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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

建国記に隠れた裏話   〜確か私は冴えない女ですが………         

作者: リンゴ

初投稿です。

非常にお粗末な文章のため、あたたかい心で見守って頂けると幸いです。




―夢があった。

人からすれば夢とも言わないかもしれない、小さな夢。

それでも私にとってはずっと憧れていた、かけがえのない夢。


今、そんな小さな夢が崩れ落ちる音がする。

崩壊が迫ってくる。


私の腕の中で、今、最愛の男が息を引き取った。

あっけない最後だった。

重体の知らせを聞き、駆けつけた時には既に意識もなく、ただ命の火が尽きる、その瞬間を看取るしかなかった。

涙も出ない。


国王の命で戦場に赴き、戦い、死んだ。


「馬鹿な男」


立派に戦う必要などなかった。

ただ無事に戻ってくれれば私は十分だったのに……








とある子爵家の長子。

私を表す言葉は、世間一般から見てこの一言で十分だろう。

とりたてて美しいわけでもなく、知性があるわけでもない。

舞踏会に呼ばれても、流行遅れの地味なドレスを着て、喋るでもなく踊るのでもなく、ただそこに立っている。

要するに壁の花というやつだ。

毒にも薬にもならない、冴えない貴族令嬢。


実の父親にも愛されず、義母からは罵詈雑言を浴びせられ、異母弟からはまるでゴミをみるような視線を浴びて育った環境をみれば致し方ないと言えよう。


だがそんな話は貴族社会では特段珍しいことでもない。


そのため私はものごころがつくあたりには、家族から愛を求めることを諦めた。

 

家を継ぐのは異母弟と決められたため(本来は父は入婿のため、私が相続するのが正しい)学園卒業後は家から追い出すと宣言された。

そのため女官へ就職し、自立する予定を立て、学園に入学した。


そこで出会ったのが彼だった。


彼は冴えない男だった。

伯爵家の次男で当主のスペアとして育てられた為か、いつも自信がなく、周囲の顔色を伺っていた。

騎士になると聞いた時は驚いたものだ。

こんなヒョロガリで自分の意見も言えない男が騎士になれるとは到底思えなかった。



傍から見たらなぜその男を選んだのかと思われるだろう。

取り柄など1つもない、不器用な男だからそう思われるのは当たり前だと思う。

私自身、彼の好きなところを聞かれても答えられる自信などない。

呆れたものだ。


……でも、彼は愛してくれた。


実の父にいないものとして扱われてきた私を。


義母の八つ当たりに使われ続けた私を。


異母弟に、出来損ないとして見られてきた私を。


周囲から何の関心を持たれない私を。


私自身が愛せない私を……




彼は、愛してくれたのだ。

それだけで、私は十分だった。


私は彼を愛した。

心の底から深く、深く愛した。

初めて夢を持ったのだ。

彼と家族になる夢を。

子どもを生んで、私が愛を知らない分、目一杯に愛を注いで育てたかった。

あたたかい家庭を夢見たのだ。


些細な夢だったはずだった。

それなのに今、その夢は失われた。


もう二度と、私を愛してくれる人は現れないだろう。

私が愛したいと思う人も、一生現れないだろう…






―――――


彼が死んで1年が経った。

今、私は彼の墓の前に立っている。


いまだに戦争は終わらない。

勝てるはずがないことはいまや平民にも分かりきっている。

それでもわが国の王は次々に兵を戦場に送り込み、被害を広げている。


彼が死んだのもこの戦争の序章に過ぎないのだろう。

戦死者は増える一方である。

そのうちここ、王都も戦場となるだろう。

もうこの国に平穏と呼べる場所はなく、道を歩けば民は悲しみと不安に満ちた顔を浮かべている。



「報告に来たの」



花を供えながらそう呟く。



「この国を壊すわ」



彼が好きだった青のデイジーはまだ蕾だが、明日には開きそうだ。



「この戦争は終結させる」



どこかで兵士たちは今日も戦っているのに、空は皮肉なほど青く晴れ渡っている。




彼の死によりこの国を壊すことを決めてから1年間、緻密に計画を練り上げた。


最初に子爵家の当主の座を奪い取った。

本来子爵家の正当な継承者が私なのは間違いないので、非常に簡単だった。


次に協力者を探した。

愚王の政権に疑問を感じている人間は多い。

そのためかすぐに適任な人物たちを見つけた。


そして、民に不安をまいた。

別に嘘を広めた訳では無い。

制限されていた戦況を噂として流しただけだ。

少し盛ったのは事実だが……


まぁとにかく既に下準備は整った。

後は今の王に不安を覚えている民を扇動すればいい。


他にも色々細工をした。

失敗はない。




きっと誰もが私が国を壊すなどできないと思っているだろう?


事実、私は知性もなく冴えない女だと今まで認知されてきた。

今もそうだろう。

確かに冴えない女なのは事実。

でも知性がないとは不本意だと思う。

ただ、幼い頃、家庭教師に天才だと褒められる度、義母にムチで叩かれた。

それ以降、異母弟よりも低い点数を取るようにしていた。

それだけだ。


もう隠す必要はないが、おそらく私は天才と呼ばれる部類なのだろう。

解けない問題に出会ったことなどない。


国を壊すことも同じことだ。


彼が死んだ今、私が守りたいと思うものなど何もない。


この国を壊そう―



―「ごめんなさい」


私がもっと早く動けば彼は死ななくて良かったかもしれない。

でもきっと彼が生きていれば、私は一生何も行動することはなかっただろう。



「待ってて」



花を供え終え、立ち上がる。






実行するなら彼の喪が明ける今日と決めていた。


協力者たちが待つ場所へ急ぐ。


もう後戻りはできない。


後悔はない。







―――



結論から言おう。


国は滅んだ。

いとも簡単に。


こんなものかと思う。



愚王は最後まで泣き叫んで、酷く醜かった。


こんなクズのために彼が死んだことを考えると、無性に腹が立った。


あの場にいた協力者たちも同じような思いだろう。



扇動した民が城を叩き壊し、愚王に加担した人間たちをひっ捕らえ、牢獄にぶち込み、即座に戦争も終結させた。


あいつらはもう二度と日の目を浴びることはないだろう。




クーデターが成功した今、私の協力者の中で一番身分の高かった公爵家の嫡男を王とし、新たな国を建国した。



城も壊れ、貴族たちへの信頼は滅びたが、愚王を倒し、戦争を終結させた英雄として、新たな王は民から慕われている。


身分差も感じさせず、公平で、おおらかに民に接するあの人間は良い王になるだろう。

しかも美形だ。こころの中で女たらしと呼んでいる。


あの王が治める国は、良い国になるだろう。




私といえば、国も滅ぼし、やることもなくなった。



公爵家の嫡男、いわば新たな王からは王妃として支えてくれと頼まれたが、即座に断った。


他の協力者たちからも、散々誘われたが拒否した。


しかし彼らはめげなかった。

クーデターに協力するような奴らのため、非常に諦めが悪くしつこい。

来る日も来る日も私の説得に励んだ。


流石に無言で誓約書に血判を押させようとした時は焦った。


しまいには他の協力者たちからも結婚を申し込まれた。



ある意味恐怖を感じ、これ以上続ければ死ぬと言ったため、その後は大人しく引き下がった。

本当にしつこかった。





その後、私は新たな王から伯爵の爵位をもぎとり、彼とは少し年の離れた彼の弟を養子として迎えた。


数年後、ある程度後継者としての教育が終了するとすぐに、伯爵位を譲り、隠居生活を始めた。



隠居生活をするための、それほど大きくもない家を建て、その近くに彼の墓を移した。

彼の両親は快く許してくれたことには驚いたが、非常に感謝している。






時折協力者たちから泣きつかれることもあるが、それ以外は至って平穏に暮らしている。


むしろ彼の墓参り以外特にすることもなく、暇を持て余している状態だ。

非常に喜ばしい。







―数十年後、次第に新たな国は平和の象徴とまで呼ばれるまでに大きく発展した。

新たな王は、もう新たな王と呼べるような存在ではなくなり、今日もこの国の発展を目指して苦心している。


恐らく歴史書には、あの王は賢王として称されるだろう。



私は今日も変わらず、彼の墓に通い続ける。










―数百年後、ある平和な国の伯爵領では、小高い丘の上に2つの小さな墓がひっそりと並んでいた。



誰も名も知らぬ墓だが、時折伯爵家の者や、王家に連なる者たちが訪れ、花を手向ける。


皆一様に青色のデイジーを供えるため、いつしか丘はデイジーの花畑となり、幻想的な光景を作り出すようになった。




領民からは不思議な墓として認識され、今日も青色のデイジーが咲き渡る。





―まさか、この国の建国に大きく貢献し、発展に身を投じた人物の墓だとは夢にも思ってもいないだろう―
















最後まで読んで頂きありがとうございます(^^).

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