嫌悪の夢
できる限り見たまま、感じたままの記録。意味のない、記憶の世界。
あの日見た夢が、忘れられない。
眠っているときに見る方の夢。蜂に滅多刺しにされる夢だとか、湖に突き落とされる夢だとか、殺人鬼に拘束されて殺される夢だとか、無駄にインパクトが強いのは覚えている。でも、人が・・・それも女性が出てくる夢なんて、覚えていることはそうそうない。よほど深く刺さったのだろう。
==============================
何もない、ただ広いだけの和室。外は永遠に青空が広がっているだけで、風が、世界が感じられない。
私のすぐ側で、若い女性が仰向けに寝て、こちらを薄っすらと見つめている。時々、助けを求めるように瞬きをして。
知らない・・・はずの人。現実とも二次元とも、3DCGとも異なる不思議な顔立ち。不思議と違和感はなく、美しいとさえ感じる。
──気になるのは、刻まれた無数の切り傷と火傷のような痕。
なぜ?何があったのか?そして、彼女は誰なのか?・・・わからない。ただ心配と悲しみだけが膨れ上がる。
突然、私は立ち上がり、つられて世界が暗くなる。立っただけでなく、洞窟のような、トンネルのような狭い場所を、懸命に走っている。
目の前を、見知らぬ少女が走っている。先程の女性とは違う。私を導くように、迷いなく走っている。なぜか、少女が女性のことを知っているのはわかっている。
走りながらも、私は先程の女性が気になっている。戻りたい、という気持ちが溢れている。・・・同時に、あの女性のために行かなくてはと、歩みを止めるのを拒んでいる。
なぜあの女性のために走る?そもそも、向かった先に何がある?傷だらけの女性の何を救おうとしている?それがわからないのに、私は導かれるままに走っている。
途中で、・・・いや、終着する直前で気づく。
導く少女は笑っている。楽しそうな、無邪気な表情・・・だけではない。何かを思い出して嘲笑うかのような、歪んだ笑み。それに対して、私は不愉快に感じている。
そして、光が見えた。自然とスピードが上がる。先導の少女が光に消え、自分も飛び込む。
だが、出た先は水。息ができず、藻掻く。
薄れる意識の中見えたのは、指を指しながら笑う、顔のない観客たち。
──そして、やっと目が醒めた
==============================
覚えていることには、やはりわからないことが多い。
何も広がっていない世界はどこか。なぜ女性は傷を負っていたのか。私は何を探していたのか。彼女らは誰か。最後の水、顔のない観客は何を意味するのか。
もしかしたら、忘れている記憶かもしれないし、これから起こることの予知的なもの、はたまた、意味なんてないのかもしれないけど。
妙に気になった彼女らについては、いくらか考えをめぐらせた。例えば、女性とは遠い未来の恋人か親友の関係で、少女によって壊されたり奪われたりした・・・だとか。だとしたら、嘲笑っているように見えたことは、傷だらけの女性を見捨ててしまうことで辻褄が合う。私はマヌケで自己中心的だし、そこを突かれるぞ・・・なんていう予知かもしれない。
でも、今はそれはズレているんじゃないかと感じている。取り繕おうとするわけではないが、確かに女性のために走っていたはずだし、少女には良い感情を抱いていなかったはずだ。
結局、夢を見てから時間が経っているし、様々な解釈を挟んでしまったから。もうここに記した夢は、私が見た夢ではないのかもしれない。
一つ言えるのは、嘲笑われた対象は傷だらけの女性じゃない。
──導きの少女は、私に対して嘲笑っていたということだ。
似たような夢を見た人は、いるのでしょうか。