどうすることも出来ない。
「何だよ、何なんだよ!妖って何なんだ!!やめろ、オレから大切な物を二度も奪うんじゃねぇ!!神様助けて!オレの大切な後輩を、助けてください!!」
『ご主人…』「!?『青龍』…?」
この日初めて『青龍』の声を聞いた龍我はその言葉に耳を傾けた。
『私ならその子を助けることが出来ます。』
「本当か、どうするんだ?!」
『私がその娘の体を借りて実体化します。実体化している時にその心臓の傷を癒し、回復させます。少々時間は掛かりますが…』
「助かるんだったら時間を惜しんでる暇はない!今すぐやってくれ『青龍』!」
そして『青龍』は環奈の遺体と同化。“神流”と名を改め、彼女が再び起きるまで今も待っている。
「心臓の穴は塞がったんだ…でも今外に出せば危篤状態に陥ってしまう。だからまだ解くわけにはいかないんだ…完全に回復するまでは。」
「そうだったんですね…」
その時だ。二人の目の前にいる女性のさらに前に何かが見えた。
コンクリートの地面をスイスイと進んでいる。
「何…サメ?」
「お姉さん危ない!!」
「え?」
女性は振り返った瞬間に体が地面に引きずり込まれ、言葉を発する間もなく道路の中に消えてしまった。
「アイツか!」
二人は女性が追おうとした時、道の角から白い制服の人間たちがぞろぞろと現れた。
「まさか、風雅さんの言う例の“財団”か!」
「龍我さんは奴を追ってください!ここは僕が!」
「ヒカルくん…正直こいつらと殺り合ってみたいけど、今はそんなこと言ってられないよね!」
龍我は背びれの軌跡を見つけてそこに飛び込んだ。
ー「“潜水(Dive)”」ー
地面や壁を自由自在に潜り、相手を引きずり込むことの出来る能力。
飛び込んだ先の空間で龍我が目にしたのは、
今まで行方不明になった女性たちの死体、骨になった物もあり、古くから犯罪を行っていた可能性がある。
先程引きずり込まれた女性はまど沈んでいなかった。
(まだ間に合う!)
「きえぇ!」
鮫を模した妖が龍我めがけて突っ込んできた。
「この女は俺のものだぁ!」
龍我は自身の能力で水中を模したこの空間に適応するために適応した。
「お前女だけ狙っているのか…」
「大人の女は健康的な肉付きをしていて格別なんだぁ!」
「こいつ…ばっかじゃなねぇのか?今すぐお前を殺してやりたいぜ未確認第44号!!」
「やってみろぉ!」
水を操る術式と言えども水中を自在に泳げるというわけではなく、44号は速く、龍我の特殊防護服を纏った服でも、二の腕が切られた。
「あっ、血が出た、血が出たぁ!」
「こいつ、調子に乗りやがって…すぐに終わらせてやる!」
44号が再び姿を現した時にはすでに攻略法を見つけた。単純に速さに惑わされるのではなく、落ち着いて相手の動きを観察してから、得意の発剄を繰り出した。
「“流水”!!」
その発剄を食らい、ひるんだ隙をすかさず狙って連続蹴りや発剄に水を纏わせて相手を弾く“流水”という基本技を打ち続けた。
「こいつ、女じゃねぇのか?」
「え、今気づいたのかい?ばっかじゃなねぇの?まぁよく女の子に間違われるけど!神流!」
白服たちを倒したヒカルは神流の体から角や尻尾が消えて倒れるところを目撃した。
「え、神流ちゃん?!」
体を貸りていた『青龍』が龍我の元に戻り、環奈も危篤状態に陥った。
「すぐに決着つけないと環奈が危ない!」
「昇れ『青龍』!!!」
龍我は水中で巨大な青い東洋龍を召喚し、“武装”した。
肩には雲を背負い、龍の角が生え、顔に水を模した痣が出現した。手足も竜人のようなものに変化した。
そしてその能力は水の龍を生成し、自在に操る能力。
その龍は水中空間でぐるぐると周り初めて水の竜巻を作り出し、龍我はその竜巻を昇り44号に向けてキックを繰り出した。
「“我龍転生”!!」
44号は水中でぐちゃぐちゃになりながら灰化消滅。空間は消滅し、龍に乗って龍我が脱出した。
神流は再び環奈の肉体に戻り、シュバッと音を立てて立ち上がった。
「ふっかーつ!」
先程引きずり込まれた女性は無事救出され、救急車を呼んだ。
「ったく、また“財団”関係者か…」
「最近多いですね…」
「雷牙先輩と警察のみなさんに聞こうか。」
果たして“財団”とは何者なのか、次回から物語は大きく動きだす。
EPISODE23「青龍」完
次回「賭博」




