雨が降っていますね。
5分で読めます。いや、そんなかからないかも?
あの日、何かが。いや、誰かが。この地球を食べてしまった。
かまれず一呑みにされてしまったことが幸いで、私たちはいまだ地上でのうのうと生きている。
だからであろうか。誰も異変に気づかない。誰かが地球を飲み込む前と後で何が変わったかと言えば、少し気温が上昇し、空が曇り、雨が降り続いている程度なのだ。私たちには何の問題もない。ニュースもXもだれもこの事実を伝えてはくれない。それなのに、私が誰かが地球を食べてしまったなどと言うのには理由がある。
それは、ある夜のこと。誰もが眠りについた夜があった。あたりは異様に静まりかえり、繁華街すら言葉を失った。それは、夜というには短すぎる、一瞬の出来事だったのかもしれない。そんななか、ただ一人、私は目を覚ました。そして、寝室の窓を開けた。ぴりとした冷たい空気が、まだ暖かい私をくるんと包んだ。まだ今は夜が冷い時期だった。
そうして妙に大きくて明るい月を眺めた。
「今日ってスーパームーンかなんかだったかな」
その日はとても丸くて明るいぽってりとした月が出ていた。寝ぼけ眼で、澄み切った空気を吸うと、すこしだけ脳が冴えてきた。妙だ。
月が一瞬点滅した気がした。いや、点滅などではない。数秒間消えて、また現れたのだ。そんな馬鹿な。
私は不思議な気持ちになって、ふと、反対側にある窓に駆け寄った。
「あ」
そこには、見慣れた小さい三日月があった。
ならばあれは何だ。
私は少しおそろしかった。恐る恐る冷たい空気ではためくカーテンの方を見た。ひらひらと風にあおられるカーテンは、私にその光景を見せようとでもいうのか、両脇にはけた。
月らしきものはまた消え、下からその金色の丸がするすると形作られる。
私はそれを見て、気づいた。あれはおそろしく大きな何かの目だ。誰かの、金色の目なのだ。パチパチと瞬きを繰りかえして、それは私を不思議そうな丸い目で見た。
あれは誰だろう。あれはなんだろう。金色の目はゆっくり下から細くなっている。それはいたずらっぽく笑っていた。その目が、上へと遠ざかる。ちがう。私たちが下へ下へ、下がっている?
次の瞬間、一陣のぬるい風と共に、地響きのような声が襲った。それが大きな口を開けたのだ、と私はわかった。夜空の藍色が黒に組み替えられていく。月も太陽も星もすべてをそれは飲み込もうとしていた。
――くわれる!
そんな異常事態にもかかわらず、夜は静かだった。緊急ニュースもパトカーもヘリもない。
私は常識をも操る巨大なそれを前に、途端に気味悪くなり、窓を閉め、カーテンを閉め、布団に潜り込んだ。私たちは無力な小人だった。だというのに、私たちは誰もこのことを知らない。
翌朝は、しんしんと降る雨だった。見慣れた朝だった。
その夜以来、気温はどんどん上昇し始めた。夏が来る。みんなはそう思っている。だが、そうではないことを私は知っている。この地球は、金色の目の持ち主によって食べられてしまったのだ!
雨脚は強くなり、傘から守り切れなかった私の肌に雨がにじむ。雨に触れるたび、ピリッとそのしずくが肌を焼く。それもそのはずだ。私たちはあれの胃の中で、確実にとかされていくのだから。これはあいつの胃酸の雨だ。
しかし、私は今日も変わらない日々を過ごす。怪物の胃の中で。
最近、じめじめして暑いですよね。
きのこは生き生きしておりますが。