王子に歯向かったら砂漠にポイされたんですけど
ショートショート
「その者を国外追放とし、永久にこの国を跨ぐ事叶わんとする。即刻立ち去るが良い!!」
「は、はぁ~~~!? なんでよ!!」
思わず抗議の声を上げるもその声は無視され、兵士2人に腕を捕まれ門の外へと投げられた。
「ちょっと! 女の子は大事に扱いなさいよ!!」
「すまねぇな嬢ちゃん。王子の命令には逆らえないんでね」
片方の兵士は握らされたコインを見せ多少申し訳なさそうに言った。
「フン! オレをコケにするのが悪いのだ。とっとと野垂れ死ぬんだな」
城壁の外は何もない砂漠。身一つで投げ出された私は、言葉通り死ぬしか道は無かった。
そして門は閉められ、私は一人砂漠の入り口に取り残された。
*
「いやぁ、しかし可哀想な事しますねぇ」
「なに、これは教育だ。1、2時間もすれば懲りるだろう。それまでオレはそこで休む。縋ってくるようであれば連絡しろ」
「はぁ」
そう言って王子は近くの喫茶店に行き、VIPルームで優雅にお茶を楽しむのであった。
「なあ、なんであのお嬢ちゃんは追放されたんだ?」
光輝くコインを大事に胸ポケットへ仕舞いつつ、相方の兵士に問いかける。
「詳しくは知らないんだが、なんでもあの子は王子の誘いを断り続けた挙句、同僚が王子に襲わそうな所を蹴り入れて助けたんだと」
「随分勝気な嬢ちゃんだこと。しっかしあの王子に目を付けられるとは災難なこった」
十何にもいる内の一人、王位継承権は無いもののお金はたっぷりとあり町に出ては傍若無人に振る舞い何人もが迷惑していた。
「ところでよ、あの子、砂漠の中を行っちまったみたいだが王子呼んでくるか?」
「やめとけやめとけ、変に関わったら面倒だ。それに、砂漠に向かった時の事なんて何も言われとらんしな」
「それもそうだな」
そんな会話が繰り広げられているとも露知らず、王子は異国よりもたらされた茶葉の味に舌鼓を打っていた。
*
「ああ~~~!! ほんとあいつ何様なの!! 王子様だけどさ!! 腹立つったらありゃしない!!」
雇われていた酒場で王子は数多の踊り子や女性従業員にちょっかいを掛けまくっていた。中にはそれがトラウマになり仕事が出来なくなる子や辞めていった子は数知れず。容姿が良い子は特に狙われ、今一番の踊り子は執拗に狙われ舞台まで荒らされることは日常茶飯事だった。
私はついに我慢の限界が来て王子に物申した。そして冒頭に戻るわけだが。
城壁を背に歩いていく。何も持たず広大な砂漠を行くのは死を意味するが、しかしあのクソ王子野郎にひれ伏すのだけは絶対に嫌だ。
「私は間違った事なんてしていない!」
空に向かって叫ぶ。賛同するものは誰一人いない。筈だった。
「俺もそう思うぜ」
「誰!」
振り向くと、目以外の全身を白い布で覆った、私よりも頭二つ分は大きい男がラクダを2頭連れ歩いてきていた。
「いつの間に後ろに!?」
「いや、結構な間後ろを歩いていたぜ。いつ気付くかなぁとか思ってたけど、全然気付かなくて面白かったよ」
目しか見えないけど、明らかににっこにこの笑顔をしているのが分かった。
「い、いや~~~っ! 恥ずかしい!! イライラして全っ然気付かなかった! でもなんで私に付いて……ハッ、もしかして襲う気!?」
「俺、子どもは趣味じゃな」
言い切る前に男の脛に向かって蹴りを入れた。
「いってぇ!! 何すんだ!!」
「子供じゃないわよ!! 立派な成人ですぅ!!」
確かに酒場で一番背が小さく子ども扱いは受けていたけれど。
「は? 成人なら胸がもっ」
「もう一回蹴られたいのね」
右足を上げ蹴る準備をする。
「いえ、なんでもございません」
「分かればよろしい」
「流石王子に噛みつくだけあるわ……」
「何か言った?」
「何でもねーよ」
「でもあなた、ならなんで私を追いかけてきたの?」
「昨晩、俺もいたんだよ、あの酒場に。だからまぁ、こうなるんじゃないかなと思ってな、助けに来た。あんたの踊りに一目惚れしちまったし」
「あ、あら、そう……」
思いがけない一言に顔が熱くなり、思わずそっぽを向く。
昨日は王子の横暴が一番酷く、酒は床にまき散らかり、何人かの踊り子たちが腕を掴まれ宿に連れていかれるところだったのだ。店長もなんとか止めようとしていたのだが、酔った王子に言葉は何も通じず、ついに私が出たというか出てしまったというか物理も出てしまったというか。
反省はしているけど後悔はしていない。孤児だった私を一人でも生きていけるように育ててくれた酒場の皆の為だったらこの命惜しくなんてない。
「で、まぁなんだ。提案なんだが。俺を雇わないか? ラクダ付きで」
「私何も持ってないわよ」
「気が向いた時でいい、俺の為に踊ってくれないか?」
「……いいわ、雇おうじゃないの! どうせこのまま一人歩いても死ぬだけだしね」
「おう! じゃあよろしくな。あ、メシ……」
「任せなさい! 酒場仕込みの腕前、みせてあげる!」
胸にどんと拳を叩きつけ胸を張る。
「助かる。生憎と料理はてんで駄目でな、いつも干し肉とかそんなんばっかりだったんだ。金や材料はこっちが出すから頼む」
「了解したわ! これからよろしくね、私はサーリャ」
男の前に手を差し出した。
「俺はキイチだ、よろしく」
キイチもその手を握りお互いに握手した。
「キーチ? んん、キィチ、キ、キイティ、言い難いわね」
「なんだっていいさ。その内言い慣れるだろ」
「それもそうね、長い旅になりそうだし」
「当てはあるのか?」
「私は踊り子よ。舞台がある限り、どこでだって生きられるわ。てことでまずは隣国テルマールを目指すわ!」
そういい、一つくるりと回り蠱惑的な目線をキイチに向けた。
「やっぱりサーリャの踊りは最高だな」
「ん、んんん……」
冗談めかして踊ったのに、真正面から褒められうっかり照れてしまう。
「そ、それじゃあ行きますか、テルマールへ!」
誤魔化すようにテルマールの方角に指を差す。
「ところで君、一人でラクダに乗れるかい?」
キイチに言われラクダを見る。生まれてこの方一度も乗ったことは無く、更に身長の低いサーリャには到底足が届きそうにない。
「……よろしくお願いするわ」
なんとも締まらない感じで私たちの旅が始まった。
*
2人が1頭のラクダに跨り旅を始めたその頃。
「おい、まだあの娘から命乞いは無いのか」
王子は兵士の一人を呼びつけサーリャの様子を問いただした。
「は、門の外からは何も声はありません」
声も何も、存在そのものが門から無いのだが。兵士は敢えてそれを言わず、ただ問われた事だけに答える。兵士たちもこの王子の所為で推しの踊り子たちが迷惑を被っているのを知っていたので、王子の味方をしようとするものはこの場にはいなかった。
「フン、仕方ない。このオレ自らが様子を見てやろうではないか」
そういうと王子は門へと向かい見張り台に上った。
「む……あの娘がいないではないか! オイお前! あの娘はどうした!」
「は、北西に向かって歩いていきました」
「なっ! この砂漠を何も持たず行ったというのか!」
「その通りでございます」
兵士はただ無表情に王子の質問に答えた。そうさせたのはお前だろうという怒りを抑えて。
王子は一人の少女を死なせてしまったという罪悪感に多少動揺しながら、王宮へとそそくさと帰っていった。しかし王宮でちやほやされるうちに、オレに逆らうのが悪い、という思考になりその内踊り子の事を忘れていった。
しかし後日踊り子を雇っていた酒場から正式な抗議が王宮へ行き、更にそのお店が人気の有名店ということもあり数多の陳情が王へ届けられ、これを深刻なものとし王子に処罰を命じた。
王子は廃嫡となり王宮の地下でひっそりと暮らすことを余儀なくされ、その後その王子を見るものはいなかったそうな。
サーリャはこれを知ることは無く、安住の地を見つけるまでキイチと楽しく踊り子の旅を続けるのであった。
キイチ(喜一)は異世界転移日本人
サーリャはちんちくりんの踊りの天才
15歳から成人でサーリャは16歳くらい