元ネトゲ廃人の俺がVRMMOを始めましたが、全く付いて行けませんでした……
ついにこの時代がやってきた。
今日この日、世界初のフルダイブMMOがリリースされたのだ。
20年前の俺はMMOにドハマリし、昼夜逆転の生活を送っていた。
いわゆるネトゲ廃人ってやつだ。
これから始めるVRMMOは全く新しいゲームだが、MMOの経験者ならば効率的な狩り、金策は熟知している。
どんなに斬新な仕様になろうと、MMOなのだからネトゲ廃人として培ったノウハウは生かせる。
特に金策に関しては俺の得意分野だ。
金策は熟練プレイヤー同士でも得意不得意が鮮明に現れた。
だからこそ楽しかった。
そんな思い出がよみがえる。
今日12:00からリリースされるVRMMO─THE HUNTER─は古き良きMMOの特徴を受け継いだと謳われている作品だ。
だからこそ、俺は楽しみでたまらなかった。
そして、ついにその瞬間がやってきた──はずだった。
【ダウンロード0% 完了推定時間残り35分】
事前ダウンロードを終えていたのに、さらに長時間のダウンロードが必要で水を差された気分だ。
まあ、誰だって同じだろう。
気を取り直して始めよう。
俺はダウンロードを終えると、ゲームを開始した。
まずは名前とアバターを決めるところからだ。
体格はフルダイブMMOの仕様上、あまり露骨に変えられなかったが、肌の色や顔立ちは自由に変えられた。
性別はプレイヤーデータに基づき固定されているが、衣装やメイクは自由に選べた。
要は女装子体験までなら、VR上で容易に楽しむことができる。
これだけでもTHE HUNTERは十分楽しめる。
さて、いよいよゲーム開始だ。
「ようこそ、THE HUNTERへ。新たに異世界から召喚されたハンター様ですね。あちらのハンターギルドで手続きをお願いします」
「分かった」
俺はNPCのガイドに思わず返事をしてしまうが、何も反応しなかった。
20歳前後の綺麗な女性のガイドだったが、コミュニケーション機能は備わっていないようだ。
せっかくの美人NPCなのにもったいない。
ガイドの指示に従い、手続きへと向かう。
しかし、手続きへ向かうまでの道のりを歩きながらこう感じずにはいられなかった。
「遠すぎない?」
ゲームを始めたばかりなら、街を広く感じるのはよくあることだ。
それにワープ機能がまだ解放されていないせいだろう。
俺はそう自分に言い聞かせて、ハンターギルドまで歩くことにした。
俺は地味に遠い手続き場所に戸惑いを覚えながらもなんとかハンターギルドへ辿り着いた。
手続き自体はそんなに面倒ではない。
それにここは役所みたいな場所ではなく、THE HUNTERの仕様を動画で学ぶチュートリアルだ。
その内容は武器や防具は装備しなければ意味がないといった基本的なことから、初心者向けの行動マニュアルと幅が広い。
初心者マニュアルでは最初に優先すべきことのリストが提示され、その理由まできちんと明記されていた。
「さっそく生産レベルを上げたいところだが、まずはプレイヤーレベルからだな」
生産には当然素材が必要だ。
そのうちバザーで買って生産し、出品するサイクルとなるが、その地盤を築くには自分で狩りをして稼げるようにならないといけない。
これはどんなMMOでも基本は同じだ。
それにこれはVRMMOだ。
自分の体を動かしてモンスターを狩る体験をしないのはもったいない。
***
俺は街を出てモンスターのいるフィールドへと出た。
だが、ガイドがいた場所からハンターギルドまでが遠かったように、街の外へ出るのも一苦労だった。
街が広すぎる。
そのせいでもうクタクタだ。
HPやMPといったゲームステータスに支障は出ていない。
単純にリアルの体力が足りてないようだ。
***
フィールドを歩いていると、モンスターが現れた。
犬型のモンスターで、表示されている名前はザッコイヌだ。
初心者向けの敵として分かりやすいが、雑なネーミングに思わず笑ってしまった。
がぶっ!
「痛くないな……」
俺はザッコイヌに先制攻撃を受けてダメージを負うが、軽い刺激を受けたくらいで痛みは感じなかった。
被弾時の痛みは過度にリアリティを追求せずに、遊びやすさを優先した配慮に安心した。
だが……
「いった!」
痛みを感じたのはザッコイヌを攻撃したときだ。
俺は鞭を武器に選んだが、その鞭を振るうときに肩を痛めたのだ。
普段使わない筋肉を使ったとはいえ、最弱の敵一匹倒すだけでこれとは先が思いやられる。
「せめてログアウトする前に1レベルくらいは……」
体が悲鳴を上げているが、せっかくリリース初日にスタートダッシュをしたんだから、最低でも1レベルは上げておきたい。
表示されている経験値バーを見ると、ザッコイヌをあと四匹狩ればレベルが上がる。
「よし、あと四匹だ」
俺はその後、ザッコイヌを三匹狩ったところで、新しいモンスターが現れた。
蜂の見た目をしており、名前はセブンと表示されていた。
名前の由来は蜂の『ハチ(8)』より弱いから、セブン(7)としたのだろう。
大きさは実際の蜂よりも遥かに大きく、攻撃を当てることは難しくない。
ぶううううん!
「うおっ!」
セブンのリアルな蜂の羽音に、俺は体を捻った。
そのせいで筋肉の痛みがさらに増した。
「いってぇだろうが!」
俺はセブンから受けた痛みではなく、筋肉の痛みに対する苛立ちをセブンにぶつけて鞭を振るった。
セブンはザッコイヌよりも体力が少なく一撃で倒せたが、鞭を高く振るったせいで、筋肉がさらに悲鳴を上げた。
ピイイイーーン!
どうやらレベルが上がったようだ。
新たなクエストが受注可能となり、一部機能も解放されたようだが、体力はとっくに限界でそれどころじゃない。
俺はTHE HUNTERをログアウトすると、風呂も入らずベッドに倒れ込んだ。
***
翌日、俺は目を覚ましたが、続きをプレイしようとする気すら起きなかった。
全身筋肉痛で、昨日の比ではない痛みに襲われたからだ。
長年の引きこもり生活で、体力がないことくらい分かっていた。
しかし、ここまで体力不足が理由でTHE HUNTERをまともにプレイできなくなるとは思っていなかった。
体がまともに動かない俺は、仕方なくスマホを開き、THE HUNTERの話題に目を向けた。
すると、SNSでは現在のトッププレイヤーが話題になっていた。
「おい、こいつって……」
その人物を俺は知っていた。
彼は昨年のオリンピック陸上の金メダリストだ。
話題になっていた上位プレイヤーは他にも何人かいた。
元自衛隊、建築業者、筋トレ愛好家と、いずれも体力自慢の人ばかりだ。
しかもそんな彼らが「THE HUNTERは面白いけど、すっごい体力が必要」と口にしていた。
「俺じゃついていけねーよ……」
運動どころか外出さえろくにしない俺の体力では、トッププレイヤーどころかガチ勢の仲間入りすらできない。
「アスリートか……」
昔のMMOと違い、THE HUNTERのガチ勢はネトゲ廃人と呼ばれていなかった。
そう、彼らガチ勢に与えられた呼称は『アスリート』だった。




