元王女様の死のダンス
「これよりエリザ元王女の処刑を執りおこなう!」
兵士の大声が処刑場に響くと見守っていた国民たちがわっと沸いた。
ご招待を受けた私たち貴族の令嬢は仕方なく最前列で見守っていた。
仕方なくよ?
隣の伯爵令嬢が口元で扇子を広げているのは決して笑いを隠しているからではない。
元王女は処刑台の真ん中で両膝をついてうなだれていた。
お隣には既に絞首刑になった元国王夫妻がぶら下がっていた。
他人のものを何でも欲しがる家族だった。
元国王が欲しがったものは金。
元王妃が欲しがったものは宝石と美術品。
そして元王女が欲しがったものは男だった。
でもただのイケメンでは反応しない。
それが誰かのものになった瞬間、つまり誰かの婚約者になった瞬間どうしようもなく欲しくなるのだ。
なよなよっとした演技は上手かったので男受けは良かった。
私の元婚約者も婚約した一週間後には元王女のベッドにいた。
あーあ、何であんなのと婚約しちゃったんだろう、一年前の私。
国王一家の横暴に耐えかねた貴族たちはとうとう反乱を起こした。
公明正大で知られた王弟殿下を旗頭にして貴族連合が蜂起すると、その勢いに恐れをなした国王軍は戦うことなく瓦解。
無血で入場した反乱軍──今ではこちらが国王軍ね。新国王軍は国王一家を難なく捕縛した。
そして今に至るというわけだ。
処刑台の上の元王女は髪も化粧もグチャグチャだ。
なんでも昨日処刑が決まってからというもの一晩中兵士たちの慰みものになっていたそうだ。
まあ、これまで何人もの男たちをくわえこんできた王女様だ。
その数が今さら五十人や百人増えたところでたいして変わらないだろう。
一応服は着せてもらっているけど、下着をつけてないのが女の目には丸わかりだ。
男性には外せてもつけられなかったのでしょうね。
処刑台に乗せられた時にはもう元気のなかった元王女は元国王が処刑されてからは自分の足で立てなくなっていた。
元国王は言ったものだ──
「余の国を乗っ取るつもりか、この盗人どもめ!」
ところが横から兵士が言ったのだ。
「奪われる者の気持ちがわかりましたか?」
これには満場の国民たちも拍手喝采、愕然とした国王は直後に処刑された。
元王女の首にロープがかけられた。
元王女はまだ呆然としている。
ゆっくりとロープが巻き上げられた。
ロープを引っ張る男たちの手つきは機械的で、ただ淡々と、ロープは一定の速度で巻き上げられてゆく。
元王女は苦しそうに顔を歪めた。
座っていられなくなった元王女の膝が浮いた。
慌てて自分の足で立とうとして足を踏み外して、また首を引っ張られて苦しそうに立った。
かかとで、それからつま先で、体重を支えようと四苦八苦している。
私は口元を押さえて目を伏せた。
だって笑い出しちゃいそうだったんだもの。
元王女ったらまるで踊ってるみたいで本当に滑稽だった。
ここにいるのが私一人ならおなかを抱えて大笑いしてるけど、さすがに他人には見せられない。
周囲の令嬢たちも同じことをしているのが気配でわかった。
みんな同じ気持ちだよね。
とうとうつま先が浮いた。
首だけで体重を支えることになった元王女は目を見開いて、歯を食いしばって、顔を真っ赤にして、まるでお猿さんみたいだった。
何て言ったかしらこういうの、確か猿回し?
元王女の足がジタバタと宙をかく。
最初は激しく、だんだんのろのろと力なく……。
その時元王女の首がクッと伸びた。
顎が落ちて目は白目。
全身が力を失ってだらんとぶら下がった。
スカートの中から液体と固形物がボトボト落ちてきてツンとした臭気を漂わせて、私たちは眉をひそめた。
最後までシモの緩い人だった。
元王女が完全に動きを止めたのを見届けた私は隣にいる新しい婚約者に抱き着いて、そのたくましい胸に顔を伏せた。
だって笑い出しちゃいそうだったし。
はた目には恐怖で震えているように見えるかな?
周りの令嬢たちも同じことをしているのが気配でわかる。
私たちはそろって新しい婚約者を見つけていた。
だって元王女のお古なんて嫌だもの。
新しい酒は新しい革袋に、っていうし。生まれ変わった王国を一緒に過ごすのは新しい婚約者がいい。
今度の婚約者は私だけを愛してくれる素晴らしい男性だ。
元王女なんかに誘われてホイホイついていった愚かな男たちのリストは令嬢たちの間で共有されている。
彼らが身分のある女性と結婚できることは永久にないだろう。
元王女たちの死体はそれから三日間吊るしっぱなしで町の子供たちの石当てゲームの的になっていた。
それから河に投げ捨てられて、どこかへ流れて行っておしまいになった。