水泳の授業 後編
更新やや遅れ気味ですがなんとか書いています。
「魔法使いが水中で行使する魔法の中には、条約によって禁止されているものもあり、大変危険かつリスクの高いものが多いことは知っていますね?皆さんはまだ低学年ですから、まずは相手の魔法使いから逃げることを想定して、そのための魔法を身に付けなければなりません。本日教える魔法は『抵抗強化』『屈折率強化』『水圧強化』の三種類です。このうち、水圧強化の魔法は攻撃に向いた魔法でもありますので、運用には注意してください。」
エイヴリル師は児童に水中に入って魔法を使った水泳をするよう指示したため、俺たちはみんなで泳ぎ回る。自分の体力を使わずに水中を動き回れるのは非常に快適かつ清涼感のある運動のため、とても気持ちがいい。しかし、途端に前方に進むことができなくなる。それだけでなく周囲は天井の照明からの光が届かない真っ暗闇になり、体は水からの圧力を受けて締め付けられる。胸部が肺ごと締め上げられるため、残っていた空気を吐き出してしまう。俺はこっそり練習して習得していたニンジュツ、鰓呼吸の術を使って酸素を取り込もうとしたが、水はエラの中に流れ込んできてくれなかった。
これ死ぬんじゃないか。とうっすら思った頃には全てが元通りになり、グライアイに浮上するようにとのメッセージが届いたため急浮上する。
「先程皆さんに体験したいただいたのが、三つの魔法を同時に発動した状況です。三つ同時に発動するのって結構大変なんですよ?基本的には逃げる時には抵抗強化の魔法で敵周辺の水の抵抗を強化しましょう。速度に差がつけばそれだけ逃走の成功率が上がります。これは陸上でも空気抵抗の強化で応用できますので、覚えておいて損はないですね。屈折率強化の魔法は隠れる時に使用します。魔法使いはテクノロジー嫌いが多いので、基本的に熱探知や音響探知などをできるサイバネティクスを持ちません。視界さえ奪ってしまえば、隠れるだけでなく、グライアイ持ちの皆さんにとって非常に有利な状況を作ることができると思います。最後の魔法、水圧強化の魔法は敵の拘束や無力化のために使用することが多いですが…、殺害を目的として使用することもあります。学校のプール内においては監督者の許可なく使用することはないように覚えておいてください。来月行われる学校行事、『潮干狩り』では、万が一必要となる可能性もあるのえ、発動だけでもできるように備えておいて損はないでしょう。」
そういえばそんな行事があったと予定表を表示して見返す。海洋生物の観察と都市外の環境・気候への理解の促進を図るための学校行事として位置付けられているようだ。昨年の遠足が平野や山地だったため、今年は海浜方面の遠足として潮干狩りを行うことになっているのだろう。
「現地の海では害のありそうな生物がほどんどいない環境を作ってはありますが、有害な変異種が侵入してきた前例もありますので、皆さんしっかり対策しましょうね。それでは今からこれらの魔法の発動練習を行います。三つの魔法が安定して発動させることが出来る様になったら、みんなで鬼ごっこをしましょう。」
これらの魔法の練習は、非常に、今までにないほどに難航した。俺だけではなく、両親が魔法使いの家系から入園した児童にとっても、難易度の高い魔法であるようだった。抵抗強化の魔法は自分を巻き込んでしまっては意味がないため、自分から離れた位置に魔法を発動しなければならず、また相手の通過後に解除しなければ魔力を無駄に消費するため、解除のタイミングも測らなければならず、発動速度とグライアイとの連携による測量技術が求められた。
屈折率強化の魔法は先程とは異なり、常に魔法の効果範囲を相手の周囲に変更し続ける必要がある。高速で泳ぐ対象を相手に移動先を予測しながら魔法を維持し続けるのは高い集中力を必要が必要であり、面倒がって魔法の効果範囲自体を大きくして解決しようとすると今度は魔力の消費が激しくて成立しなくなる。
一番高度なのは水圧強化の魔法である。発動された魔法には「ムラ」のようなものが存在しており、例えば抵抗強化の魔法で発生させる水の「粘り」のようなものは場所によって差がある。これは指定した魔法の効果範囲に十分な速度で魔力供給できていないためによる出力の低下である。水圧強化の魔法はこれを許さない。圧力の強化に村が生じると相手は圧力の低い方向に移動するだけになってしまい、相手を拘束するどころか運んであげることになる。魔力を高速かつ均等に供給する能力が必要なのだ。
たかだか水中という局所で使用する魔法と侮っていたが、非常に基礎的基本的な魔法の技術を高めるための訓練にもなっている。エイヴリル師は侮れない教育者のようだ。この練習で得られるものは魔法の技術において重要な土台になる。それを確信して訓練するものとそうでないものの間には大きな差がある。今まで魔法の数ではクラスメイトに負けていたが、ここでリードの差を埋めることとしよう…
魔法を発動するには発動する対象を十分に認識している必要があります。遠隔で発動するには鋭敏な距離感の育成が必須であり、合衆国内では旧式のスポッターなどを利用して訓練しておりますが、マクサコフ内ではグライアイなどの眼球型サイバネティクスによる視覚補助によって訓練・実践共に効果的な魔法の発動を行うことができています。




