カオス電車
コノハ、カリン、テンリ、めえの女の子四人は休日に遠出することになった。みんなで一緒に海に遊びに行こうという話になったのである。特急を使えばすぐに海まで行けるのだが、四人とも今は金欠気味なため、早朝の電車に乗り、えっちらおっちら鈍行で向かうことにした。四人は電車の扉の前に立って、和気藹々と話を弾ませている。
「海海海ー。コノハ、泳ぎの勝負やで」
「ええで、カリン。臨むところや」
「こらこら、二人とも。せっかくの海やのに、勝負はやめーや」
「うふふ。めえも参戦しようかなぁ~」
早朝で人が少なく、イスに座っても良かったのだが、横一列に並んでガールズトークをするのもどうかと思ったので、四人は扉の前で景色を見ながら話を弾ませた。
しばらくして都会の駅に着いた時、通勤ラッシュの時間帯なのか、大勢の人が乗り込んできた。
「わー! みんな近くにおるか?」
「うちはここや!」
「めえ、ここぉ~!」
「わたしはここ!」
みんな手を挙げる。少しバラけてしまったようだ。
「みんな降りる駅はわかってるやんな? わからんかったら、私んとこに来てや!」
コノハが聞くと、三人はコノハ任せだったので降りる場所を知らないと言う。三人は満員電車の中をコソコソとコノハの方に向かって移動する事に決めた。
「ふにゅ~」
めえは人混みの中を進む。できるだけ他の人と体を触れ合わないようにしたいところなのだが、この満員電車の中でそれは不可能な話。腕を胸の前に持っていき、微妙な人の隙間をコソコソ移動……
「わーあー!」
しかし、電車が急カーブに差し掛かったところで人の波が大きく揺れる。めえは四方八方からおしくらまんじゅうされ、体中が刺激された。
「うぅー、ムズムズしてきたよぉー」
今日はまだ一回もフェネックに変身していない。変身体質の体は変化を求めている。
「でも、ここで変身したらコノハに怒られるぅー。うー……」
しかし、体のムズムズは止まらない。
「しっぽだけ……他の人にバレないようにならいいよね?」
めえは自分自身に問いかけて合意を得た。
「ぁぅ……」
少しパンツをズラし、スカートの中で他人に気付かれない程度にしっぽを生やす。
「ふぅ~。少しはマシに……って、やーん!」
再び電車が大きく揺れる。再びめえはおしくらまんじゅうされた。生えかけの敏感なしっぽは刺激され、一気に動物化が進んだ。手の内に肉球ができ、顔が少し前に突き出る。
「こ、これはヤバいぞぉ……」
めえは目的の駅に着くまで変身を抑えきれる自信が無かった。
その頃、テンリもイソイソと人混みの中を進んでいた。
「まさか通勤ラッシュに巻き込まれるとは予想外や……」
テンリは変に他人に触れないように頭を下に向けて移動する。
「きゃぁっ!」
その時、電車が大きく揺れ、テンリは多くの人とぶつかってしまった。
「……ヤバっ」
テンリはぶつかった人に異常が起きていないか確認したが、どうも問題は無いようだった。
「わたしは、満員電車にはできれば乗りたくないわぁー」
ホッとしたのも束の間、再び電車が大きく揺れる。
「んぐっ……!」
テンリは口を目の前の男性にぶつけてしまった。
「やっちまったで……」
テンリは男性の首元を観察する。すると、わさわさとクリーム色の毛が生えてきた。
「……」
男性は体が痒いのか、ボリボリと首元を掻く……そして、異常に気付いた様子でビックリして大声を出した。
「なっ、何だこれぇ!」
さらに、男性を見ると、耳が伸びてきていた。
しかしその時、再び電車が揺れ、その声は一瞬で掻き消された。
「うぐっ……!」
テンリは電車の揺れにより、再び他人の背中に口をぶつけてしまった。今度は中学生くらいの女の子だった。髪の毛が白い毛に変化していく……
「……あかん。もう逃げよ」
テンリは自分の口が触れた相手を見ていられず、顔を下げてコノハの方に向かった。
その頃、カリンも人混みの間をコノハの声がした方に向かっていた。
「う~、みんな邪魔やわー」
一人、ボソッと危険なことを口走る。
「ここはオオカミにでもTFしてみんな撒き散らしたったらええねん」
しかし、現実でそれをしてはいけないことはわかっている。移動する中で他人と触れ、思わず体がビクンビクンと疼くが、変化しようとする体を我慢する。
「コノハ、コノハ……どこやー?」
カリンが満員電車の中を移動していたその時、電車が大きく揺れる。
「わはーっ!」
カリンがたまたまいる場所は周りにゴツイ男だらけだった。ぎゅうぎゅうと体がもみくちゃにされる。ちょっと痛くてカリンに怒りが芽生えた。
「もぉー、何や!」
怒りに身を任せると腕が太くなり、爪が鋭くなった。歯が伸びて牙となる。体の中でケモノの意識が覚醒する。
「うわぁっ!」
再び電車の揺れでゴツイ男性に挟まれる。カリンの怒りは頂点に達し、体はだんだんオオカミのようになってきた……
「あぎゃぁっ!」
三度、電車の大きな揺れ。そして例外無く、ゴツイ男性にサンドイッチされる。カリンはますます怒り、目に見えて人の形態じゃなくなった。
しかし、電車は揺れの激しいコースに入ったのか、左へ右へと人が揺れる。カリンは揺れが収まるたびに怒りに身を任せて動物化していった。
その頃、コノハは一人、電車の窓から景色を眺めていた。都会の風景が続くが、時折、遠くに海が見える。海が見えるとテンションが高くなった。
「思いっきり泳ぐでー!」
せっかく海に来たのだから、アザラシやイルカなどの海獣類に変身してみるのもいいかもしれない。
コノハが気分を良くしていたその時、大きく電車が揺れた。
「きゃっ!」
さっきから何回も電車が揺れるが、人がぶつかってくるこれは慣れない。そして、どうもそのタイミングに合わせてお尻を誰かに触られているような気がするのだ。
「!」
確信した。今回も誰かがお尻を触っている。もみもみとされた。
「許さへんでー!」
コノハはパンツを少しずらし、サルのしっぽを生やした。部分的な動物化はむずかしいが、これで次にお尻を触った時に痴漢を掴もうと思ったのだ。
そして、望んでいたように電車が大きく揺れる。コノハはしっぽに意識を集中した。
「!」
お尻を触られた! コノハは瞬時にしっぽを絡ませて力を入れて絞る。
「イタタタッ」
男の声がした。犯人はエロおやじか?
その時、ちょうどいいタイミングで電車が止まった。大勢の人が電車から降りて行く。すると、コノハは誰がお尻を触っていたのか振り返って確かめた。
「おじさん、もう逃げられへんで……って、あれ?」
コノハがしっぽで掴んでいる相手はおじさんでは無く……若い男性だった。しかもイケメン。
「……」
コノハは予想と違っていて少し動揺した。結構、好みのタイプだったりする。電車の痴漢行為から始まるラブストーリーもあながちないわけではない。
コノハがしっぽの力を緩めようとしたその時、テンリ、カリン、めえの声がした。
「「「コノハ!」」」
声のした方を見ると、人が減ったことで、車内の混沌とした様子が浮き彫りなった。まず、めえは体が半分くらいに縮み、左手と右足に人の部分を残して後はフェネック化している。テンリは周りをウサギ化させてしまい混乱した人たちの中で苦笑いしている。カリンはオオカミ女となり、服はボロボロ。
「うわあぁぁぁっ……――」
コノハがしっぽで掴んでいたイケメンはこの光景を見て気絶。せっかくの旅行。波瀾万丈の予感しかしなかった。