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妖狩  作者: 定春
第一章 東編
22/30

EPISODE22「飛蝗」

牛鬼会という心強い仲間を手に入れた妖狩エージェント。実際そのおかげで東京での妖たちの犯罪は減少傾向にあり効果は絶大だった。


       ー8月2日 AM9時15分ー


 舞台はすっかり8月で夏真っ只中だ。日差しが強く、みんなは暑さでヒーヒー言う午前。風雅たち八雲家と牛鬼会のかしら・凱が妖対策係の作戦室に呼ばれていた。

「おいおい今度は何だよ。」

「今日は君たちに新たな仲間を紹介しよう!入りたまえ。」

作戦室の入口がカチャっと開き、少年が入ってきた。

「お、お前は…!」

「風雅さん、雷牙さんお久しぶりです。」


少年の名は“龍我りゅうが”。長き修行を終え、風雅たちに合流した妖狩エージェントだ。

他のメンバーたちとはやや小柄で165センチのヒカルよりも少し低く、水色の長髪。瞳は海のように青い少年だ。

「オレが来たからには妖の犯罪なんて二度と起こらないように撲滅しますよ。」

その後から来たのに上からの物言いに耐えられなかったのか凱は肩を上げて龍我に突っかかる。

「おうおう、リュウガだか、リョウガだか知らねぇけどよ、その態度気に入らねぇな!」

「おや、オレも同意見だよ。君のその何でも細かいことに突っかかる態度嫌いなんだよ。たかがギャングのくせにイキってんじゃねぇ。君みたいな人間が風雅さん達と肩並べられると思ってるのか?ばっかじゃないの?」

と龍我はわざわざ顔を近づけて凱を罵倒、一触触発の事態になる。

「おいお前ら落ち着け!」

「なぁリーダー様ーこのマセガキぶっ飛ばす権利をくださーい!」

「落ち着けガキ共。」

風雅は冷静な声で2人を鎮めた。

「ともかくだ、俺はこんなガキ認めねぇ。」

「それはこっちも同じさだよ。」

犬猿の仲となってしまった2人。一体どうなることやら。


 龍我はまだ警察側と話があり、雷牙たちも警察署に残ったが、風雅は凱を龍我から距離を離すべく、一足先に帰宅した。

「兄弟、あいつのどこが良いんだ?はっきり言って戦場を舐めすぎだ。修行終わり直後のガキを呼び出すんなんて警察もどうかしてるぜ!」

「凱。お前の言い分も分かる…俺の後輩と言えども龍我の実力は未知数、この先に戦いに付いていけるかも分からねぇ…お前はそうやって龍我を追い返そうとしたんだろ?守るために。」「…!」

風雅は凱が龍我に突っかかった真意を見抜いていた。それが的中したのか、凱の顔と耳は赤くなって黙ってしまった。

「図星か。」

「うっせぇ!お見送りご苦労だったな、こっから1人で行けるから!」

と風雅が凱を見送ろうとした時だった。2人のケータイに突然通知音とバイヴ音が鳴り、内容を確認した。


「渋谷区の下町付近で未確認第43号による転落事故が確認…」

それと同時にヒカルから着信が入り、風雅が応答した。

『先生、妖による超次元怪死事件です!』

「今見たよぉ俺らが一番近くにいるからすぐに向かう!」

風雅はすぐにバイクを呼び出し、凱を後ろに乗せて現場へ急行する。

バイクを走らせて急行している時だった。

道路の上を何かがピョンピョン飛び跳ねていた。

「あぁ?」

「人が…跳ねている…?」

その飛び跳ねている人らしき物は徐々にこちらへと近づいてるように見えた。

嫌な予感がした凱は大剣を引き抜いて備えた。

その時だ、その跳躍している人型から衝撃波のような物が放たれた。

「間違いないアイツが43号だ!」

「しゃー任せろ!!」

凱は大剣を傾け、攻撃に備えたが43号は一度止まって再度脚に力を溜め込んで風雅たちの駆るバイクを軽々と飛び越えた。

「なっ!」

43号はそのまま町中へと走り去っていった。

「なるほど“お前らなんて眼中にないぜ”ってわざとアピールしたのか。」

「ふざけやがって…追うぞ兄弟!」

おちょくられて頭にきた凱は半ば命令口調で風雅は町中までバイクを走らせた。


再度43号まで追いつくことが出来た。

「奴はジャンプ力は高いが俺が前戦ったチーター野郎よりは遅いな!」

次に43号は道路に衝撃波を放ち、風雅たちの乗るバイクをはじき倒した。

「何だよ最強の妖狩エージェントだって聞いたのにこのザマかよ!」

43号は倒れた風雅たちの前で大きなジェスチャーをとり2人を挑発した。

「野郎…下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」

「どうする…ヒカルたちに任せるか?」

凱はまだ未来あるヒカルたちに戦わせるのはあまり良い気がしなかった。それもあって龍我と衝突した。

「俺らでやるぞ兄弟!」

(凱はあぁ言ってるがこいつの能力は俺たちじゃ処理しきれない…あそこまで高く飛べる身体能力もない…)


       ー「跳躍(The Jump)」ー


自身の脚をバッタのように発達させ、その筋力で高く飛び上がったり、キックを繰り出す能力。


案の定43号は得意のジャンプ攻撃で凱たちを翻弄し、防護服が若干凹んだ。

(嘘だろ…このキックで俺の身体が…!)

そして43号は突然攻撃をやめた。

「俺のお仲間が来たようだ…」

風雅たちが振り向くとそこにいたのは白い制服を着た5人の男たち。

「何だこいつら…」

「あ?何済ました顔してんだコラ!」

凱が1人の男に向かってメンチを切った瞬間、男は無言で凱の胸に正拳突きを食らわせた。

その威力はどんな妖よりもすさまじく、凱は吐血しながら吹っ飛んで行った。

「凱!」

「何だこいつら…人間のくせに霊力だけ高いぜ…」


43号はパンパンと手を叩きながら男たちの前に歩いていき、風雅たちに見せつけた。

「俺のボディガード。“財団”からの支援さ!」

「また財団…一体てめぇら何者だ!」

“財団”から来たという謎の白服たちは皆機械のように無表情。1人がスーツケースがもっており、風雅たちの目の前で43号はクリスマスプレゼントをもらった子供のように高揚し、ケースを開けた。

「おーーこれだよこれぇ!」

43号が取り出したのはかつて鉄球使いの40号が使っていた注射器と同じ物。中には紫色の液体が入っており、それを躊躇せずに自らの首に刺した。


「ドーピングか!」

「これを入れるとよぉすっごく強くなるんだ!てめぇらが戦った鉄球野郎とは違う!俺はやつらよりも強いLEVEL2へと至ったのだ!実験台としててめぇらでこの力を試す…光栄に思えぇぇ!!」

43号は一度大ジャンプし、落ちる寸前につま先を出して落下した瞬間に道路のコンクリートが巡り上がり車が2人めがけて飛んできた。

「くそ、『玄武』出そうにも間に合わねぇ!」

凱は風雅の前に出て大剣で車をガードしようとした。


          「はっ!!」


何者かが横からのキックを入れて、車を吹き飛ばした。

幸い住民は皆避難していたので、クリーニング屋に車が衝突しても被害者はいなかった。

「誰だ…」

「あれれー?何てザマだろ凱くん。オレに助けられるなんて…」

「て、てめぇ!」

「君は優しさで止めてくれた思うけどそれは無理な話だ…だってさ、オレにも戦う理由くらいあるんだよね…!」

先程まで優しげな声だったが、43号と白服の男たちを目に入れた瞬間から覇気のあるやる気に満ち満ちた声になった。

43号に指を差し宣言する。

「オレの目的は自分より強い奴らと戦い、最強の武道家となること…そしてお前たちみたいなドブカスの集まりを一人残らずぶっ倒し、みんなの笑顔を守ることだ!!」

龍我の宣言を聞いた凱は一瞬にして引き込まれた。戦闘好きという自分と同じ点を除けば、風雅の妖としての矜持と同じだったのだ。


「風雅先輩、心配かもしれないけどオレの戦うところ見ててくれませんか?」

「見届けるさ。思う存分暴れてこい!」

風雅からの了承を得て、龍我の霊力がどんどんと上がっていく。腕に着けたリストバンドを脳波で起動。

全身は特殊防護服に覆われ、そのデザインは中華服。

今から戦うぞと意気込んだ時、白服の一人が服の中から拳銃を取り出した。

「あいつ汚ぇぞ!」

「君と初めて意見が一致したね。オレもあぁいうやつ大嫌いだ…!」

拳銃を発砲、弾丸が龍我に向かって放たれた。


          「“明鏡止水”」


龍我が手を広げると水の球が手の平に出現。飛んできた弾丸をその水の球で絡め取り、その手を下げて地面に弾丸をいなした。

さらに残りの4人の白服も拳銃を取り出し次々と発砲した。

「“明鏡止水”!」

さらに四発の弾丸も見事いなし、残った水の球を弾丸にし、白服の一人の頭に穴を開けて殺害、灰化消滅した。


       ー「“流水(The Stream)”」ー


自身の体内を“川”にすることで霊力を流水に変換し、身体能力、術式能力を高める。さらに空気中の霊子を水に変換することもできる。


「これがオレの能力です。水の流れを制御し、相手にぶつけることも可能です!」

「成長したな龍我!あの頃は水の球も作れなかったのに。」

「このガキぃ!」

43号は突然激昂し、龍我を抱え飛び上がった。

「龍我!!」

「おい、兄弟俺たちはこいつらを片付けるぞ!ほんとにアイツを信じてるなら勝つことを信じてやれ!」

凱のその一言で気を取り直し、残りの四人を相手取る。


 一方の龍我は空中を移動している途中に、柔らかい体を駆使して背中に蹴りを入れ43号は宙で龍我を離した。

落ちた先は鉄塔の足元。龍我は軽い身のこなしで地面に無傷で着地。対して43号は鉄塔の足場に着地した。

「ここでてめぇを殺してやる!上まで上がって来いよぉ!」

龍我はウォーミングアップをし、助走をつけて飛び上がった。

既のところで足場に手をついたが、不適な笑みを浮かべた43号に手をグリグリと踏まれ、力尽きて地面に落ちた。

さらに追い打ちをかけるようにわざわざ地面まで降りて龍我を一方的に蹴り続けた。

「調子に乗りやがって!何が強い奴と戦いたいだ!何が最強の武道家だぁ!ガキは帰って寝てやがれぇ。」

「!ドーピングするような卑怯者に絶対に言われたくないね!」

龍我はお返しと言わんばかりに蹴りを繰り出し43号の顎を強打。得意の戦闘スタイル・拳法を駆使し、腹、顔、腕、ももと攻撃し、さらに術式を加えて流水で押し流す。

「くそ!」

43号は逃げるように鉄塔の足場に飛び上がる。

(やつの跳躍力じゃココまでは来れねぇ!)

と考えていたのも束の間だ。


「凱、今後の参考までに龍我の恐ろしい所を話しておこう。」

とニヤニヤしながら白服を倒した凱に話しかけた。

「何だよ、恐ろしい所って…」

「それはねぇ…」


龍我は滝を登る鯉が龍になるように戦闘の中で成長する


そう、龍我は成長の段階にあるのだ。その証拠に龍我は先程届かなかった鉄塔の足場に登っていた。

「何!?」

「何でか知らないけど登れたよ…はっ!!」


「末恐ろしいガキだぜ…」「だろ?」


だが、成長はあくまで一時的なもので同じ修行を繰り返さなければ身につかないという欠点がある。

43号の反撃を受け、足場に倒れてしまった。43号はその隙を狙って、さらにその先の高さの足場にまで登っていってしまった。

「ここまでこればもう来れねぇはずだ…」


龍我は仰向けでもう諦めたような顔になって43号がいる上の足場を見ていた。

(あーー良いなぁ…アイツはあんなに高くまで飛べてさぁ…あっバッタだからか。オレもあんな高く飛びたいなーーーー!!)

と願った瞬間、突如龍我の頭の中に設計図が作られた。

“高く飛ぶためのプロセス”と名付けられた設計図の通りに体を起こして霊力を最大限高めた。

その異変を43号は感じ取り、冷や汗をかいた。

「ココから逃げなきゃ!」そう思い鉄塔の上まで飛び上がった頃にはもう遅い。


          「“龍飛翔”!!」


龍我は水の竜巻を纏って飛び上がり、拳を構えた。さながら滝を登る龍のようであった。

その威力に圧倒された43号は龍我の新技“龍飛翔”に声を出す間もなく飲み込まれ、空中で灰化消滅した。

水の龍は天に昇り、後に消滅。力尽きた龍我は二段目の足場にたたきつけられた。

「あー…もう動けねぇ…でも…すっごく気持ちいい。」


無事事件は解決。しかし、肝心な“財団”と注射器に入った謎の液体の正体は分からずじまい。この件は次回にも続くのだ。  

                EPISODE22「飛蝗」完

 

           次回「青龍」

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